新しいマウス血行性肺化膿症モデルを用いたバンコマイシン耐性MRSAを含むS.aureusの病原因子の免疫分子生物学的解析

文献情報

文献番号
199700836A
報告書区分
総括
研究課題名
新しいマウス血行性肺化膿症モデルを用いたバンコマイシン耐性MRSAを含むS.aureusの病原因子の免疫分子生物学的解析
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
朝野 和典(長崎大学医学部第二内科)
研究分担者(所属機関)
  • 河野茂(長崎大学医学部第二内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
S.aureusは市中、院内を問わず肺炎、肺膿瘍をきたす重要な原因菌の一つである。また、MRSAによる院内感染症は近年、臨床現場において大きな問題になっており、さらにMRSAに対して特効薬とされてきたバンコマイシンに対する耐性菌の報告も散見されるようになり今日の化学療法は一つの岐路に立たされている。すなわち、次々に耐性を獲得していく耐性菌に対し抗菌活性を有する抗菌薬を開発するという対応では限界が見えている。そこで私たちは、マウス血行性肺感染モデルを用いてS.aureusの種々の病原因子の解析を行い、その病原因子を抗体で不活化したり、マクロライド薬で生産を抑制したりすることで、MRSAによる感染の治療が可能かどうかを検討している。このような病原因子をターゲットにした感染症の治療は、現在の行き詰まった抗菌薬療法の一つの打開策であろう。
研究方法
従来の経気道的感染方法では、MRSAの肺感染を多くの株で、再現性よく確立することは困難であった。私たちは、臨床で遭遇することの多い、血行性の肺感染経路を模倣し、新しい感染モデルを確立した。このモデルは、agar beads に封入したS. aureus をマウス尾静脈より接種し、肺に塞栓性の感染巣を形成する方法である。この方法は、我々のオリジナルな実験モデルであり、この方法を用いることで、再現性よくS. aureus肺感染を確立できるようになった。
MRSAを含む臨床分離S. aureusの数十株をマウスに感染させ、その後の肺内、血中菌数、肺病理組織を経時的に検討した。それと同時に菌株ごとにin vitroにて、coagulase、α-、 β-、γ-、δ-toxin、leukocidin、enterotoxin、TSSTなどの生産量を定量した。これらの結果から肺感染症におけるS.aureusの定着、増殖、組織障害、侵襲に関わる病原因子を想定し、次にそれぞれの病原因子の欠損株を遺伝子操作することによって作成された株を用い、in vivoにて親株と比較検討することによって、その病原因子の役割を特定した。
病原因子の解析の後、その病原因子に対する抗体を用いての治療実験や病原因子産生抑制作用を期待した、マクロライド薬による治療実験、またそれぞれと抗菌活性を有する抗菌薬との併用療法などについて実験を行った。さらに、MRSAや腸球菌に対して開発されている新薬の第1相試験も解析を進めている。
結果と考察
S. aureus以外の菌種(S. epidermidis, K. pneumoniae, P.aeruginosa)では、agar beads に菌を封入しても、肺内での増殖はみられなかった。一方、S. aureusは多くの株で肺内で増殖可能であったが、その増殖性には株間で相違がみられた。肺内菌数とこれらの株の病原因子との相関を検討したところ、coagurase活性と肺内菌数が正の相関関係であることが示された。そこで、coagulaseを欠損したmutantとその親株を用いて肺内生菌数を比較したところ、mutant株は親株に比べ、有意に肺内菌数が低下した。これらの事実から、肺内増殖性に関与する病原因子としてcoagulaseが最も重要な因子であるとの結論を得て、その成績をInfection and Immunity に
発表した。同様にして、菌の組織破壊に関する病原因子として、αヘモリジンの重要性を証明し、同じく、Infection and Immunity に投稿した。その他、壊死の形成におけるleukocidinの関与について現在解析が進んでいる。
従来、MRSAの肺感染モデルはその作成が困難であったために、薬剤のin vivo における評価が困難であった。我々の開発した血行性肺感染モデルを用いることで、in vivoにおける薬効評価が可能となり、新しいグリコペプチド系抗菌薬のin vivo 評価を行い、本年、Sandiego, Calfornia, USA にて行われる、第38回Interscience Conference on Antimicrobial Agents and Chemotherapy にて発表する。
結論
S. aureus血行性肺感染モデルは、in vivoにおけるS. aureusの感染を再現でき、かつ安定したモデルを作ることが可能であり、病原因子、薬剤の効果判定が動物を用いてできるようになった。バンコマイシン低感受性MRSAの出現が実際に臨床で問題になっている今日、このような臨床に近い、かつ再現性のある動物モデルが有用になってきている。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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