統合失調症の多次元生物学的診断法と新たな治療薬の開発をめざした病態解明研究

文献情報

文献番号
201027070A
報告書区分
総括
研究課題名
統合失調症の多次元生物学的診断法と新たな治療薬の開発をめざした病態解明研究
課題番号
H21-こころ・一般-001
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
功刀 浩(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 典子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 病院)
  • 石川 正憲(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 病院)
  • 沼川 忠広(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部 )
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 岩田 仲生(藤田保健衛生大学医学部)
  • 那波 宏之(新潟大学脳研究所・基礎生物学部門 、神経生物学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
19,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、最先端の脳科学的手法・生物学的手法を用いて、統合失調症の多次元生物学的診断法の確立を行うとともに、遺伝子研究・機能解析によってバイオマーカーや治療法の開発を行うことを目的とする。
研究方法
病院急性期病棟と連携し、入院患者全員に研究協力を依頼する体制を確立して研究を行った。一連の高次脳機能検査として、知能、記憶、実行機能、気質・性格、運動機能、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS-J)などについて検討した。MRI画像(拡散テンソル画像、MRS)、ストレス反応をみるDEX/CRHテスト、情報処理障害をみるプレパルスインヒビション(PPI)、フェニルアラニン代謝をみる呼気ガス検査など多次元の生物学的指標に関するデータを収集した。DNAサンプルを用いた遺伝子探索も行っている。既に知られている脳由来神経栄養因子(BDNF)や上皮成長因子(EGF)について、細胞、動物モデルを用いた機能解析を行った。緑茶成分で、グルタミン酸誘導体であるテアニンの向精神薬作用について、マウスによる前臨床的検討を行った。
結果と考察
およそ300人の血液、100人の脳脊髄液試料を収集した。これらは貴重なリサーチリソースとなる。統合失調症には広汎な認知機能障害があり、BACS-Jはそれを簡便かつ包括的に測定でき、高い感度、特異性をもつため極めて有用であることを明らかにした。神経内分泌検査により、統合失調症急性期ではストレスホルモンの機能亢進があることを明らかにした。PPIについては、900人以上のデータベースを構築し、診断・鑑別に有用であることを示した。MRIによる脳構造体積異常をもとにした統合失調症診断法を開発した(的中率70?80%)。フェンサイクリジン(PCP)のシナプス減少作用におけるBDNFの役割について明らかにした。EGF早期暴露による統合失調症動物モデルを作成し、ドーパミン神経支配過剰となるなどの病態解明を行った。テアニンはPPIを改善するなど抗精神病薬様作用があることを明らかにした。
結論
血液や脳脊髄液試料の収集と並行して多次元の生物学的指標の開発とデータベース構築が進み、生物学的所見に基づいた診断基準や亜型分類の作成が期待できる。細胞生物学的方法や動物モデルを用いた解析によって、統合失調症のグルタミン酸仮説と神経栄養因子仮説をつなぐメカニズムや、神経発達障害仮説とドーパミン仮説をつなぐ分子基盤が明らかになった。緑茶成分のテアニンは、新しい抗精神病薬として臨床応用が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2011-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201027070Z