新型インフルエンザの発生予測、早期検知、リスク評価および大流行に対する事前準備と緊急対応に関する研究

文献情報

文献番号
201028005A
報告書区分
総括
研究課題名
新型インフルエンザの発生予測、早期検知、リスク評価および大流行に対する事前準備と緊急対応に関する研究
課題番号
H20-新興・一般-005
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
田代 眞人(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小田切 孝人(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 西藤 岳彦(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所)
  • 押谷 仁(東北大学大学院医学系研究科 微生物学分野)
  • 河岡 義裕(東京大学医科学研究所 分子ウイルス学分野)
  • 鈴木 康夫(中部大学 生命健康科学部)
  • 喜田 宏(北海道大学大学院獣医学研究科 人獣共通感染症リサーチセンター)
  • 岡部 信彦(国立感染症研究所 感染症情報センター )
  • 高橋 宜聖(国立感染症研究所 免疫部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
150,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
弱毒型のH1N1インフルエンザ大流行では健康被害と社会的影響は軽微だったが、この間にも流行拡大をしているH5N1高病原性鳥インフルエンザが新型インフルエンザとして大流行した際には、未曾有の健康被害と社会機能の麻痺・崩壊が予想される。軽微から重篤なものまで幅広いパンデミックの違いを規定する科学的基盤の解明と、発生予測、早期検知、リスク評価と事前準備・緊を検討した。
研究方法
(1) 様々なシナリオにおける新型インフルエンザ出現機序の解明と出現予測方法の開発
(2) 新型インフルエンザ出現を早期検知監視体制と様々なシナリオでのリスク評価方法の確立
(3) 新型インフルエンザウイルス迅速診断キットの開発・改良・実用化
(4) 新型ワクチンの緊急開発・増産・供給・接種体制の確立
(5) 抗ウイルス剤の有効な備蓄方法と使用方法の確立
(6) 感染病理機構の解明に基づく経鼻投与ワクチン、組織培養ワクチンの開発
結果と考察
1)H1N1pdmウイルスのウイルス学的性状、遺伝子構造、病原性、抗原性、免疫エピトープ、抗ウイルス剤感受性及び分子病態解析及び動物感染実験を行った。ウイルスは4種類のブタウイルスの交雑体で、弱毒型だが、季節性ウイルスよりはやや病原性が強く、多くのトリ型ウイルスの性状を保持し、未だ十分にヒト型には変化していない。これらに基づき、健康被害と社会的影響に対するリスク評価と予測並びに診断キットの開発、新型ワクチン開発を行った。
2)H5N1およびH1N1pdmウイルス感染診断系を開発し、検疫所、地方衛生研究所へ技術移転し、診断検査が可能となった。
3)オセルタミビル耐性ウイルスの全国緊急調査を行った。H21年はH1N1の99%が耐性だったが、ザナミビル感受性、抗原性はワクチン株類似であった。H1N1pdmウイルスでは70株の耐性株を同定したが、拡大傾向はなかった。
4)H5N1およびH1N1pdmウイルスがヒトへ伝播可能とするレセプター認識変異の簡便測定技術を開発し、パンデミック発生を分子レベルで事前に監視できる可能性を得た。
結論
新型インフルエンザ大流行による健康被害の最小化と、社会・経済機能の崩壊を防止する為にはH5N1による最悪のパンデミックシナリオに基づいた、必要、十分な事前準備と緊急対応計画の実施が必要である。

公開日・更新日

公開日
2011-09-20
更新日
-

文献情報

文献番号
201028005B
報告書区分
総合
研究課題名
新型インフルエンザの発生予測、早期検知、リスク評価および大流行に対する事前準備と緊急対応に関する研究
課題番号
H20-新興・一般-005
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
田代 眞人(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小田切 孝人(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 長谷川 秀樹(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター )
  • 西藤 岳彦(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所)
  • 押谷 仁(東北大学大学院医学系研究科 微生物学分野)
  • 河岡 義裕(東京大学 医科学研究所 分子ウイルス学分野)
  • 鈴木 康夫(中部大学 生命健康科学部)
  • 喜田 宏(北海道大学大学院 人獣共通感染症リサーチセンター)
  • 岡部 信彦(国立感染症研究所 感染症情報センター )
  • 高橋 宜聖(国立感染症研究所 免疫部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最悪のシナリオにおけるパンデミック時の健康被害を最小限にとどめ、社会機能の維持を目的として、新型インフルエンザの発生予測、早期検知、リスク評価方法を確立し、事前準備と緊急対策計画の策定とその実施に必要な理論的、技術的な基盤を確立・提供し、危機管理体制の確立に寄与する。
研究方法
(1) 様々なシナリオにおける新型インフルエンザ出現機序の解明とそれに基づく出現予測方法の開発
(2) 新型インフルエンザ出現を早期検知監視体制と様々なシナリオでのリスク評価方法の確立
(3) 新型インフルエンザウイルス迅速診断キットの開発・改良・実用化
(4) 新型ワクチンの緊急開発・増産・供給・接種体制の確立
(5) 抗ウイルス剤の有効な備蓄方法と使用方法の確立
(6) 感染病理機構の解明に基づく経鼻投与ワクチン、組織培養ワクチンの開発
結果と考察
①鳥で流行中のインフルエンザウイルスの遺伝子、抗原性、生物性状等を比較検討し、新型インフルエンザ出現の可能性、健康被害、社会的影響等のリスク評価を行った。H5N1は徐々にヒト型に変化しており、新型インフルエンザへの進展と、ヒトに対する高病原性が維持される可能性が高いと判断された。
②渡り鳥及び家きん材料から多数のインフルエンザAウイルスを分離同定した。これらは、北方の営巣湖沼がH5N1で汚染されていることを示している。
③鳥ウイルスのヒト型への変身要因として、HA蛋白レセプター認識部位の変異とRNAポリメラ―ゼ変異による低温の増殖性が示された。遺伝子解析から、H5N1型はヒト型へ、さらに上気道で効率よく増殖するようになってきている。またウイルス継代によりヒト型への変異が生じて蓄積することが示された。
④トリ(及びヒト)への強毒性は、ヒト型への変異要因とは異なる数カ所の遺伝子部位が規定している。流
行中のH5N1ウイルスでは弱毒化の傾向は無く、H5N1新型ウイルスには、強毒性が維持される可能性
が高い。
⑤インドネシア・中国で鳥型H5N1ウイルスがブタに不顕性感染しており、ヒト型への変化が危惧される。
⑥マウスでプレパンデミックワクチン(NIBRG-14、Anhui株)の感染防御機構を解析した。H5N1ワクチンはH1N1ワクチンに比べ抗NA抗体の惹起能が高く、これが抗HA抗体と協調的に感染防御に寄与していた。
結論
新型インフルエンザ大流行による健康被害の最小化と、社会・経済機能の崩壊を防止する為にはH5N1による最悪のパンデミックシナリオに基づいた、必要、十分な事前準備と緊急対応計画の実施が必要である。

公開日・更新日

公開日
2011-09-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201028005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1)様々なシナリオにおける新型インフルエンザ出現機序の解明と出現予測方法の開発
2)新型インフルエンザ出現早期検知体制とリスク評価方法の確立
3)新型ウイルス迅速診断キットの開発
4)新型ワクチンの緊急開発・増産・供給・接種体制の確立
5)抗ウイルス剤の備蓄方法と使用方法の確立
6)感染病理機構の解明と経鼻投与、組織培養ワクチンの開発
以上の成果を活用し、最悪のシナリオにおける新型インフルエンザ大流行による健康被害の最小化と、社会・経済機能崩壊の防止が期待される。
臨床的観点からの成果
記載事項なし
ガイドライン等の開発
1.Human infection with pandemic (H1N1) 2009 virus:WHO guidance on global surveillance 10 July 2009
2.Potential risks of pandemic (H1N1) 2009 influenza virus at the human-animal interface 3 June 2009


その他行政的観点からの成果
新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括検討会議報告書(平成23年9月)の作成
新型インフルエンザ専門家会議意見書(平成23年2月)の作成
その他のインパクト
記載事項なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
129件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
90件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakauchi, M.,Yoshikawa, T., Nakai, H., et al.
Evaluation of reverse transcription loop-mediated isothermal amplification assays for rapid diagnosis of pandemic influenza A/H1N1 2009 virus.
J. Med. Virol. , 83 , 10-15  (2011)
原著論文2
Kageyama, T., Shirakura, M., Kishida, N.,et al.
Establishment of a diagnostic system for the pandemic influenza A (H1N1) 2009 virus in Japan using conventional and real-time RT-PCR assays.
Jpn. J. Infect. Dis.  (2011)
原著論文3
The WHO-ECDC writing committee
Public health implications of oseltamivir resistance emergence in pre-pandemic influenza A(H1N1) viruses during the 2007-2009 seasons
J. Influenza. Resp. Viral Infect  (2010)
原著論文4
Nakauchi, M., Ujike, M., Obuchi, M.,et al.
Rapid discrimination of oseltamivir-resistant 275Y and -sensitive 275H substitutions in the neuraminidase gene of pandemic influenza A/H1N1 2009 virus by duplex one-step RT-PCR assay.
J. Med. Virol.  (2010)
原著論文5
Ichinohe, T., Ainai, A., Nakamura, T.,et al.
Induction of cross-protective immunity against influenza A virus H5N1 by an intranasal vaccine with extracts of mushroom mycelia
J. Med. Virol. , 82 , 128-137  (2010)
原著論文6
Committee of WHO Consultation on N.H.I. V.C.
Epidemiological, antigenic and genetic characteristics of seasonal influenza A(H1N1), A(H3N2) and B influenza viruses
Vaccine , 28 , 1156-1167  (2010)
原著論文7
Nakajima, N., Hata, S., Sato, Y.,et al.
First autopsy case with pandemic influenza (A/H1N1pdm) virus infection in Japan : Detection of high copy number of the virus in type II alveolar epithelial cells by pathological and virological examination.
Jpn. J. Infect. Dis. , 63 , 2010-2015  (2010)
原著論文8
8 Ujike, M., Shimabukuro, K., Mochizuki, K., et al.
Detection of oseltamivir-resistant influenza viruses in Japan during the 2007-2009 influenza seasons Emerg.
Infect. Dis. , 16 , 926-935  (2010)
原著論文9
Shiino, T., Okabe, N., Yasui, Y.,et al.
Molecular evolutionary analysis of the influenza A(H1N1)pdm viruses, May–September, 2009: Temporal and spatial spreading profile of viral isolates in Japan
PLoS ONE , 5 (6) , 11057-  (2010)
原著論文10
Kawakami, C., Obuchi, M., Saikusa, M., et al.
Outbreaks of oseltamivir-resistant influenza A/H1N1 virus in an elementary school and a family in Yokohama City, Japan during the 2007-2008 season.
Jpn. J. Infect. Dis. , 62 , 83-86  (2009)
原著論文11
Takahashi, Y.,Hasegawa, H., Hara, Y.,et al.
Protective immunity afforded by H5N1 (NIBRG-14) - inactivated vaccine requires both antibodies against hemagglutinin and neuraminidase in mice.
J. Infect. Dis. , 199 , 1629-1637  (2009)
原著論文12
Wada,T.,Morishima, T., Okumura, A., et al.
Differences in clinical manifestations of influenza-associated encephalopathy by age.
Microbiol. Immunol. , 53 , 83-88  (2009)
原著論文13
Ikeno, D., Kimachi, K., Kudo, Y.,et al.
The prime-boost vaccination of H5N1 heterologous strains in a mouse model
Vaccine , 27 , 3121-3125  (2009)
原著論文14
Thongratsaku,S., Songserm,T.,Poolkhet,C.,et al.
Determination of N-linked sialyl-sugar chains in the lungs of domestic cats and dogs in Thailand susceptible to the highly pathogenic avian influenza virus (H5N1).
Open Glycoscience , 2 , 28-36  (2009)
原著論文15
Ichinohe,T.,Tashiro, M.,Sata,T.,et al.
PolyI:PolyC12U adjuvant-combined intranasal vaccine protects mice against highly pathogenic H5N1 influenza virus variants.
Vaccine , 27 , 6276-6279  (2009)
原著論文16
Tashiro,M.,McKimm-Breschkin,J.,Saito,T.,etal.
Surveillance for neuraminidase inhibitor-resistant influenza viruses in Japan, 1996-2007.
Antiviral Therapy , 14 , 751-761  (2009)
原著論文17
WHO/OIE/FAO H5N1 Evolution Working Group
Continuing progress towards a unified nomenclature for the highly pathogenic H5N1 avian influenza viruses: divergence of clade 2.2 viruses.
J. Influenza.Resp.Viral Infect. , 3 , 59-62  (2009)
原著論文18
Sriwilaijaroen, N., Wilairat, P., Hiramatsu, H.,et al.
Mechanisms of the action of povidone-iodine against human and avian I influenza A viruses: its effects on hemagglutination and sialidase activities.
Virology J. , 6 , 124-  (2009)
原著論文19
Bertozzi, S., Kelso, A., Tashiro, M.,et al.
Pandemic flu: from front lines.
Nature , 461 , 20-21  (2009)
原著論文20
Russell, C. A., Jones, T. C., Barr, I. G.,et al.
The global circulation of seasonal influenza A(H3N2) viruses 
Science , 320 , 340-346  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
2016-06-27

収支報告書

文献番号
201028005Z