脱髄性ニューロパチーの病態解明と神経保護分子の解析

文献情報

文献番号
201027061A
報告書区分
総括
研究課題名
脱髄性ニューロパチーの病態解明と神経保護分子の解析
課題番号
H20-こころ・一般-015
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
馬場 広子(東京薬科大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 犬塚 貴(岐阜大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多くの急性・慢性脱髄性ニューロパチーで病態への抗体の関与は明らかではない。そこで本研究では、1)脱髄原因分子の探索と病態機序の解明、2)脱髄に伴う2次性軸索障害の病態解明、3)脱髄保護分子の探索を行い、脱髄性ニューロパチーの病態解明と予後の改善を目指すことを目的とした。
研究方法
1)昨年度同定した36K分子L-MPZのペプチドを用いたELISAにより末梢神経障害患者113例(CIDP51例)および健常人血清23例解析した。病態への関与を調べるため脱髄マウスにL-MPZ抗体を尾静脈注入した。腹腔マクロファージ(Mq)に対する抗L-MPZ抗体の作用を調べた。2)髄鞘異常を伴うマウス組織を免疫組織学的および電顕解析した。3)スルファチド欠損マウスを用いて髄鞘形成前駆細胞への関与およびスルファチド量と末梢神経機能の関連性を調べた。
結果と考察
1) L-MPZは髄鞘形成に伴ってP0 mRNAからP0と共に産生される接着分子であった。ELISA法で抗Lー-MPZ抗体はCIDP23%に陽性で、他の疾患と比して抗体価が高い例があった。抗L-MPZ抗体はマウス脱髄巣に沈着し、これが髄鞘のMqへの貪食を亢進させることから病態修飾への関与が示唆された。2)髄鞘異常を伴う小脳では末梢と同様に加齢と共に蓄積物増加による腫脹が見られ、局所のCa2+濃度変化が関与することがわかった。3)スルファチド欠損でもAX2によるcPLA2活性化の抑制効果が示された。また髄鞘スルファチド量に応じて伝導速度の低下が認められ、この減少を示すヒトで危険因子と考えられた。視神経では含硫糖脂質が髄鞘前駆細胞の増殖に影響することがわかった。また、脱随巣におけるMqの貪食に関わる分子を見出した。脱髄後の再生に関してこれらの分子は重要と考えられた。
結論
以上、本研究を通じてニューロパチーの病態修飾や重症化の予防に関与しうる分子が複数同定された。これらを今後も検討していく予定である。

公開日・更新日

公開日
2011-06-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201027061B
報告書区分
総合
研究課題名
脱髄性ニューロパチーの病態解明と神経保護分子の解析
課題番号
H20-こころ・一般-015
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
馬場 広子(東京薬科大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 犬塚 貴(岐阜大学医学系研究科神経統御学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多くの急性・慢性脱髄性ニューロパチーで病態への抗体の関与は明らかではない。そこで本研究では、1)脱髄原因分子の探索と病態機序の解明、2)脱髄に伴う2次性軸索障害の病態解明、3)脱髄保護分子の探索を行い、脱髄性ニューロパチーの病態解明と予後の改善を目指すことを目的とした。
研究方法
1)末梢神経障害患者血清中の抗神経抗体をSDS-PAGE/western、2次元電気泳動/westernを行い反応スポットを同定してMASS解析した。多くのCIDP患者と反応する分子を同定し、ELISA法により患者113例および件常人23例の抗体価を調べた。また抗原分子の機能や分布を解析した。2)髄鞘異常マウスの末梢神経や小脳の軸索異常を調べた。3)AX2の髄鞘保護作用およびスルファチド量と神経障害の関連を調べた。
結果と考察
1)抗神経抗体の解析結果、CIDP23%に陽性で高い抗体価を認める未知の分子を見出し、L-MPZと命名した。これはP0 mRNAからP0と共に産生される髄鞘の接着分子であった。脱随巣に抗体が沈着すること、マクロファージの髄鞘貪食に影響を与えることからこの抗体の病態修飾が示唆された。2)髄鞘異常に伴う軸索変化は、軸索輸送異常を伴い局所のCa2+変化が関わることがわかった。3)ヒトでも髄鞘に存在するAX2は脱髄時にcPLA2の活性抑制を介して髄鞘保護に作用することが明らかになった。また、髄鞘スルファチド含有量の減少が伝導速度低下を生じ、減少したヒトにおいて危険因子として作用する可能性を示した。脱髄修復に重要なマクロファージ内における貪食に関わる新たな分子を見出した。
結論
以上、本研究を通じてニューロパチーの病態修飾や重症化の予防に関与しうる分子が複数同定された。また、複数の患者血清と反応する抗原も見出し、現在同定中である。また、病院等から患者血清中の抗体測定依頼に応じて今後も解析を続行する。本研究の結果を生かし、今後ニューロパチーの診断、予防、治療選択につなげる予定である。

公開日・更新日

公開日
2011-06-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201027061C

成果

専門的・学術的観点からの成果
今回、末梢神経髄鞘特異的な新たな分子L-MPZを見出した。抗原性が高く、抗体が脱髄病態の修飾に働く可能性を示した。また、AX2がcPLA2抑制を介して髄鞘保護に働くことを明らかにした。また、脱随巣に集積するマクロファージ内で貪食作用に関わる分子を見出した。これらの分子はいずれも新しい神経系の機能分子として重要である。
臨床的観点からの成果
抗L-MPZ抗体は慢性脱髄性ニューロパチー症例で高率に認められ、抗体価も他疾患に比べて高い。発症自体に一次的に作用するかはまだ今後の解析が必要だが、マクロファージを介して病態修飾に働くことは明らかである。また、解析の過程でシェーグレン症候群複数例と反応する抗原も見出している。2次元スポットの同定も進み、今後症例を増加して抗体の種類と病型との関連性をみるための準備はほぼ整った。実際に抗神経抗体の解析を依頼されることが増え、臨床データの蓄積を行っている。
ガイドライン等の開発
今後、臨床データが蓄積された結果、出現する抗体の種類と病型や治療効果、予後との関連性が示された場合には、ガイドラインを作製することができると思われるが、現在は未。
その他行政的観点からの成果
医療機関からの依頼に応じて、抗ガングリオシド抗体と同様に、患者検体中の抗神経抗体を測定し、データを蓄積している状態である。
その他のインパクト
昨年度第29回Naito Conferenceで招待講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
11件
日本神経化学会、日本薬学会
学会発表(国際学会等)
3件
国際神経化学会サテライト会議、アジア・パシフィック神経化学会、Naito Conference
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
薬理学雑誌の巻頭文への寄稿

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kajigaya H, Tanaka KF, Hayashi A et al.
Increased numbers of oligodendrocyte lineage cells in the optic nerves of cerebroside sulfotransferase knockout mice
Proceedings of the Japan Academy , 87 , 415-424  (2011)
原著論文2
Yamaguchi Y, Hayashi A, Campagnoni CW et al.
L-MPZ, a novel isoform of myelin P0, is produced by stop codon readthrough.
Journal of Biological Chemistry , 287 , 17765-17776  (2012)
原著論文3
Hayashi A, Kaneko N, Tomihira C et al.
Sulfatide decrese in myelin influences formation of the paranodal axo-glial junction and conduction velocity in the sciatic nerve.
Glia , 61 , 466-474  (2013)
原著論文4
Otani Y, Yamaguchi Y, Sato Y et al.
PLD4 is involved in phagocytosis of microglia: expression and localization changes of PLD4 are correlated with activation state of microglia.
PLos One , 6 , e27544-  (2011)
doi:10.1371/journal.pone.0027544

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201027061Z