黄色ブドウ球菌のバンコマイシンに対する耐性発生の背景因子とその対策

文献情報

• 文献番号: 199700838A
• 報告書区分: 総括
• 研究課題名: 黄色ブドウ球菌のバンコマイシンに対する耐性発生の背景因子とその対策
• 課題番号: -
• 研究年度: 平成9(1997)年度
• 研究代表者(所属機関): 吉田 正樹(東京慈恵会医科大学内科学講座第二)
• 研究区分: 厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
• 研究開始年度: 平成9(1997)年度
• 研究終了予定年度: -
• 研究費: 1,000,000円
• 研究者交替、所属機関変更: -

研究報告書（概要版）

研究目的

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、多剤耐性菌であり、現在も院内感染症の主要な菌種である.その治療にはバンコマイシンが有効であるが、最近バンコマイシンの使用量の増加に伴いバンコマイシンに低感受性のMRSAが検出されるようになってきた.バンコマイシン耐性株を作らないためにも、バンコマイシンの使用は適切なものでなければならない.しかし、MRSAの保菌者に使用している例や局所投与されている例も少なくない.本研究では臨床におけるバンコマイシン低感受性MRSAの発生頻度を調査すると共に、そのような菌が発生してくる患者背景因子(基礎疾患、検出部位、バンコマイシンの使用状況、他の抗菌薬の使用)について検討する.このことによりバンコマイシン低感受性MRSAが検出されやすくなる患者の病態や抗菌薬の使用歴を知ることが期待できる.逆にバンコマイシン低感受性MRSAを発生させない環境や抗菌薬の使用法を解明でき、適切な抗菌薬化学療法が施行できる.

研究方法

1997年に検出された黄色ブドウ球菌のうち薬剤感受性検査にてMRSAが疑われた株100株について以下に示すように検討を行った。検出部位別では喀痰40株、咽頭20株、鼻腔15株、血液5株、尿5株、糞便5株、皮膚5株、その他5株であった。1. MRSAの確認:PCR法にてmecA遺伝子を検出しMRSAの確認を行った。2. バンコマイシン低感受性MRSAの検出:バンコマイシン4mg/mlを含む培地を作製し、MRSAを培地上に塗布し、さらにセンシ・ディスクCFM5、CNX30、ATM30を置き、菌の発育がみられたものをバンコマイシン低感受性MRSAと判定した。3. MRSAの各種抗菌薬に対するMIC測定:微量液体希釈法によりMICの測定を行った.使用薬剤はampicillin(ABPC)、ampicillin/sulbactam(ABPC/SBT)、imipenem(IPM)、ofloxacin(OFLX)、minocycline(MINO)、arbekacin(ABK)、vancomycin(VCM)を用い、VCMは0.25～256mg/ml、他の薬剤は0.125～256mg/mlnの濃度範囲で測定を行った。
4. バンコマイシン低感受性MRSA検出患者の背景因子:カルテより患者の背景因子(基礎疾患、検出部位、バンコマイシンの使用状況、他の抗菌薬の使用)を調査し、バンコマイシン感受性MRSA検出患者とバンコマイシン低感受性MRSA検出患者を比較した.

結果と考察

1997年に分離された臨床分離MRSA 100株について検討した。MRSAの同定についてはPCRにてmecA遺伝子の検出により確認した。100株中14株がバンコマイシン低感受性MRSAであった。バンコマイシン感受性MRSA株のMICはVCMに対して1～2mg/mlであったのに対して、バンコマイシン低感受性MRSA株はすべてが2mg/mlであった。ABKに対してはバンコマイシンに対する感受性に関係なく、1～4mg/mlであった。MICからの結果からもバンコマイシン耐性MRSA株はみられなかった。検出部位別では喀痰40株、咽頭20株、鼻腔15株、血液5株、尿5株、糞便5株、皮膚5株、その他5株の検査を行ったが、有意に検出率が高い部位はみられなかった。バンコマイシン低感受性MRSA株の出現は、バンコマイシンの使用量・使用期間には特定の傾向がなく、また2株はバンコマイシン未使用例にも検出された。バンコマイシン未使用例で検出された患者ではセフェム系抗菌薬の投与は行われているが、バンコマイシン低感受性MRSA株の出現がセフェム系抗菌薬の投与によるものか、それとも院内感染による他の患者から伝播されたものかは不明であった。今回の検討で使用したMRSA株は検出部位に片寄りがあるために、今後検査菌株数を増やせば有意な差がでる可能性もある。

結論

バンコマイシン低感受性MRSA株はバンコマイシン4mg/mlを含む培地とセフェム系の抗菌薬ディスクを組み合わせることにより検出が可能となった。臨床分離MRSA 100株中14株がバンコマイシン低感受性MRSAであった。しかし、そのMIC測定では2mg/mlと低値を示した。バンコマイシン低感受性MRSA株の出現は、バンコマイシンの使用量・使用期間には特定の傾向がなく、検出部位別では有意に検出率が高い部位はみられなかった。

公開日・更新日

• 公開日: -
• 更新日: -