「喀痰中からA群溶レン菌、肺炎レンサ球菌、レジオネラ、MRSA遺伝子同時検出法」

文献情報

文献番号
199700834A
報告書区分
総括
研究課題名
「喀痰中からA群溶レン菌、肺炎レンサ球菌、レジオネラ、MRSA遺伝子同時検出法」
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
保科 定頼(東京慈恵会医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
1,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 高齢者、小児における呼吸器感染症は重篤なものが多く問題になってきている。従来法による培養技術では極めて感度が悪いことから原因菌を確定できないままのEmpiric Therapyは耐性菌の出現を助長してきている。迅速な原因菌の同定鑑別は、病態の悪化を防止できると同時に、適格な抗菌剤の選択を可能にする。従って喀痰からの迅速な原因菌検出、鑑別システムを標準化し、各医療施設、市中での呼吸器感染症を予防することが求められている。新興、再興感染症の慢延化を防ぎ、耐性菌出現の頻度を低下させることを目的とする。
研究方法
【菌株】菌株はすべて基準株を用いて行った。A群溶レン菌:Streptococcus pyogenes IID689、肺炎レンサ球菌:Streptococcus pneumoniae IID553、レジオネラ:Legionella pneumophila、黄色ブドウ球菌:Staphylococcus aureus JCM2413
【プライマーの設定】図の設定・と・の16Sは16SリボソームRNAの配列を示し、23Sは23SリボソームRNAの配列を示している。16SUN8+とXは16SrRNA の共通配列領域、23UN2は23SrRNAの共通配列領域を示している。16Sgmx+は16SrRNAの中にみられるグラム陽性球菌に共通にみられる配列であって応用範囲が広いものと考えている。ここで16S-23S int がスペーサ領域の位置であり、16SrRNA 、23SrRNAの領域を含めてこの部位がrrnオペロンの一部を示している。16SUN8+:gtc gtc agc tcg tgt cgt と23SUN2:ggt gga tgc ctt ggcを用いた(設定1)。P1:ctc ctc ggc tcc acc aat ag、P2:gct tgt gtt acc tct tcは図に示した位置で、Legionella pneumophila 16SrRNA-23SrRNAスペーサ領域の8~27番目と116~132番目である(設定2)。同様にS. pneumoniae 16SrRNA-23SrRNAスペーサ領域のSP1:tct aag gat aag gaa ctg cgc att ggとSP2:ctt att ttc tga cct ttc agt cat、S. pyogenesのSAG1:tgg aac acg ttt atc gtc ttaとSAG・R:ca agc aac gct cgc ttt agc g、S. aureus のSAV:cat att gta ttc agtとSA・:tcc acc att ttt ata agt c をそれぞれ用いてDNA増幅を行った。
【DNA増幅条件】PCRは、はじめに変性を95℃2分行い、その後95℃30秒、アニーリング30秒、進展72℃1分を40回繰り返し、最後に72℃4分行い4℃で反応を停止した。反応生成物は6%ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いて、期待されるバンドの長さを確認して検出した。
【DNA増幅結果】
ユニバーサルプライマー16SUN8+と23UN2による増幅、A群溶レン菌、肺炎レンサ球菌、レジオネラ、MRSAの各種特異的DNA増幅がほぼ1cfuの感度で検出されることが見出された。
結果と考察
 16S-23SリボソームRNAスペーサ領域を標的にしたユニバーサル配列をPCRプライマーとしてDNA増幅を行いサンプル中に存在する細菌を検出することができた。このDNA増幅によって菌種を問わずに全ての細菌種を検出できると同時にそれらのDNA産物が多量に回収できた。本来無菌的な生体サンプル中から感染症を起こした場合の原因菌の検出とDNA鑑別が行える方法論として確立した。クローン病(Chrohn's disease)患者の小腸リンパろ胞をDNAフリー条件で微小切り出しを行って、それを16SリボソームRNAのユニバーサル配列を用いてPCRプライマーとしDNA増幅を行った結果、DNAが回収された。これの塩基配列を決定すると3人のうち2人の患者からグラム陽性球菌のPropionibacterium acnesが検出された。リポポリサッカライドで誘発される炎症、免疫、生体防御反応におけるケモカインの役割を考え合わせると、クローン病成立のための機序として極めて興味深い成績が得られた。A群溶レン菌、肺炎レンサ球菌、レジオネラ、黄色ブドウ球菌に対する特異的な増幅DNAが16S-23Sスペーサ領域内でユニバーサル配列の内側から回収されたことから、システマティックに菌種特異配列を検出する方法論が確立した。
今回のプロジェクトでは検出系の新しい方法論を確立できなかったのでいわゆる常在菌がみられる検体から原因微生物を検出する段階には至らなかった。ガラスチップ上に上記のA群溶レン菌、肺炎レンサ球菌、レジオネラ、黄色ブドウ球菌に対する特異的な塩基配列を有するプローブをペーストし、またその塩基配列を少しづつずらしたプローブをペーストすることと、プローブの量的な差をつけてペーストする事で定量化する方法論を確立すれば、喀痰検体からユニバーサルプライマーを用いてDNA増幅して得られるDNA産物を直接定量的に検出できるものと考えられた。
結論
 喀痰中からA群溶レン菌、肺炎レンサ球菌、レジオネラ、MRSAの同時検出を行い定量的な差を求めることで、現在の細菌検査室で行われているような検査をDNA診断できる可能性がみられた。16SリボソームRNAと23SリボソームRNAのスペーサ領域を標的にしてユニバーサル配列でDNA増幅するとそのような特異的配列の同時検出が可能であったことから、今後の定量検出方法の確立への進展が期待された。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)