精神障害者の認知機能障害を向上させるための「認知機能リハビリテーション」に用いるコンピュータソフト「Cogpack」の開発とこれを用いた「認知機能リハビリテーション」効果検討に関する研究

文献情報

文献番号
201027049A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害者の認知機能障害を向上させるための「認知機能リハビリテーション」に用いるコンピュータソフト「Cogpack」の開発とこれを用いた「認知機能リハビリテーション」効果検討に関する研究
課題番号
H20-こころ・一般-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
池淵 恵美(帝京大学医学部 精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 安西 信雄(国立精神・神経医療研究センター病院)
  • 岩田 和彦(大阪府立精神医療センター)
  • 古川 俊一(東京大学医学部付属病院リハビリテーション部)
  • 丹羽 真一(福島県立医科大学神経精神医学教室)
  • 伊藤 憲治(東京電機大学情報環境学部先端工学研究所)
  • 亀田 弘之(東京工科大学コンピュータサイエンス学部)
  • 後藤 雅博(新潟大学医学部保健学科)
  • 伊藤 順一郎(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
統合失調症の認知機能リハビリテーションは、認知機能と一般就労率の改善が報告されている。本研究では先行研究と同様のコンピュータソフト日本語版を開発し、認知機能リハビリテーションと就労支援によって、認知機能および就労関連指標が改善するか検討する。
研究方法
研究1:全国6施設で、統合失調症または統合失調感情障害60名を、無作為に認知機能リハビリテーション群とコントロール群に割り付け、前者はCogpackを用いた認知機能リハビリテーションを全24回、認知機能の改善を日常生活に結びつける言語グループを12回実施した。
研究2:全国11施設で、就労を希望する統合失調症または統合失調感情障害109名を募集し、リクルートの第1段階は就労支援のみ群に割り付け、第2段階では認知機能リハビリテーション(研究1と同様)+就労支援群に割りつけた。介入後一般就労率など雇用関連指標を介入終了後1年間追跡調査した。
研究3:コンピューター工学の専門家と認知機能リハビリテーション専用ソフトを開発した。
 本研究は厚生労働省・文部科学省による臨床研究倫理指針を遵守し、対象者本人に文書にもとづいて十分な説明を行い文書で同意を得た。帝京大学医学部および分担研究者所属施設の倫理委員会の許可を得た。
結果と考察
研究1:介入後認知機能リハビリテーション群はコントロール群と比較して、BACS-J総合得点、PANSS陽性症状及び総合病理評価、LASMI対人関係及び労働下位尺度が有意に改善した(二元配置分散分析、P<0.05)。2年以上実施経験のある2施設のみの評価(n=40)ではBACS-J言語記憶、数字配列、総合得点とワークサンプル幕張版遂行機能評価が有意に改善した。
研究2:認知機能リハビリテーション実施群においては、就労支援のみ群と比較してBACS-J言語記憶、数字配列、処理速度、総合得点と、LASMI対人関係下位尺度が有意に改善していた(P<0.05)。追跡調査では就労支援のみ群は1年後に57名のうち一般就労9名、障害者雇用9名、委託訓練など9名であった。認知機能リハビリテーション実施群は現在追跡途中であるが、半年後の障害者雇用8名で有意な増加傾向が見られた(χ2検定、p<0.1)。
研究3:6認知領域それぞれの3種類のコンピューター課題と、多領域の認知機能を使用する総合課題からなる、専用ソフトを作製した。
結論
認知機能リハビリテーションによって、統合失調症の認知機能の一部に改善が得られ、それにより対人関係機能および就労機能に改善をもたらすことが示された。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
-

文献情報

文献番号
201027049B
報告書区分
総合
研究課題名
精神障害者の認知機能障害を向上させるための「認知機能リハビリテーション」に用いるコンピュータソフト「Cogpack」の開発とこれを用いた「認知機能リハビリテーション」効果検討に関する研究
課題番号
H20-こころ・一般-002
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
池淵 恵美(帝京大学医学部 精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 安西 信雄(国立精神・神経医療研究センター病院)
  • 岩田 和彦(大阪府立精神医療センター)
  • 古川 俊一(東京大学医学部付属病院リハビリテーション部)
  • 丹羽 真一(福島県立医科大学神経精神医学教室)
  • 伊藤 憲治(東京電機大学情報環境学部先端工学研究所)
  • 亀田 弘之(東京工科大学コンピュータサイエンス学部)
  • 後藤 雅博(新潟大学医学部保健学科)
  • 伊藤 順一郎(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
統合失調症の認知機能障害の改善をめざす認知機能リハビリテーションのプログラムを開発してその効果研究を行うことと、認知機能の改善に伴って統合失調症の社会生活能力、特に就労の改善を検証した。
研究方法
平成20年度はコンピュータソフトCogpackの日本語版を作成し、予備研究(統合失調症または統合失調感情障害32名を無作為割り付けとし、NEAR実施)を行い、認知機能リハビリテーションおよび就労支援実施マニュアルを作成した。
平成21年度及び22年度は以下の研究を実施した。
研究1:統合失調症または統合失調感情障害60名を、無作為に認知機能リハビリテーション群とコントロール群に割り付け、前者はCogpackを用いた認知機能リハビリテーションを全24回、認知機能の改善を日常生活に結びつける言語グループを12回実施した。
研究2:就労を希望する統合失調症または統合失調感情障害109名を募集し、リクルートの第1段階は就労支援のみ群に割り付け、第2段階では認知機能リハビリテーション(研究1と同様)+就労支援群に割りつけた。一般就労率など雇用関連指標を介入終了後1年間追跡調査した。
研究3:6認知領域それぞれと多領域の認知機能を使用する総合課題からなる専用ソフトを作製した。
結果と考察
予備研究で、NEAR介入後には二元配置分散分析の結果、介入群において総合得点に有意な改善効果、トークン運動課題で改善傾向がみられた。また対人関係を示す指標(LASMI-I)において、有意な改善効果がみられた。
研究1の介入後の評価において、認知機能リハビリテーション群はコントロール群と比較して、二元配置分散分析でBACS-J総合得点、PANSS陽性症状及び総合病理評価、LASMI対人関係及び労働下位尺度が有意に改善した。
研究2では、認知機能リハビリテーション実施群においては就労支援のみ群と比較して、二元配置分散分析でBACS-J言語記憶、数字配列、処理速度、総合得点と、LASMI対人関係下位尺度が有意に改善していた(P<0.05)。追跡調査では就労支援のみ群は1年後に57名のうち一般就労9名、障害者雇用9名、委託訓練など9名であった。認知機能リハビリテーション実施群は現在追跡途中であるが、半年後の雇用状況において障害者雇用8名であり、就労支援のみ群3名に比べ有意な増加傾向が見られた(p<0.1)。
結論
認知機能リハビリテーションによって統合失調症の認知機能の一部が改善し、その結果社会機能などの改善がみられ、就労にも効果がもたらされることが示された。

公開日・更新日

公開日
2011-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201027049C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は学術面においては,コンピュータソフトを用いたトレーニングがヒトの認知機能を改善させる,という基礎的研究を、精神障害者の社会機能の向上と結びつけた点において、基礎と応用の架け橋となる独創的な側面を持つと同時に、疾患の中核をなす障害とされながら,薬物療法をふくめ現在までに効果的な治療法が確立されていない統合失調症の認知機能障害の治療に、新たな展開を与える点で臨床的にも有意義と考えられる。
臨床的観点からの成果
認知機能の介入方法が明らかにされたことで、精神障害リハビリテーションの新たな方法論が開発可能となった。具体的には認知機能リハビリテーションのメリットとして,構造が明確で繰り返し調整された難易度で取り組め,達成度や変化を参加者自身が感じ取りやすい、対人スキルが低い参加者でも感情的・認知的な妨害が入りにくく集中しやすい、問題解決能力や般化について応用の可能性があるなどの特徴があり、デイケア、就労支援事業所などで新たに活用可能なプログラムと考えられる。
ガイドライン等の開発
我が国における統合失調症などの治療ガイドラインではまだ推奨されていない。
統合失調症の認知機能を改善する方法論が明確となり、エビデンスも示されたために、ガイドラインへの修正を行うことが次の目標である。また精神障碍者の就労支援についても、体系的・理論的なガイドラインの基礎となる知見を得ることができた。
その他行政的観点からの成果
2004年以降、「精神保健医療福祉の改革ビジョン」「改革のグランドデザイン」「障害者雇用促進法の一部改正」「障害者自立支援法施行」などによって、厚生労働行政が就労支援の重要性を繰り返し示してきたが、本研究はその科学的方法を示すものであり、厚生労働行政の目指す「障害者がもっと『働ける社会』に」の実現に資することができる。さらに認知機能障害をもとに、社会的機能の科学的測定の開発に道を開くことによって、障害年金の査定などにも科学的根拠を与えることができる。
その他のインパクト
NHK教育テレビ「福祉ネットワーク」において、平成23年1月12日20時より30分間、
および2月26日10時より2時間の番組の一部で、本研究が紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
現在3本投稿中である。
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
4件
WPA(2012)、およびAPA(2013)にて発表
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
9件
研修会、学会での講演などを実施

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
池淵恵美、袖山明日香、渡邉由香子他 
認知機能リハビリテーションー統合失調症の治療にどう活用できるか。
精神医学 , 52 (1) , 6-16  (2010)
原著論文2
池淵恵美
認知機能リハビリテーションの地域における展開
精神保健研究 ,  (57) , 21-25  (2011)
原著論文3
池淵恵美
我が国における就労支援モデルの構築
精神科臨床サービス , 12 (4) , 436-448  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201027049Z