HIV関連Lipodystrophyの克服に向けて

文献情報

文献番号
201029001A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV関連Lipodystrophyの克服に向けて
課題番号
H20-エイズ・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
秋田 定伯(長崎大学 病院 形成外科)
研究分担者(所属機関)
  • 白阪 琢磨(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター HIV/AIDS先端医療開発センター)
  • 吉野 宗宏(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター 薬剤科)
  • 菊池 嘉(独立行政法人国立国際医療研究センター病院 エイズ治療・研究開発センター)
  • 山本 有平(北海道大学 大学院医学研究科 形成外科)
  • 山下 俊一(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 原研細胞)
  • 上谷 雅孝(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 放射線科)
  • 藤岡 正樹(独立行政法人国立病院機構 長崎医療センター 形成外科)
  • 吉本 浩(長崎大学 病院 形成外科)
  • 宮崎 泰司(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 血液内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
24,536,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
リポディストロフィーに対する自家脂肪幹細胞治療の安全性と有効性を検討した。また薬剤とリポディストロフィーの関係について脂肪抽出由来幹細胞と抗HIV剤曝露との関係について分子検討し、臨床手術例および動物実験により術後脂肪の動態について検討し、薬歴について検討する。
研究方法
大阪医療センターではd4T、ddI、ddC( d”剤)を服用した患者を対象に臨床実態について、受診時に聞き取り調査を実施した。自家脂肪幹細胞移植を脂肪萎縮へ適応し、効果・安全性判定を行った。
結果と考察
大阪医療センターでは、平均年齢48.3歳、性別(男性87名、女性5名)、感染経路別(血液製剤由来12名、性感染80名)、HAART服薬期間(中央値):3650日(前医での服薬期間は含めていない)、 d”剤の服薬期間は1011日であった。
手術例4例は、術前、周術期、術後の厳密な管理のもと、臨床経過は問題なく一定の組織安定とされる術後6ヶ月以上経過で術前の10倍、3倍の組織量の増量を認めた。長崎医療センターでの他の臨床組織変化の検討では、瘻孔、組織壊死などの合併症を認めており、血友病患者の術後患者管理では血液製剤を適宜使用しつつ、“後出血”、“二次出血”など認めなかった。
脂肪組織幹細胞をプロテアーゼ阻害剤(ATV)への曝露実験において、全ての時期でATVが存在した場合では、脂肪細胞分化が顕著に抑制されることが明らかになり、ATVにより確認された脂肪細胞分化の抑制効果は、細胞密度が飽和に達し、分化誘導因子が作用する以降のプロセスで発現することがわかった。ATVの濃度依存的なアポトーシス陽性細胞の増加が確認され、ATVによる脂肪細胞分化抑制は、細胞分化プロセスに同期した細胞死誘導の増強によるものであることが証明された。
 HAART治療に伴うリポディストロフィーはいったん発症した後は、身体上の変化は継続しADLなどの機能的障害が顔貌の変化とともに認めた。ATVが、脂肪細胞分化プロセスの中で、細胞増殖にともなう細胞密度の増加ではなく、分化誘導因子と接触の段階でアポトーシスによる細胞死を誘導していることが明らかになった。

結論
d”剤投与患者での服薬、意識調査、長崎大学での顔貌萎縮に対する自家脂肪幹細胞移植と周術期管理、プロテアーゼ阻害剤(ATV)と脂肪幹細胞の曝露実験で得られた脂肪幹細胞と分化プロセスとの関連、長崎医療センターでの臨床例組織移植術での長期観察例での問題点と血友病・HIV患者の術後管理などについて報告した。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201029001B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV関連Lipodystrophyの克服に向けて
課題番号
H20-エイズ・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
秋田 定伯(長崎大学 病院 形成外科)
研究分担者(所属機関)
  • 白阪 琢磨(独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター HIV/AIDS先端医療開発センター)
  • 吉野 宗宏(独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター 薬剤科)
  • 菊池 嘉(独立行政法人 国立国際医療研究センター病院 エイズ治療・研究開発センター)
  • 山本 有平(北海道大学 大学院医学研究科 形成外科)
  • 山下 俊一(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 原研細胞)
  • 上谷 雅孝(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 放射線科)
  • 藤岡 正樹(独立行政法人 国立病院機構 長崎医療センター 形成外科)
  • 吉本 浩(長崎大学病院 形成外科)
  • 宮崎 泰司(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 血液内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
長期化・慢性化しつつあるHIV患者に続発するLipodystroph(リポディストロフィー)に対して、わが国に行ける実態を調査し、非侵襲性客観的指標を探索し、脂肪移植または脂肪組織由来幹細胞を用いた再生医療に向けた準備を行う。
研究方法
患者さんの臨床実態調査を主に大阪医療センター外来で実施し、臨床像の判定と服薬薬剤の関連性について調査し、ヒト脂肪由来幹細胞の培養条件と脂肪分化能の検討を実施し、手術から得られた患者脂肪組織由来幹細胞の培養条件を分担研究者 山下俊一、研究協力者 鈴木啓司らにより決定し、更に培養中における脂肪分化誘導を検討した。尚、幹細胞移植に関しては臨床研究倫理委員会承認番号 08070296「自家脂肪より抽出した幹細胞を用いた組織再生臨床研究の一環で実施した。
手術、検診患者はインフォームドコンセントのもと、三次元容量ヘリカルCTを用いたHIV患者及び正常ボランテイアにおける顔面、躯幹、四肢における脂肪分布を検討した。
移植脂肪組織の運命、現行臨床実際との比較検討を実施した。
結果と考察
大阪医療センターでの外来調査ではプロテアーゼ阻害剤、d”剤などのNRTIなど多様な組み合わせで認められるが、いったん発症した後は、身体上の変化は継続しADLなどの機能的障害が顔貌の変化とともに認めた。平成20年度から、47名の3次元CTを用いた皮下脂肪分布検討を実施した。自家脂肪再生細胞・幹細胞移植は平成21年度2名、平成22年度4名(うち1名は平成21年度と同一患者)に対して実施し、5名中4名は血友病患者であり、凝固因子による周術期管理を必要としたものの、大きな問題なく経過した。3次元CTを用いた術後再生皮下組織の動態では、いずれも術後6ヶ月以上の経過観察で有効な脂肪量と臨床的な改善を維持した。
患者脂肪由来幹細胞のプロテアーゼ阻害剤(ATV)曝露研究ではATVが、脂肪細胞分化プロセスの中で、HIV感染者由来脂肪幹細胞とHIV非感染患者由来脂肪幹細胞とで全く差は認められなかったことから、HIV感染に特有のものではなく、治療薬と同時にERストレスの阻害剤を併用することでLipodystrophyを改善できることを示した結果であった。
結論
主に大阪医療センターでの外来患者の調査にて薬剤との強い関連、中断後も継続する顔貌所見が確認された。自家脂肪幹細胞移植は安全で有力な治療方法であるが、ATV暴露に認められるようなERストレル改善薬の開発あるいは予防投与が重要であると推察された。

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201029001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
長期化・慢性化しつつあるHIV患者のリポディストロフィーに対して、わが国の実態を調査し、服薬歴、非侵襲性客観的指標を探索し、脂肪移植または脂肪組織由来幹細胞を用いた再生医療を世界に先駆けて実施した。また、得られた脂肪由来幹細胞の増殖性、分化能を検討したところ、患者吸引脂肪由来幹細胞のプロテアーゼ阻害剤(ATV)曝露研究ではATVが、脂肪細胞分化プロセスの中で、細胞増殖にともなう細胞密度の増加ではなく、分化誘導因子と接触の段階でアポトーシスによる細胞死の誘導を証明した。
臨床的観点からの成果
患者さんの臨床実態調査を主に大阪医療センター、更に国立国際医療センター病院 エイズ治療・研究開発センターで実施し、臨床像の判定と服薬薬剤の関連性について調査した。希望者に対して、3次元CT を用いた全身皮下脂肪分布定性・定量調査し、更に臨床上の重症例で、治療希望者に対して、自家脂肪幹細胞移植実施(血液製剤由来患者3例4回、女性感染者1例)についてインフォームドコンセントの下、治療し、安全で、臨床上の改善を認めた。 治療患者は生活の質の改善し、就職、社会活動に積極的に参加するようになった。
ガイドライン等の開発
平成20年度【HIV関連Lipodystrophyの克服に向けて 事例によるリポディストロフィー診断マニュアル】を、4例の3次元CTを用いた皮下脂肪分布を供覧しつつ、診断方法を呈示した。平成21年度【事例によるリポディストロフィー診断・治療マニュアル】を上梓し、新規2名の自家脂肪幹細胞移植症例の治療方法について提言した。平成22年度【事例によるリポディストロフィー診断・治療・経過観察マニュアル】上梓し、自家脂肪幹細胞治療例の1年後定量的脂肪組織観察、新規治療例2例の治療方法について提言した。
その他行政的観点からの成果
平成20年度から開始した臨床調査では主に大阪医療センターでの外来患者の調査にて薬剤との強い関連、中断後も継続する顔貌所見が確認された。長期化するHIV/エイズ治療の後遺障害対策の重要性を描出し、平成21年度 肝移植組織構築の兼松班、平成22年度長期療養対策の山下班の先駆けとなった。また、広く血液凝固異常症の長期療養恒久対策から、HIV 合同会議(平成22年11月16日 第1回、平成23年2月18日 第2回、平成23年第1回 6月17日(予定))への端緒的な研究班となった。
その他のインパクト
 平成21年度 第23回日本エイズ学会期間中 サテライトシンポジウムとしてHIV合併症対策についてのサテライトシンポジウムを白阪班、兼松班と3班合同で実施し、平成21年研究成果発表会を分担研究者所属機関である北海道大学にて実施し、リポディストロフィーの実態、発生メカニズム、自家脂肪幹細胞移植の効果と安全性について、啓発講演と中間報告した。平成22年度第24回日本エイズ学会共催セミナーとして慢性疾患して HIV/エイズ治療の問題点と展望について兼松班、山下班と共に報告した。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
19件
その他論文(英文等)
5件
学会発表(国内学会)
14件
学会発表(国際学会等)
23件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Akita S, Akino K, Hirano A, t al.
Non-cultured autologous adipose-derived stem cells therapy for chronic radiation injury.
Stem cells International , 1-8  (2010)
原著論文2
秋田定伯
厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策研究事業  HIV関連Lipodystrophyの克服に向けて(H20-エイズ-一般-001) 平成21年度 総括・分担研究成果報告書
総括研究報告 , 7-16  (2010)
原著論文3
秋田定伯
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業  プリオン病2次感染に対する現実的滅菌法の開発研究 5%次亜塩素酸ナトリウム 1N水酸化ナトリウムで消毒後に超音波洗浄の有無による鋭敏な器具の形状変化について 平成21年度 総括・分担研究報告書
分担研究報告 , 22-25  (2010)
原著論文4
秋田定伯
厚生労働科学研究費補助金 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業 献血推進のための効果的な広報戦略等の開発に関する研究 輸血液の需要に関する研究 平成21年度 研究報告書
分担研究報告 , 25-46  (2010)
原著論文5
秋田定伯
厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策研究事業  HIV関連Lipodystrophyの克服に向けて(H20-エイズ-一般-001) 平成20年度 総括・分担研究成果報告書
総括研究報告 , 1-7  (2009)
原著論文6
秋田定伯
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業  プリオン病2次感染に対する現実的滅菌法の開発研究 SDS処理によるステンレス刃の超音波洗浄後の電顕的検討 平成20年度 総括・分担研究報告書
分担研究報告 , 15-17  (2009)
原著論文7
秋田定伯
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業  プリオン病2次感染に対する現実的滅菌法の開発研究 SDS処理によるステンレス刃の電顕的検討 平成19年度 総括・分担研究報告書
分担研究報告 , 18-22  (2008)
原著論文8
Kuwahara T, Makie T, Yamamoto Y, et al.
Burden on AIDS-specialist Hospitals in Japan, Based on the Number of Patients Taking Anti-HIV Drugs
Pharmaceutical Regulatory Science , 39 , 421-426  (2008)
原著論文9
吉野宗宏
硫酸アタザナビルの血中濃度が高値の患者を対象とした、ATV/rからATV400へのスイッチ臨床試験結果
日本エイズ学会誌 , 11 , 50-53  (2009)
原著論文10
吉野宗宏
ロピナビル・リトナビル配合剤(LPV/r)の1日2回から1日1回投与へのスイッチ臨床試験結果
日本エイズ学会誌 , 11 , 80-84  (2009)

公開日・更新日

公開日
2014-05-26
更新日
-

収支報告書

文献番号
201029001Z