我が国における日本脳炎の現状と今後の予防戦略に関する研究

文献情報

文献番号
201028003A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国における日本脳炎の現状と今後の予防戦略に関する研究
課題番号
H20-新興・一般-003
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
高崎 智彦(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 倉根 一郎(国立感染症研究所)
  • 小西英二(神戸大学医学部基礎医療学)
  • 多屋馨子(国立感染症研究所感染症情報センター)
  • 砂川富正(国立感染症研究所感染症情報センター)
  • 竹上 勉(金沢医科大学総合医学研究所)
  • 森田公一(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 脇口 宏(高知大学医学部小児思春期学講座)
  • 寺田喜平(川崎医科大学小児科学講座)
  • 玉那覇康二(沖縄県衛生環境研究所)
  • 原田誠也(熊本県保健環境科学研究所)
  • 前田 健(山口大学農学部)
  • 田部井由紀子(東京都健康安全研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
22,680,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本脳炎(日脳)は、2005年5月より予防接種の積極的勧奨が中止されている。日脳ワクチンは定期接種のままだが、就学時前小児の接種率は極端に低下している。このような状況で日本脳炎の現状を解明することが目標である。
研究方法
1)我が国における日脳の自然感染率、不顕性感染率を調査し発症率を解析するツールとして開発したNS1抗体検査法の技術移転のためのプロトコルを作成し、2施設に技術移転を試みた。2)急性ウイルス性脳炎における日脳に関する検査の実施及び発症時の病態(髄膜炎、脊髄炎、熱発)等を明らかにし、サーベイランス法を見直すために抗日脳IgM捕捉ELISA法を標準化した。これを用いて東京都、熊本県の原因不明無菌性髄膜炎や脳炎の髄液225検体について、IgM Capture ELISAによりIgM抗体を検査した。3)ブタ以外の日脳ウイルス増幅動物の検討、伴侶動物および野生動物の感染状況の調査、国内で活動する日脳ウイルスの病原性を解析する。2年間の成果として、犬が高い抗体保有率を示したことから、感染実験を行った。
結果と考察
NS1抗体ELISA法により計算された年自然感染率は、約2%であったが本ELISA法の技術のためのプロトコルを作成し、2施設に試験的に技術移転を実施した。日本脳炎患者は山口県で6歳小児例、長崎、三重、高知県で高齢者症例が各1例の4例であった。熊本県、東京都の夏季の原因不明急性脳炎、髄膜炎の髄液約600について日本脳炎特異的IgM抗体検査の結果、熊本県の3症例でIgM抗体が陽性であった。夏季の急性脳炎に関して、日本脳炎の検査(髄液中のIgM抗体検査)が必要である。また、抗体調査で高い陽性率を示した犬に関して、日脳ウイルス感染実験を実施した。その結果、犬は日脳ウイルスに感染はするが、ウイルス血症は検出されず増幅動物としての危険性はなく、人への感染リスクの歩哨動物として有用であることが明らかとなった。日本、東南アジア、中国の分離日脳ウイルスの遺伝子解析の結果、インドシナ半島北部のJEVが、比較的頻繁に日本に飛来する可能性とともに、移動しないJEVが存在することが明らかになった。
結論
日本国内の日脳ウイルスの活動は依然として夏季には活発であり、ヒトや動物への自然感染は存在し、夏季の原因不明脳炎・髄膜炎症例中には日本脳炎が紛れている可能性が高い。

公開日・更新日

公開日
2011-09-05
更新日
-

文献情報

文献番号
201028003B
報告書区分
総合
研究課題名
我が国における日本脳炎の現状と今後の予防戦略に関する研究
課題番号
H20-新興・一般-003
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
高崎 智彦(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
  • 倉根一郎(国立感染症研究所)
  • 小西英二(神戸大学医学部)
  • 多屋馨子(国立感染症研究所感染症情報センター)
  • 砂川富正(国立感染症研究所感染症情報センター)
  • 竹上 勉(金沢医科大学総合医学研究所)
  • 森田公一(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 脇口 宏(高知大学医学部)
  • 寺田喜平(川崎医科大学)
  • 玉那覇康二(沖縄県衛生環境研究所)
  • 原田誠也(熊本県保健環境科学研究所)
  • 前田 健(山口大学農学部)
  • 田部井由紀子(東京都健康安全研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本脳炎(日脳)は、2005年5月より予防接種の積極的勧奨が中止されている。日脳ワクチンが定期接種からはずれたわけではないが、就学時前の小児の予防接種率は極端に低下している。このような状況下で日本脳炎の現状、日脳ウイルスの活動状況を解明する。
研究方法
1.我が国における日本脳炎の自然感染率、不顕性感染率を調査し、発症率を解析する。NS1抗体ELISA法を技術移転する2.急性ウイルス性脳炎における日本脳炎に関する検査の実施率及び発症時の病態(髄膜炎、脊髄炎、熱発)等を明らかにする。3.ブタ以外の日本脳炎ウイルス増幅動物の検討、国内で活動する日本脳炎ウイルスの病原性の解析をする。犬への日本脳炎ウイルス感染実験を実施した。
結果と考察
NS1抗体ELISAにより計算された年自然感染率は、熊本県で1.8%、東京都で1.3%であった。ワクチン非接種者の中和抗体陽性率からは、9歳以下の集団を対象にした場合、熊本県及び東京都では共に2.6%と推定された。NS1抗体ELISA法の技術移転のためのプロトコルを作成し、2施設に試験的に実施した。熊本県、東京都の夏季の原因不明急性脳炎、髄膜炎の髄液約600検体について、RT-PCR法よるウイルス遺伝子検査および日本脳炎特異的IgM抗体検査の結果、ウイルス遺伝子は全例陰性であったが、熊本県の3症例でIgM抗体が陽性であった。夏季の急性脳炎に関して、日本脳炎の検査(髄液中のIgM抗体検査)が必要である。動物の感染状況は、2008年12月に兵庫県で捕獲されたイノシシから日脳ウイルスが分離された。また犬に関しては室外犬で45%、室内犬で8%であり、四国・九州で高く東北地方は9%、北海道は0%であった。またシカの抗体保有率は94%であった。抗体調査で高い陽性率を示した犬に関して、日脳ウイルス感染実験を実施した。その結果、犬は日脳ウイルスに感染はするが、ウイルス血症は検出されず増幅動物としての危険性はなく、人への感染リスクの歩哨動物として有用であることが明らかとなった。日本、東南アジア、中国の分離日脳ウイルスの遺伝子解析の結果、インドシナ半島北部のJEVが、比較的頻繁に日本に飛来する可能性とともに、移動しないJEVが存在することが明らかになった。
結論
日本国内の日脳ウイルスの活動は依然として夏季には活発であり、ヒトや動物への自然感染は存在し、夏季の原因不明脳炎・髄膜炎症例中には日本脳炎が紛れている可能性が高い。今後も予防接種は必要であり接種率を高める必要がある。

公開日・更新日

公開日
2011-09-05
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201028003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
日本脳炎ウイルスが、野生動物のなかで越冬したり、東南アジアから移動してきている可能性を明らかにした。また、ヒトの住環境で生活する飼育犬が高い日本脳炎抗体価を保有することを明らかにした。不活化ワクチンには含まれない非構造蛋白(NS1)に対する抗体検査法を開発、改良した。国内のブタ、蚊から日本脳炎ウイルスを分離し、遺伝子解析したところ日本脳炎ウイルスゲノム3’非翻訳領域内可変領域にいくつかのパターンで欠損が認められた。
臨床的観点からの成果
日本脳炎ウイルスによる年自然感染率は、NS1抗体想定では熊本県で1.8%、東京都で1.3%であった。ワクチン非接種者の中和抗体陽性率からは、9歳以下の集団を対象にした場合、熊本県及び東京都では共に約2%と推定され、ヒトにおいても感染リスクが存在することが確認された。夏季の原因の特定されない急性脳炎に関して、日本脳炎の検査(髄液中のIgM抗体検査)を実施することで日本脳炎が存在することを明らかにした。
ガイドライン等の開発
不活化ワクチンに含有されない日本脳炎ウイルス非構造蛋白NS1に対する抗体を測定するELISA法の技術移転のためのプロトコルを作製した。
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
西日本の飼育犬が日本脳炎抗体を高率に保有すること、地域別では四国や九州で高く、室外犬で45%、室内犬でも8%陽性であることなどが朝日新聞(2009年10月30日付)で報道された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
51件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shimoda H,Ohno Y,Mochizuki M,Okuda M,et al.
Dogs as sentinels for human infection with Japanese encephalitis virus
Emerging Infectious Diseases. , 16 (7) , 1137-1139  (2010)
原著論文2
Tajima S.,TakasakiT.,Kurane I.
Restoration of replication defective dengue type 1 virus bearing mutations in the Nterminal cytoplasmic portion of NS4A by the additional mutations in the NS4B
Archives of Virology , 156 , 63-69  (2011)
原著論文3
Tajima, S.,Nerome, R., Nukui, Y., Kato, F., Takasaki, T., Kurane, I.
A single mutation in the Japanese encephalitis virus E protein (S123R) increases its growth rate in mouse neuroblastoma cells and its pathogenicity in mice.
Virology , 396 , 298-304  (2010)
原著論文4
Yoko Kitai,Takashi Kondo, Eiji Konishi
Non-structural protein 1 (NS1) antibody-based assays to differentiate West Nile (WN) virus from Japanese encephalitis virus infections in horses: Effects of WN virus NS1 antibodies induced by inactivated WN vaccine
J Virological Method , 178 , 123-128  (2011)
原著論文5
Tomohiro Ishikawa, Eiji Konishi
Combating Japanese encephalitis: Vero-cell derived inactivated vaccines and the situation in Japan
Future Virol , 5 , 785-799  (2010)
原著論文6
Jun-ichi Imoto, Tomohiro Ishikawa, Atsushi Yamanaka, Misako Konishi, et al
Needle-free jet injection of Japanese encephalitis DNA and inactivated vaccine mixture induces neutralizing antibodies in miniature pigs and protects against fetal death and mummification in pregnant sows.
Vaccine , 28 (46) , 7373-7380  (2010)
原著論文7
Miwa Kuwahara, Eiji Konishi
Evaluation of extracellular subviral particles of dengue virus type 2 and Japanese encephalitis virus produced by Spodoptera frugiperda cells for use as vaccine and diagnostic antigens
Clin. Vaccine Imunol. , 17 (10) , 1560-1566  (2010)
原著論文8
Eiji Konishi, Yoko Kitai, Kouichi Nishimura, Seiya Harada
Antibodies to bovine serum albumin in human sera: problems and solutions with casein-based ELISA in the detection of natural Japanese encephalitis virus infections
Japanese J. Infect. Dis. , 63 (4) , 296-298  (2010)
原著論文9
Yoko Kitai, Takashi Kondo, Eiji Konishi
Complement-dependent cytotoxicity assay for differentiating West Nile virus from Japanese encephalitis virus infections in horses
Clinical and Vaccine Immunology , 17 (5) , 875-878  (2010)
原著論文10
Eiji Konishi, Yoko Kitai, Yukiko Tabei, Kouichi Nishimura et al.
Natural Japanese encephalitis virus infection among humans in west and east Japan shows the need to continue a vaccination program
Vaccine , 28 (14) , 2664-2670  (2010)
原著論文11
Nabeshima T, Morita K
Phylogeographic analysis of the migration of Japanese encephalitis virus in Asia
Future Virology , 5 , 343-351  (2010)
原著論文12
Ohno Y, Sato H, Suzuki K, Yokoyama M, Uni S. et al.
Detection of antibodies against Japanese encephalitis virus in raccoons, raccoon dogs and wild boars in Japan
J. Vet. Med. Science , 71 , 1035-1039  (2009)
原著論文13
Nidaira M, Taira K, Okano S, Shinzato, T, et al
Survey of Japanese Encephalitis Virus in Pigs on Miyako, Ishigaki, Kume, and Yonaguni Islands in Okinawa
Jap. J. Infect. Dis. , 62 , 222-224  (2009)
原著論文14
Konishi E, Kitai Y.
Detection by ELISA of antibodies to Japanese encephalitis virus nonstructural 1 protein induced in subclinically infected humans.
Vaccine , 27 , 7053-7058  (2009)
原著論文15
Yamanaka A, Mulyatno KC, Susilowati H, Hendrianto E, et al
Prevalence of Antibodies to Japanese Encephalitis Virus among Pigs in Bali and East Java, Indonesia, 2008
Jap. J. Infect. Dis. , 63 , 58-60  (2010)
原著論文16
Konishi E, Sakai Y, Kitai Y, Yamanaka A.
Prevalence of antibodies to Japanese encephalitis virus among inhabitants in Java Island, Indonesia, with a small pig population.
Am. J Trop Med Hyg. , 80 , 856-861  (2009)
原著論文17
Konishi E
Status of natural infection with Japanese encephalitis virus in Japan: Prevalence of antibodies to the nonstructural 1 protein among humans and horses
Vaccine , 27 , 7129-7130  (2009)
原著論文18
前田明彦、脇口 宏
新時代のワクチン戦略について考える 各論 1. 勧奨接種のワクチン―現行ワクチンの問題点と将来に向けて 2) 日本脳炎
臨床検査 , 54 , 1367-1382  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
2015-06-30

収支報告書

文献番号
201028003Z