易感染性の宿主要因の解明によるレジオネラ感染対策をめざした研究

文献情報

文献番号
199700848A
報告書区分
総括
研究課題名
易感染性の宿主要因の解明によるレジオネラ感染対策をめざした研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
倉 文明(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Legionella pneumophilaの自然抵抗性を担うマウス遺伝子Lgn1はマクロファージで発現し、抵抗性の表現型マクロファージはその貪食腔中におけるL. pneumophilaの増殖を許さない。Lgn1はヒトでも相同領域がある。Lgn1の違いによりマウスマクロファージにおけるL. pneumophilaの増殖が100倍以上大きく異なり、Lgn1を同定し機能を解析することはL. pneumophila感染症の予防治療に重要である。本研究は主として、マウスLgn1領域をDNA解析し、L. pneumophila易感染性がヒトでもどの程度寄与するのか考察する。
研究方法
Lgn1遺伝子の候補を確定するため遺伝子導入選択交配マウスで組み替えがどこでおこっているか同定する必要がある。そこで(1)Lgn1周辺の染色体の位置マーカーとなるSTS(Sequence tagged site)をPCRプライマーによって増幅し、感受性のA/Jマウス、抵抗性のB10.Aマウスおよび抵抗性のコンジェニックマウスA.B10-Lgn1r の間で増幅される配列の違いを電気泳動度の差によりその配列がA/JかB10.A のどちら由来かを比較した。STSとしては、Scharf JMらによって報告されている1cM長のLgn1領域の左にあるMit36, Die6、DIe23、右にあるDie12、Die3, Mit70, Lgn1領域 にあるMit37, Die7, Die1Die6を使用した。これらより増幅される核酸の長さは120-320bpと期待された。
結果と考察
まず、PCRの条件を検討した。DNA polymeraseとしては、TaqよりもTaq goldのほうが、PCRで増幅される非特異的なバンドが少なく有用であった。ゲルは、2.5%あるいは4%のアンプリサイズアガロースが有用であった。その結果、(1)我々の作製したコンジェニックマウスにおいて、Die3は、電気泳動度のバンドが背景のA/Jと異なり、B10.A由来であった。Die3は、Lgn1から0.4cM離れていると報告されているので、少なくとも0.4cM以上がB10.Aマウスから由来していると判明した。(2)Lgn1領域の左端にあるSmn(Survival Motor Neuron)(約1200bp)は、Die6の近傍にある。Die6による増幅では、比較的濃いバンドが複数検出された。これまでのところ、Lgn1領域にあるSmnが、Lgn1機能を持つ遺伝子である可能性を排除できなかった。(3)レジオネラ自然抵抗性のC57BL/6バックグランドマウスにL. pneumophilaを静脈投与すると正常マウスでは脾臓、肝臓、肺の生菌数は経日的に減少したが、スーパーオキサイドを産生できない慢性肉芽腫症(CGD)モデルマウスではいずれの臓器でも感染1日目の菌の排除が遅れ、特に肝臓では菌が増加していた。自然抵抗性のマウスにも関わらずCGDマウスの肝臓で菌が増殖できたことは注目すべきである。感染1日目の肝臓の病理組織変化をみると、CGDマウスでは、正常マウスに比べて好中球と少数の単核細胞よりなる微細膿瘍形成が多数認められた。好中球集簇巣の周囲の肝細胞は壊死に陥つていた。(4)Lgn1r, CGDMφは正常Lgn1rMφと同様にL. pneumophilaの増殖を抑制した。考察:L. pneumophila に対するマウス自然抵抗性は、13番目の染色体上にあるLgn1領域で担われる。ヒトにもこの領域があり、神経のアポトーシスと関連した遺伝子があって神経と感染症との機能上の関わりが興味深い。これまでのところ、レジオネラの症例が多くは報告されていないので神経疾患との関わりは未知である。
結論
我々の作製したLegionella pneumophila感染抵抗性を支配するLgn1コンジェニックマウスでは、感受性のA/Jマウスバックグランドに、少なくとも0.4cMの抵抗性マウス染色体領域が入っていた。マウスマクロファージのL. pneumophila に対する自然抵抗性は、スーパーオキサイドの産生による殺菌以外の別の機構と考えられた。

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