人工内耳を装用した先天性高度感音難聴小児例の聴覚・言語能力の発達に関するエビデンスの確立

文献情報

文献番号
201027032A
報告書区分
総括
研究課題名
人工内耳を装用した先天性高度感音難聴小児例の聴覚・言語能力の発達に関するエビデンスの確立
課題番号
H20-感覚・一般-005
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
山岨 達也(東京大学 医学部外科学専攻感覚・運動機能医学講座耳鼻咽喉科)
研究分担者(所属機関)
  • 土井 勝美(近畿大学 医学部耳鼻咽喉科)
  • 熊川 孝三(虎の門病院 耳鼻咽喉科・聴覚センター)
  • 坂田 英明(目白大学 保健医療学部・目白大学クリニック耳鼻咽喉科)
  • 伊藤 健(帝京大学 医学部耳鼻咽喉科)
  • 安達 のどか(埼玉県立小児医療センター 耳鼻咽喉科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性高度難聴児に対する人工内耳では聴覚・言語能力の発達に個人差が大きく、難聴の原因、人工内耳装用開始時期、療育方法、重複障害の有無など多くの要因が影響する。本研究では多数例の解析によりこの問題に検討を加える。
研究方法
対象は東京大学、大阪大学、虎の門病院で人工内耳手術を受けた先天性高度感音難聴小児316例である。難聴の原因、内耳奇形の有無、重複障害の有無、術前の言語・社会DQ、人工内耳装用開始年齢、語音聴取能、療育方法などと聴覚・言語能力の発達の相関を検討した。
結果と考察
内耳奇形・重複障害を除いた症例では、MAIS、少し遅れてMUSSは順調に向上したが、就学時の聴取能・言語力は手術年齢が遅いほど悪い傾向にあった。術後の聴取能と言語力には有意な相関が見られた。本邦では補聴効果が十分でない児も人工内耳手術を待機する傾向にあり、療育施設から医療機関への紹介が遅れるのみでなく療育施設での情報提供も少なく、両親がインターネットなどから情報を収集して受診する事も多い。すなわち療育施設において早期人工内耳装用が与える利点につき理解されていない点が問題である。人工内耳を選択するかどうかは別として、早期に人工内耳の適応につき診断が受けられるコンサルト体制を確立することが望まれる。難聴の原因別に見ると、サイトメガロウイルス感染、コネキシン26遺伝子異常では、難聴原因不明例と同等以上の聴取成績・言語力の発達が得られた。内耳奇形では蝸牛不全分離、前庭水管拡大症では良好な発達が見られたが、より高度な内耳奇形のcommon cavityと内耳道狭窄では成績不良であった。重複障害の合併例でも聴取能・言語力ともに不良であった。このような術後成績不良が予想される症例に対して現在の手術適応基準はあいまいである。人工内耳の適応基準において、重複障害や内耳奇形につき注釈を追加すると同時にメディアや広報を通じてこの情報が広まる行政的配慮も必要である。
結論
小児の人工内耳術後の聴取能・言語力の発達には、年齢、難聴の原因、重複障害の有無、療育方法が影響することが明らかとなった。難聴の早期診断から早期手術に至る療育施設・医療機関の協力体制の確立、人工内耳術後成績が不良と予想される症例に対する手術適応ガイドラインの追加作成、療育モードの重要性の周知と聾教育の体制の抜本的な改革が必要と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2011-06-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201027032B
報告書区分
総合
研究課題名
人工内耳を装用した先天性高度感音難聴小児例の聴覚・言語能力の発達に関するエビデンスの確立
課題番号
H20-感覚・一般-005
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
山岨 達也(東京大学 医学部外科学専攻感覚・運動機能医学講座耳鼻咽喉科)
研究分担者(所属機関)
  • 土井 勝美(近畿大学 医学部耳鼻咽喉科)
  • 熊川 孝三(虎の門病院 耳鼻咽喉科・聴覚センター)
  • 坂田 英明(目白大学 保健医療学部・目白大学クリニック耳鼻咽喉科)
  • 伊藤 健(帝京大学 医学部耳鼻咽喉科)
  • 安達 のどか(埼玉県立小児医療センター 耳鼻咽喉科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性高度難聴児に対する人工内耳では聴覚・言語能力の発達に個人差が大きく、難聴の原因、人工内耳装用開始時期、療育方法、重複障害の有無など多くの要因が影響する。本研究では多数例の解析によりこの問題に検討を加える。
研究方法
対象は東京大学、大阪大学、虎の門病院で人工内耳手術を受けた先天性高度感音難聴小児316例である。難聴の原因、内耳奇形の有無、重複障害の有無、術前の言語・社会DQ、人工内耳装用開始年齢、語音聴取能、療育方法などと聴覚・言語能力の発達の相関を検討した。
結果と考察
内耳奇形・重複障害を除いた症例では、MAIS、少し遅れてMUSSは順調に向上したが、就学時の聴取能・言語力は手術年齢が遅いほど悪い傾向にあった。術後の聴取能と言語力には有意な相関が見られた。本邦では補聴効果が十分でない児も人工内耳手術を待機する傾向にあり、療育施設から医療機関への紹介が遅れるのみでなく療育施設での情報提供も少なく、両親がインターネットなどから情報を収集して受診する事も多い。すなわち療育施設において早期人工内耳装用が与える利点につき理解されていない点が問題である。人工内耳を選択するかどうかは別として、早期に人工内耳の適応につき診断が受けられるコンサルト体制を確立することが望まれる。難聴の原因別に見ると、サイトメガロウイルス感染、コネキシン26遺伝子異常では、難聴原因不明例と同等以上の聴取成績・言語力の発達が得られた。内耳奇形では蝸牛不全分離、前庭水管拡大症では良好な発達が見られたが、より高度な内耳奇形のcommon cavityと内耳道狭窄では成績不良であった。重複障害の合併例でも聴取能・言語力ともに不良であった。このような術後成績不良が予想される症例に対して現在の手術適応基準はあいまいである。人工内耳の適応基準において、重複障害や内耳奇形につき注釈を追加すると同時にメディアや広報を通じてこの情報が広まる行政的配慮も必要である。
結論
小児の人工内耳術後の聴取能・言語力の発達には、年齢、難聴の原因、重複障害の有無、療育方法が影響することが明らかとなった。難聴の早期診断から早期手術に至る療育施設・医療機関の協力体制の確立、人工内耳術後成績が不良と予想される症例に対する手術適応ガイドラインの追加作成、療育モードの重要性の周知と聾教育の体制の抜本的な改革が必要と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2011-06-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201027032C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小児人工内耳術後成績には、年齢、難聴原因、重複障害の有無、療育方法が影響することが明らかとなった。聴取能・言語力は手術年齢が遅いほど悪い傾向にあった。難聴原因ではサイトメガロウイルス感染、コネキシン26遺伝子異常では良好であり、内耳奇形では蝸牛不全分離、前庭水管拡大症では良好だが、common cavityと内耳道狭窄では成績不良であった。重複障害合併例でも不良なことが判明した。
臨床的観点からの成果
聴取能・言語力は手術年齢が遅いほど悪い傾向にあり、難聴の早期発見、早期治療の重要性が再認識された。サイトメガロウイルス感染、コネキシン26遺伝子異常では成績良好であることから、これらの検査を術前に行うべきと考えられた。内耳奇形の内容で手術成績が大きく異なることから、術前の画像診断の重要性も再認識された。また同じ難聴原因群でも療育方法の違いが大きくが影響し、オーラルモードの重要性が明らかとなった。
ガイドライン等の開発
小児の人工内耳のガイドラインにおいて、下記の点を提言した。1)手術施行時期については、補聴効果が十分でなければ、より早期に行うこと。2)common cavityと内耳道狭窄では成績不良が予想されることから手術適応を慎重に決めること。3)重複障害合併例でも成績不良が予想されることから手術適応を慎重に決めること。4)療育モードはできるだけオーラルを重視すること。日本耳鼻咽喉科学会では早期手術の効果を認識し、手術年齢の基準については2014年2月に1歳6か月から1歳まで引き下げられた。
その他行政的観点からの成果
日本では多くの施設が人工内耳を行うため、まとまった解析報告がこれまでなかった。この研究は多施設共同研究であり、日本人において初めて小児の人工内耳術後の聴取能・言語力の発達のエビデンスを示すことができ、その意義は大きい。手術年齢が遅いほど人工内耳の利点を生かせないことや療育モードが小児の人工内耳の術後成績に大きく影響することを示すことができたが、この結果をもとに今後、特に聴覚特別支援学校での難聴児への初期対応や療育方法、指導のあり方に提言できる。
その他のインパクト
本研究の成果は教育維持新報に取り上げられ(平成23年1月25日)、療養が早期ほど発達良好であり、療育では「オーラルコミュニケーション」を重視すべきであることを見出しで明示された。またこの成果は第55回日本音声言語医学会学術講演会(平成22年10月14-15日)の会長特別講演にて報告した。また平成20年度と21年度に一般向け講演会を開催して、難聴児を持つ家族や医療関係者を中心に情報を共有した。

発表件数

原著論文(和文)
12件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
54件
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
熊川孝三
内耳奇形の聴覚検査所見
JOHNS , 25 (1) , 49-54  (2009)
原著論文2
Adachi N, Ito K, Sakata H et al.
Etiology and one-year follow-up results of hearing loss identified by screening of newborn hearing in Japan
Otolaryngology-Head and Neck Surgery , 143 (1) , 97-100  (2010)
原著論文3
Adachi N, Ito K, Sakata H
Risk Factors for Hearing Loss After Pediatric Meningitis in Japan
Annals of Otology, Rhinology & Laryngology , 119 (5) , 294-296  (2010)
原著論文4
Kizawa K, Doi K, Inohara H et al.
Behavioral Assessment and Identification of a Molecular Marker in a Salicylate-induced Tinnitus in Rats
Neuroscience , 165 , 1323-1332  (2010)
原著論文5
熊川孝三、武田英彦、射場恵、他
聴性脳幹インプラント
JOHNS , 26 (6) , 833-837  (2010)
原著論文6
山岨達也.
乳幼児難聴の聴覚医学的問題「治療における問題点」
Audiology Japan , 54 (6) , 649-664  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201027032Z