精神疾患の生物学的病態解明研究-最新の神経科学・分子遺伝学との融合-

文献情報

文献番号
201027089A
報告書区分
総括
研究課題名
精神疾患の生物学的病態解明研究-最新の神経科学・分子遺伝学との融合-
課題番号
H22-精神・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
武田 雅俊(大阪大学大学院 医学系研究科 情報統合医学講座(精神医学))
研究分担者(所属機関)
  • 岡本 長久(国立精神・神経医療研究センター病院 精神医学)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院 医学系研究科 精神医学)
  • 岩田 仲生(藤田保健衛生大学 医学部 精神医学)
  • 橋本 亮太(大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学連合小児発達学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成24(2012)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
  精神疾患の診断は医師が症状を診ることによりなされており、客観的な検査等による診断法は未だ確立しておらず、客観的・科学的診断法の開発が必要とされている。抗精神病薬や抗うつ薬は約半数については治療効果が不十分であり様々な副作用が起こるため、有効性が高く副作用の少ない治療薬の開発が待ち望まれている。本研究では新たな診断法・治療法への応用を目指して、最新の神経科学と分子遺伝学融合させた手法を用いて統合失調症とうつ病の病態を解明することを第一の目的とする。その成果の普及啓発のための提言を行い、国民の精神疾患への神経科学的な理解を深めて精神疾患に対する誤解や偏見を打破することを第二の目的とする。
研究方法
研究方法は、世界で最大規模となる三千以上のゲノムサンプルとそれに付随する数百以上の中間表現型データを最新の神経科学・遺伝学・分子生物学の手法を用いて解析する。サンプル収集を続けつつ、収集済みのサンプルにて神経科学的な中間表現型と関連する多型を見出し、統合失調症やうつ病のリスク遺伝子を同定する。
結果と考察
藤田保健衛生大学では、全ゲノムに位置する50万個の遺伝子多型を用いた統合失調症の全ゲノム関連研究(GWAS)を行った。その結果、SULT6B1やNOTCH4等の遺伝子に有意な関連を得、コピー数多型(CNV)も既報の領域(1q21.1、NRXN1、16p13.1)で確認出来た。名古屋大学では、日本人大規模サンプルにより統合失調症のリスク遺伝子型であると示唆されたMAGI2遺伝子の2つのSNPについて、統合失調症患者の注意力と前頭葉遂行機能との関連が示唆された。大阪大学では、神経免疫系の転写因子NF-κβ複合体の構成タンパクであるRELAと統合失調症が関連することを見出した。さらに、プロモーター領域にある統合失調症のリスク多型を持つ統合失調症患者では、神経生理学的な中間表現型であるプレパルス抑制の低下が認められることを明らかとした。国立精神・神経医療研究センターでは、左側優位の前頭前野などの特定部位での脳血流の低下がうつ病の中間表現型となりうる可能性を示唆した。さらに、治療抵抗性うつ病における左前頭前野の血流低下所見の少なさがリチウムの効果予測の指標となる可能性があることが示された。
結論
これらの研究成果は、統合失調症やうつ病をはじめとする精神疾患の新たな診断法・治療法の開発に役立つものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

収支報告書

文献番号
201027089Z