心神喪失者等医療観察法制度における専門的医療の向上に関する研究

文献情報

文献番号
201027058A
報告書区分
総括
研究課題名
心神喪失者等医療観察法制度における専門的医療の向上に関する研究
課題番号
H20-こころ・一般-011
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 幸之(国立精神・神経センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 菊池 安希子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
  • 安藤 久美子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
  • 福井 裕輝(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
  • 平林 直次(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 病院)
  • 八木 深(独立行政法人国立病院機構 東尾張病院)
  • 松原 三郎(医療法人松原愛育会 松原病院)
  • 山口 しげ子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 病院)
  • 三澤 孝夫(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、心神喪失者等医療観察法の制度運用の状況に関する客観的情報を収集・分析すること、その情報を関係機関に提供すること、ひいては同制度における専門的な医療の質を向上させることを目的としている。とくに本年度は、本研究の最終年度にあたって、これまでの成果をとりまとめ、総合することにも重点をおいた。
研究方法
本研究の中核となるモニタリング調査では、昨年度につづき入院医療機関への調査と通院医療機関への調査を行った。調査協力施設から対象者の診療情報(個人を特定する情報をのぞく)の一部の提供を受けた。入院対象者は14病院851例を、通院対象者は158施設444例を調査することができた。その他、分担研究者による各論的研究をおこなった。
なお、調査にあたっては研究者らの所属する倫理委員会等の承認をうけ、匿名性等に十分に配慮した。
主任は平成22年7月末までを吉川和男が、8月からは岡田幸之が務めたが、計画や予算配分等(主任一括計上分を引き継ぐ以外)は変更しなかった。
結果と考察
入院調査では、制度開始以来5年間の推移で、新規入院者数は2007年をピークに漸減傾向を示していた。性別(男性対女性4:1)、年齢構成(30代、40代が多い)、診断構成(約8割が統合失調)、対象行為構成(殺人・傷害・放火で約9割)は、制度開始以来ほぼ一定であった。通院調査では、例えば、対象行為以前に入院歴があった者は57%、通院歴があった者は81%、行為時点に何らかの治療を継続していた者は35%いたこと、中高年層が半数以上を占め、慢性の身体疾患や認知症の併存などの問題があること、対象行為の被害者が家族や親族であった例のうち46%は通院処遇中に対象者と同居して支援者となっていること、処遇を終了して一般精神医療への移行までにかかる平均日数はこれまでのところ3年以内であること、通院処遇中の問題行動では対人・対物の「暴力行動」が約17%、「アルコール・薬物関連問題」は約10%みられ、自殺や再入院などは処遇開始1年以内が多いことなどが把握された。
結論
医療観察法の制度は開始されたばかりであり、本調査のように現状や変化を継続的に把握することは重要である。今回得られた情報を基礎に、その推移を今後も調査をすることで、運用の適切さ、修正の必要性などを確認することができる。これは医療観察法とその周辺の関連する諸制度に関する精神保健政策への提言の基礎資料となり、同制度の医療の質の向上に役立つであろう。

公開日・更新日

公開日
2011-06-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201027058B
報告書区分
総合
研究課題名
心神喪失者等医療観察法制度における専門的医療の向上に関する研究
課題番号
H20-こころ・一般-011
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 幸之(国立精神・神経センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 菊池 安希子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
  • 安藤 久美子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
  • 福井 裕輝(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 司法精神医学研究部)
  • 平林 直次(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院)
  • 八木 深(独立行政法人国立病院機構 東尾張病院)
  • 松原 三郎(医療法人松原愛育会 松原病院)
  • 岩成 秀夫(地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立精神医療センター)
  • 山口 しげ子(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院)
  • 三澤 孝夫(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、医療観察法制度の指定入・通院医療機関で行われる専門医療に関する情報を収集、分析するために平成20?22年度に実施した。
研究方法
本研究は、全国の指定医療機関を対象として個人を特定する情報を除く診療情報の一部を収集して行われたモニタリング研究と、個別の地域や指定医療機関で細かな分析をおこなった各論的研究からなる。いずれの研究も倫理委員会の承認を得て倫理面に配慮をして実施した。なお主任は平成22年7月末までを吉川が、8月からは岡田が務めたが、計画や予算配分等は変更しなかった。
結果と考察
(1)入院モニタリング研究(14施設851例)では、性別、年齢、診断、対象行為の構成は制度開始以来ほぼ一定であった。(2)通院モニタリング研究(158施設444例)では、家族が被害者の例のうち46%は通院処遇でも対象者と同居していた。指定通院中の精神保健福祉法入院の時期と期間等によって長期的入院型、軟着陸型、緊急一時型、再発型の分類ができた。指定通院中の問題行動は暴力が17%、物質関連問題が10%で、自殺や再入院は処遇開始1年以内が多かった。物質関連障害では通院・通所の不遵守、精神遅滞では火の扱い、物への暴力、生活規則の不遵守がみられやすかった。(3)通院事例研究では、強制的治療システムと多職種チームの手厚いサポートが奏功していることを確認した。(4)入院病棟退院者43名の追跡調査では、退院時のHCR-20は衝動性(C4)とストレス(R5)が高く、否定的な態度(C2)と治療的試みに対する遵守性の欠如(R4)が低かった。推定入院期間(Kaplan-Meier法95%信頼区間)は479-729日だった。過去の措置入院回数が多いと推定入院期間が有意に長かった。(5) 指定入院のスタッフへの暴力事象の調査では、カルテへの被害・加害者の実名記載と匿名記載の両方があった。観察法病棟では一般精神科病棟よりもIES-R の危険群が少なかった。 (6)脳機能画像研究では、暴力のある統合失調症群13名は、健常群14名や暴力のない統合失調症群13名より眼窩前頭前皮質内側部白質のFractionl Anisotrophy値が低く、灰白質と白質のネットワークの異常が示唆された。(7)プログラム開発研究では、指定入院中の統合失調症男性の攻撃性を変化させるには衝動性と怒りを外に向ける傾向がターゲットとなることが示唆された。
結論
今回得られた結果は医療観察法に関する精神保健政策への提言の基礎データとなる。今後も継続して調査することで制度運用の適切さや修正の必要性を確認できるであろう。

公開日・更新日

公開日
2011-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201027058C

成果

専門的・学術的観点からの成果
例えば、入院モニタリング研究では14施設851例を扱い、性別、年齢、診断、対象行為の構成は制度開始以来ほぼ一定であること、通院モニタリング研究で158施設444例を扱い、家族が被害者の例のうち46%が事件後も引き続き対象者と同居して支援者となっていること、通院中の問題行動は暴力が17%、物質関連問題が10%で、自殺や再入院はとくに処遇開始10ヶ月以内が多いことなど、新しい医療観察法制度の運用の実態として把握されるべき情報の多くを明らかにした。
臨床的観点からの成果
例えば、通院医療においては、物質関連障害を有する者では通院・通所の不遵守、精神遅滞を有する者では火の扱い、物への暴力、生活規則の不遵守がみられやすいことなどの臨床上の留意点を明らかにしている。また治療プログラムの開発も手がけ、統合失調症男性の攻撃性を変化させるには衝動性と怒りを外に向ける傾向をターゲットとすることが有効であることなども示している。このように本研究の成果として、医療観察法の臨床を行う上で有用な情報を提供している。
ガイドライン等の開発
正式なガイドラインではないが「同意によらない治療的介入に関する緊急性評価基準」(安藤久美子, 岡田幸之:司法精神医学6(1):1881-0330,2011)などを開発し、医療観察法入院病棟では参考とされている。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果としてのモニタリング調査の研究結果は、医療観察法制度施行5年目の国会報告にあたり、その基礎資料の一部としても利用されている。
その他のインパクト
分担研究者(松原)により、全国の指定通院医療機関の従事者を対象とした研究成果報告会が毎年度(3回)開催され、本研究の成果に関して意見交換が行われた。

発表件数

原著論文(和文)
5件
入・通院のモニタリング研究の報告をした。
原著論文(英文等)
2件
脳機能画像研究の成果を報告した。
その他論文(和文)
45件
得られた研究成果を基礎にして、総説や解説を報告した。
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
モニタリング研究の成果を「日本司法精神医学会」等を中心に報告した。
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
医療観察法施行5年目の国会報告の基礎資料の一部となった。
その他成果(普及・啓発活動)
3件
全国の指定通院医療機関の従事者の研究会議を毎年度(3回)開催した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
美濃由紀子,安藤久美子,岡田幸之,他
指定通院医療機関におけるモニタリングに関する研究 通院処遇期間の推定と精神保健福祉法入院の併用実態分析を中心に
臨床精神医学 , 39 (1) , 93-100  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201027058Z