媒介動物による感染症の防御対策に関する研究

文献情報

文献番号
199700841A
報告書区分
総括
研究課題名
媒介動物による感染症の防御対策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
青井 義隆(成田空港検疫所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
WHOの報告によれば、ここ20年間に30以上の新興感染症が報告され、マラリア等の再興感染症も世界的に問題となっている。この理由として航空機をはじめとした交通手段の発達、国際化の急激な進展による人と動物の移動の増大が挙げられる。このために熱帯や亜熱帯地域に広く分布し、蚊によって媒介されるマラリアやネズミによって媒介されるペスト等が日本に侵入する危険性が高まっている。本研究では主として成田空港におけるベクターの侵入実態を明らかにし、感染の未然防止を図るサーベイランスシステムの在り方について提言することを目的とする。
研究方法
成虫蚊の場合、マラリア等の流行地からの来航機を対象に、また政令区域内において捕虫網及び吸虫管を用いて採取した。ネズミ族の捕獲には捕そ器を用い、国際線航空機によって侵入したネズミは、航空会社及び関係機関からの通報、協力によって、捕獲した。何れの場合も成書に従って検査した。一方、他検疫所のデーターを収集し、解析を加えた。
結果と考察
成田空港においては、全調査航空機の5.3%から蚊を採取した。その種類はハマダラカ属、ヌマカ属、ヤブカ属及びイエカ属の4属18種で、我が国に常在しない蚊
が9種確認された。採取された蚊のうち、黄熱、デング熱媒介蚊であるネッタイシマカが
2機から、マラリア媒介蚊のハマダラカが8機から採取された。成田空港の政令区域内ではヤブカ属、ハマダラカ属、イエカ属、クロヤブカ属、ナガハシカ属、チビカ属、ヌマカ属の7属30種が採取されている。また、政令区域内においては、マラリア媒介蚊であるシナ ハマダラカが通年的に存在することが明らかとなった。以上の結果から蚊族に対する調査を強化する必要があり、航空機内の調査も、客室のみならず貨物室、貨物機にも積極的に対応する必要があると考えられる。ネズミ族の捕獲調査においては、政令区域内では家ネズミとしてクマネズミ、ドブネズミ、ハツカネズミの3種で、野ネズミはアカネズミ、ハ タネズミ、ヒメネズミの3種であり、屋外では草原、畑地に囲まれているため、野ネズミ
は家ネズミに比べて圧倒的に多かった。旅客ターミナルビル等ではクマネズミしか捕獲出来なかった。航空機へのネズミ族の侵入は貨物そのものに紛れ込んでいる場合、貨物梱包時、または貨物上屋においてコンテナに積み込む時紛れ込む場合、機内清掃の用具等に紛れて持ち込まれる場合等が考えられる。これらのことから国外から侵入したネズミが生息もしくはその寄生ノミが在来ネズミに伝播する場所は、貨物地区、特に手荷物コンテナの仕分場、旅客ターミナルビル内、ごみ捨て場などが考えられるので、調査はこれらの施設及び施設周辺を重点的に行うべきである。航空機を介してのネズミの移入事例は航空会社や関連事業所の協力を得て過去に13件(13頭)把握している。いずれにしても、検疫所の調査活動には限界があるので関係事業所や地方機関の協力も得てネズミの捕獲調査を実施することが望まれる。 
結論
1.外国では「空港マラリア」が散発していること、地球の温暖化に伴い熱帯・亜熱帯性の媒介蚊の侵入増が考えられることから、航空機内の調査は客室のみならず貨物室及び貨物機にも積極的に対応する必要がある。成田空港の政令区域にはマラリアを媒介するシナハマダラカが常在しており、外来蚊の侵入防止のためにも今以上に積極的に調査を続ける必要がある。   
2.政令区域のネズミ族に対する調査は、検疫所独自の実施に留まらず、関係事業所や地方機関の協力も得て実施する必要がある。検査は研究機関等の協力を得て内外寄生虫のみならず細菌学的、ウイルス学的に実施して関係機関や事業所に情報の提供を図ることが必要である。
3.現状では充分な調査及び検査を行うことは、人的にも質的にも困難な状況にあることから、今後は中核となる検疫所のマンパワーを強化して、関係機関や事業所並びに研究機関と協力して業務を遂行することが必要である。また、一朝有事の際には、これらの検疫所がプロジェクトチームを組み対処する必要がある。
4.迅速かつ適確な対応を行うためには、各機関がインターネットを利用して情報収集と提供を図り、有機的な連携をとって媒介動物による感染症の侵入防止を図る必要があり、そのためのサーベイランスシステムを構築することが必要である。その際、検疫所が情報提供のための基地としての役割を果たすことが必要である。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)