日本に存在する紅斑熱群リケッチアの疫学、アジア、アフリカのリケッチアとの比較

文献情報

文献番号
199700844A
報告書区分
総括
研究課題名
日本に存在する紅斑熱群リケッチアの疫学、アジア、アフリカのリケッチアとの比較
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
森田 千春(酪農学園大学獣医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では紅斑熱は限られた地域のみに分布している。しかし、未だ報告のない地域においても齧歯類を中心として抗体陽性例が認められる。これらの実態を解析し、その疫学的な意義を明らかとする事を目的とした。この為にアジア・アフリカとの比較検討も行った。
研究方法
北海道では主として江別市の森林で捕獲されたアカネズミ、ヒメネズミ、エゾヤチネズミについて抗体調査、PCR法による遺伝子の検出を行い、また、シュルツェマダニ、ヤマトマダニを中心としたマダニを採取し、PCR法による遺伝子の検出を行った。沖縄では齧歯類、イヌ及び此に寄生するクリイロコイタマダニについて同様の検査を行い、加えて国立感染症研究所より分与された住民の血清についても抗体調査を行った。アフリカ、ザンビアでは3つの州での住民の血清を採取し、併せて聞き取り調査を行い紅斑熱、発疹熱、Q熱について抗体調査及び疫学的分析を行った。インドネシアでは農村部と都市部のスラムで捕獲したラット属について同様の抗体調査を行い、また、都市の衛生状態を異にする港湾地区での住民、通勤労働者について発疹熱についての抗体調査を行った。
結果と考察
 北海道ではアカネズミ、エゾヤチネズミのように地上に生活ネズミには抗体が認められるのに対し、樹上生活時間の長いヒメネズミには殆ど抗体が認められない。またアカネズミについての年齢推定よりダニの発生する時期に生息していたものに抗体保有が高いことが見出され、ダニと抗体との間に関係があることが推定されたがPCRによるリケッチアの検出は成功していない。
沖縄ではリュウキュウハツカネズミを採集して抗体検査を行ったが陽性は認められなかった。一方、イヌでは飼育犬では殆ど抗体陽性を示さないのに対し、放浪犬では高い抗体陽性が認められた。人でも紅斑熱の流行地と同レベルの抗体保有が認められた。しかし飼育犬から採集されたクリイロコイタマダニからは現在までPCR法によるリケッチアの検出は成功していない。
ザンビアでは紅斑熱、Q熱については東部州、及び南部州の住民は北部州の住民と比較して高い抗体保有が認められた。これらの2つの地域は酪農地帯である。しかしながら個々の人の家畜との接触歴、家畜の飼育頭数と抗体保有との間には相関関係は認められなかった。一方、発疹熱では3つの州の間には抗体保有率の有為差は認められず、発疹熱リケッチアが広くザンビアに分布していることが判明した。
インドネシアの齧歯類の調査からは発疹熱は都市に多く認められ農村には少なく、紅斑熱は都市では少なく農村に多いことが認められた。また、都市ではクマネズミが発疹熱の媒介動物として、農村ではナンヨウネズミが主として紅斑熱の媒介に関与していることが判明した。インドネシアの都市における2つの港湾地区の調査では発疹熱に対する抗体保有率は衛生状態の比較的良い地区では住民の保有率は通勤者の夫れよりも低く、衛生状態の悪い地区では住民の抗体保有率は通勤者の夫れよりも高かった。また、クマネズミ、ジャコウネズミより採集したノミからPCR法により発疹熱リケッチアが検出された。
日本における調査では北海道には広く紅斑熱群に属するリケッチアが分布していることが明らかとなった。北海道では人のダニ咬症例からも抗体保有例は検出できない。しかし、より広く人の例に付き調査の必要がある。一方、沖縄では齧歯類ではなくイヌを媒介動物とする、感染環を異にするリケッチアの存在が疑われる。しかし、沖縄はつつがむし病も存在せず、紅斑熱様の患者は報告されていない。ザンビアで流行している紅斑熱はジンバブエと同様紅斑をつくることが少ないものと考えられる。ザンビアでの媒介動物は明らかでなく今後これらの関係を明らかにする必要がある。同様にインドネシアでは未だ紅斑熱は報告されていない。このリケッチアとわが国の関係については此から研究なされねばならない。
結論
 わが国で未だ人の紅斑熱が報告されていない地域である北海道、沖縄について調査を行い、北海道のではノネズミに紅斑熱抗体を認めたが未だその実態、人への感染性を明らかにするにはいたらなかった。沖縄についてはイヌ及び人に紅斑熱に対する抗体が認められたがネズミでは認められず、本州とは異なる感染環を有するリケッチアの存在が示唆された。
アジア・アフリカについては感染様式を異にする発疹熱、及びQ熱について同時に調査を行った。ザンビアの農村の人についての調査では発疹熱が地域差無く分布するのに対し、紅斑熱、Q熱は牧畜地域に高い分布が認められた。インドネシアについては都市部のスラムと農村でラット属、都市の衛生状態を異にする港湾地区の住民、通勤労働者での調査を行い、農村での紅斑熱の媒介ネズミと都市の夫れは異なること、都市の発疹熱の分布は住居地区の衛生状態と関係することを見出した。
わが国には複数の紅斑熱群リケッチアが存在する可能性が示唆された。特に沖縄の夫れは人への感染性を有し、他の国のリケッチアとの比較、疫学的特徴を明らかにする必要があると考えられた。

公開日・更新日

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