認知神経科学的アプローチによる精神神経疾患に対する偏見の実態調査と偏見軽減に関する研究

文献情報

文献番号
201027008A
報告書区分
総括
研究課題名
認知神経科学的アプローチによる精神神経疾患に対する偏見の実態調査と偏見軽減に関する研究
課題番号
H20-障害・一般-011
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 英彦(独立行政法人 放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大久保 善朗(日本医科大学 精神神経科)
  • 加藤 元一郎(慶應義塾大学 精神神経科)
  • 松浦 雅人(東京医科歯科大学 保健衛生学科)
  • 竹村 和久(早稲田大学 文学部心理学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまで疾患へのイメージや偏見の調査には質問紙などを用いて被験者自身の態度を報告するものが主流であった。しかしこれらの顕在評価法では、社会的に望ましい模範的な回答に偏ってしまうバイアスが存在することが指摘されていた。このバイアスを除去するため開発されたImplicit Association Test(IAT)を用いて、本年度は、知識や暴露といった影響の態度形成に与える影響を調べるため、医学部生や研修医を対象に研修の前後で昨年度と同様な手法を応用した。
研究方法
対象は研究参加の同意が得られた精神科系統講義を受ける前の医学部4年生27名(平均年齢23歳)、初期臨床研修医28名(平均年齢28歳)とし、系統講義、臨床実習、初期研修といった講義・研修の前後の2時点で、前年度用いたIAT課題などの評価を行った。
結果と考察
研修前の研修医においては、精神分裂病と犯罪者との連合が有意に強く、統合失調症と犯罪との連合の強さに差は見られなかった。一方で研修終了後、統合失調症IATでは、統合失調症と犯罪との連合が強まった。つまり、研修前後で、精神分裂病IATでは研修前に見られていた犯罪との連合における有意差が消失し、統合失調症IATでは逆に研修前では見られていなかった犯罪との連合における有意差が出現した。期待される方向とは反対に実習や医師として様々な臨床経験を積むプロセスにおいて、知識や記憶として統合失調症と犯罪の結びつきが強固になっている可能性が示唆された。これは一般的なリスク認知でも同様なことが報告され、経験や知識によってリスクに敏感になっているという解釈も可能である。

結論
今後、精神医学教育の中で精神障害に対する態度がどのように変化していくかを, 本手法を用いることによって経時的に調査する事で、必要とされる精神医学教育や研修について検討していくことが有用と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2011-06-13
更新日
-

文献情報

文献番号
201027008B
報告書区分
総合
研究課題名
認知神経科学的アプローチによる精神神経疾患に対する偏見の実態調査と偏見軽減に関する研究
課題番号
H20-障害・一般-011
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 英彦(独立行政法人 放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 大久保 善朗(日本医科大学 精神神経科)
  • 加藤 元一郎(慶應義塾大学 精神神経科)
  • 松浦 雅人(東京医科歯科大学 保健衛生学科)
  • 竹村 和久(早稲田大学 文学部心理学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
これまで偏見の調査に用いられてきた質問紙などの顕在評価法では、社会的に望ましい模範的な回答に偏ってしまうバイアスが存在することが指摘されていた。このバイアスを除去するため開発されたImplicit Association Test(IAT)を用いて、統合失調症への態度を調査し、さらにIATを用いて精神分裂病から統合失調症に呼称が変わったことによる本疾患に対するステレオタイプへの影響を調べた。精神疾患に対するネガティブな態度形成の認知神経メカニズムをfMRIを用いて検討した。疾病教育やearly exposureの効果を見るために、医学部生や研修医を対象に、精神医学の臨床研修の前後で潜在評価による態度調査を試みた。
研究方法
IATのターゲット概念には「精神分裂病」と「統合失調症」を用い、「糖尿病」をコントロールとした。属性概念は「犯罪者」と「被害者」を用いた。21年度以降は対象を医学部生や研修医として臨床研修前後での潜在的態度をIATで評価した。さらにその認知メカニズムを調べるため、IAT施行中の脳活動をfMRIにて計測した。
結果と考察
古い呼称の「精神分裂病」を使用した潜在評価法のIATではIAT効果が見られ、新しい呼称の「統合失調症」を使用したIATではIAT効果は見られなかった。このことは、精神分裂病と犯罪者の結びつきが強く、統合失調症となってその連合が弱まったと解釈できる。「精神分裂病」に関連する単語を見たときには恐怖の中枢である扁桃体が強く反応した。さらにこの扁桃体の活動とIATを実行している最中の前部帯状回の活動との間に相関があった。このことは「精神分裂病」に関連する単語を見た時に感じる恐怖が、「精神分裂病」に対するネガティブな潜在的態度形成に関わっていることを示唆する。
期待される方向とは反対に実習や医師として様々な臨床経験を積むプロセスにおいて、統合失調症と犯罪の結びつきが強固になっている可能性が示唆された。これは一般的なリスク認知でも同様なことが報告され、経験や知識によってリスクに敏感になっているという解釈も可能である。
結論
今後、精神医学教育の中で精神障害に対する態度がどのように変化していくかを, 本手法を用いることによって経時的に調査する事で、必要とされる精神医学教育や研修についてリスクコミュニケーションの知見を参考にしながら検討して行きたい。

公開日・更新日

公開日
2011-06-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201027008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
偏見・ステレオタイプ研究には質問紙等の顕在尺度だけでは社会的望ましさバイアスによる限界があり、Implicit Association Test(IAT)の他、描画法、生理学的指標などの潜在的指標が有用な情報を与えることを確認した。精神分裂病から統合失調症に呼称が変わるとこのステレオタイプが軽減することがIATで確認でき、呼称変更は一般市民に間で統合失調症に対するネガティブなイメージを軽減することに貢献していることが認知科学的にも明らかに出来た。
臨床的観点からの成果
医学生や研修医を対象とした調査では、実習や医師として様々な臨床経験を積むにつれて、統合失調症と犯罪の結びつきが強まることも確認され、今後の教育プログラムへの課題も見出された。今後、精神医学教育の中で精神障害に対する態度がどのように変化していくかを, 本手法を用いることによって経時的に調査する事で、必要とされる精神医学教育や研修について検討して行きたい。
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
統合失調症研究の専門誌Schizophrenia Research誌の他、雑誌Natureの統合失調症の特集号でも、NIMHのDirector Insel教授の記事においても取り上げられ、英語圏でも呼称変更の議論を刺激した。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takahashi H, Ideno T, Okubo S、et al.
Impact of changing the Japanese term for 'schizophrenia' for reasons of stereotypical beliefs of schizophrenia in Japanese youth
Schizophr Res , 112 , 149-152  (2009)
原著論文2
Takahashi H, Kato M, Matsuura M、et al.
When Your Gain is my Pain and Your Pain is my Gain: Neural Correlates of Envy and Schadenfreude
Science , 323 , 937-939  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201027008Z