抗菌薬感受性結果解析システムWHONETの普及に関する研究

文献情報

文献番号
199700837A
報告書区分
総括
研究課題名
抗菌薬感受性結果解析システムWHONETの普及に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
佐竹 幸子(群馬大学医学部保健学科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臨床微生物検査室で実施された抗菌薬感受性検査結果の累積および解析は、経験的化学療法や院内感染対策上重要な資料となる。しかし、手作業によって解析をしている臨床微生物検査室が未だ多く、抗菌薬感受性サーベイランス事業への参加を困難にしている。一方、このサーベイランス事業への参加を困難にしているその他の原因として、データベースフォーマットの多様化があげられる。これらの問題を解決するためにWHOは、WHOで開発した抗菌薬感受性査結果解析用ソフトウエア(WHONET)を無償提供してその普及を計り、抗菌薬感受性サーベイランス事業に使用している。このWHONETシステムをわが国に導入して各施設の細菌検査結果データベースをWHONETのファイルフォーマットに変換することによりファイル構造を統一し、国内および国際規模のサーベイランス事業への同時参加を可能とする。
研究方法
WHONETシステムをわが国に普及させるために、本システムの開発者であり現在WHOの職員としてその普及および開発事業に携わっているDr. Jone M Stelling を招聘し、東京と大阪で本システムに関する講演会(コンピュータープロジェクターを使用したワークショップ形式)、群馬大学の情報処理実習室で1人に1台のコンピューターを使用した実技講習会を開催した。また、本システムを効率良く使用するために、英語で書かれている本マニュアルを日本語に翻訳した日本語版マニュアルを作成し(本報告書に一部添付)、講演会および実技講習会で使用した。東京と大阪での講演会には逐次通訳をつけた。講演会および実技講習会開催の通知は、日本臨床微生物学会および日本臨床衛生検査技師会に依頼する同時に、国際抗菌薬感受性精度管理研究会員へ郵送にて案内状を送付した。
結果と考察
WHONETの概要:WHOはWHONETを用いて世界規模で抗菌薬耐性菌をモニターする事業を開始し、現在、日本を除く50か国490施設がこの事業に参加している。WHONETは、ボストンにある Brigham and Women's Hospital の感染症専門医であるDr. T. F. O'Brienとその当時ハーバード大学の医学生であったDr. J. M. StellingによってWHOボストン共同事業センターで共同開発され、現在、Dr. StellingはWHO職員として本システムの普及および開発に従事している。WHONETシステムは、先進国はもちろん開発途上国でも使用できるように設計されたDOSコンピュータ対応のソフトウエア(約1MB)である。WHONETでは感受性・耐性率(%)、ヒストグラム、散布図、耐性パターン(プロファイル)解析、BacTrackなど多くの解析が可能である。耐性プロファイルは多くの抗菌薬感受性結果パターンを同時に見ることができる解析であり、BacTrack はすべての菌種と抗菌薬に関する解析を自動化したものである。
WHONETの特徴:WHONETでは、データの質向上のために検査結果入力時に稀な菌種や稀な耐性菌をチェックする機能を備えている。新たにデータベースに追加されようとしている結果を検査室独自のデータベースに基づいてBacTrackで作成したサマリーファイルと比較して、異常データと思われるものに対してコメントを出力する機能を持っている。また、過去に同じ耐性プロファイルの菌株を持っていた患者数とその病棟分布、この耐性プロファイルを持つ患者一覧表を出力する。 この解析の目的は、その情報を迅速に検査技師と感染対策チームに提供することにある。上記コメントにより、感受性試験あるいは同定検査結果の入力ミスや検査エラーの発見が促進され、修正をより容易に行える。検査室職員は、本当に異常株であるかを確認し、さらに精密な検査のためにリファレンス検査室に菌株を送付するためにその分離株を保存することができる。一方、感染管理者は問題の株が分離された患者を隔離し、そこで発生しているアウトブレイクを確認できる。WHONETが持っているもう一つの特徴は感受性率変化の自動検出である。BacTrack解析で、2つの感受性率サマリーファイル(例えば、1996年と1997年のデータ)を比較する。すべての抗菌薬と菌種の組み合わせで1対1の比較を行い、統計学的有意差(p<0.05)あるいは大きな違い(通常20%にセットされている)があるものを出力する。
BACLINK:臨床検査部門の中で微生物検査のコンピューターシステム化は遅れており、抗菌薬感受性結果の統計解析は十分になされていなかった。しかし、近年、細菌検査自動器機の導入に伴って、微生物検査室においてもコンピューターシステムが普及してきた。コンピューターシステム化がなされている臨床微生物検査室においては、ぞれぞれの施設で独自に開発した抗菌薬感受性解析システムを使用しているために、ファイルフォーマットが多様化している。このことが、全国および国際規模で実施される抗菌薬感受性サーベイランス事業への参加を困難にしている。WHOは、ぞれぞれの施設のコンピュータシステムで蓄積したデータベースをWHONETのファイルフォーマットに変換するソフトウエアBACLINKを開発し、WHONETへのデータ蓄積が容易となった。
WHONETに関する講演会および実技講習会開催:平成10年2月1日(日)午後2時から6時まで慈恵会医科大学西講堂(東京都港区西新橋3-25-8)で、平成10年2月3日(火)午後4時から7時30分まで三和化学メディカルホール(大阪市淀川区宮原4-3-5)でWHONETシステムの概要をコンピュータプロジェクターを使用して説明した(参加者 合計104名)。逐次通訳がついたことと、日本語版マニュアルが準備されていたことで受講者の講演内容理解に大いに役立った。講演後の質疑応答も活発に行われた。本講演会ではWHONETシステムの概要および特徴を中心に講演し、BACLINKについて十分な説明をする時間的余裕がなかったために自動検査機器を使用している臨床微生物検査室から自動検査機器とWHONETシステムを接続して検査結果を解析する可能性について、コンピュータシステムを導入している施設からは既存の細菌検査結果解析用コンピュータシステムとWHONETシステムの接続の可能性について質問があった。平成10年2月2日(月)午前9時から午後5時まで群馬大学医学部保健学科情報処理実習室(前橋市昭和町3-39-15)で1人1台コンピューターを使用してWHONETシステムに関する実技講習会を開催した(参加者 27名)。
Dr. Stellingとの情報および意見交換:Dr. Stellingは、WPRO(WHO西太平洋事務所)主催の抗菌薬感受性サーベイランス事業参加者(東邦大学医学部微生物学教室 石井良和)や平成9年度厚生科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)「薬剤耐性菌による感染症のサーベイランスシステムの構築に関する研究班」班長(国立感染症研究所 荒川宣親)らと情報および意見交換を行った。また、BACLINKについて日本在住のシステムエンジニア、細菌検査自動機器販売会社と抗情報交換を行った。
結論
適切な経験的化学療法を実施するためには、地域でどの様なタイプの耐性菌が流行しているかを常に把握しておく必要があり、それぞれの臨床微生物検査室で実施した抗菌薬感受性成績の統計解析は地域特異的な経験的化学療法や院内感染対策の重要な資料となる。また、抗菌薬感受性試験成績の精度向上は、適切な化学療法や抗菌薬感受性情報の質的向上につながる重要な課題である。WHONETの使用により、これらの目標が達成され、医療の質的向上に寄与することを期待している。そのために開催したWHONETに関する講演会および実技講習会は当初の目的を達することが出来た。しかし、現在のシステムはDOS版であり、今年の7月に完成予定のWindows版を利用できるようになれば、WHONETの普及は更に加速されるであろう。また、BACLINKの使用については、システムエンジニアの協力を得ながら、その普及に努めて行きたい。

公開日・更新日

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