側頭葉てんかん外科手術後の記憶障害機構の解明

文献情報

文献番号
201027105A
報告書区分
総括
研究課題名
側頭葉てんかん外科手術後の記憶障害機構の解明
課題番号
H22-神経・筋・一般-017
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
臼井 桂子(国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 寺田 清人(国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 臨床研究部)
  • 馬場 好一(国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 臨床研究部)
  • 井上 有史(国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター 臨床研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国のてんかん患者は約100万人、その20%が難治である。本研究は、てんかん外科治療の70%以上を占める側頭葉てんかんで、外科治療の最も大きな障害である術後記憶障害に対して、(1)実態と発生機構の解明をはかり、(2)手術予定症例の障害予測とその回避を可能にする臨床検査手法を確立し、(3)術後の社会復帰を妨げる問題を明らかにすることを目指している。
研究方法
3年計画の1年目の本年は、(1)約700例の外科治療後症例の臨床検査結果と雇用状況調査を用いた統計解析研究と(2)外科治療術前検査で頭蓋内電極を留置した45症例での電気生理学的手法を用いた前方視的研究、を並行して実施した。
結果と考察
(1)統計解析研究:術後2年目で80%以上の症例で著明な発作抑制が得られた。術後記憶機能は手術側と術式で差が認められた。①右側手術群で記憶機能の維持または改善、②左側手術群では、非言語性記憶は維持、③左側手術群で術式による言語性記憶の差あり、④左選択的扁桃体海馬切除群で言語性記憶維持、左前方側頭葉切除群で低下。左選択的扁桃体海馬切除群で術後言語性記憶が維持できる可能性があることは、欧米の先行研究に無い新たな知見である。雇用状況調査に関しては、発作抑制が必ずしも雇用改善に結びつかない現状が明らかになった。
(2)前方視的研究:外科治療前診断のため詳細な脳波成分の解析を実施し、次の結果を得た。①11症例で発作時頭蓋内脳波の発作発射起始の5~75秒前から周波数200~333Hzの高周波数成分(HFO)が出現、②HFOは11症例中10症例で発作焦点側の海馬および扁桃体に存在、③病理所見との比較でHFOと海馬硬化が有意に相関、④臨床発作開始時点をはさむ前後2時間の頭蓋内脳波の解析で26例中3例で超低周波数の律動性陰性電位変化(VLFO)が出現、⑤VLFOの律動間隔は40~120秒、てんかん焦点または近傍の数電極のみで観察、⑥臨床発作出現8~22分前から出現。両成分はてんかん原性領域同定の精度向上に有効である。
結論
側頭葉てんかん外科手術は発作予後良好である。術後記憶障害は、左側手術で見られるが回避の可能性が明らかになった。この原因究明、障害の予測・回避を可能にする術式、臨床検査法の確立のため、海馬とその周囲の側頭葉構造および新皮質の神経細胞群の電気活動の研究をさらに進め、機能温存のための診断検査法の開発へと結び付けていく。

公開日・更新日

公開日
2011-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201027105Z