施設高齢者を対象にしたロボット・セラピーの方法論-ロボット・セラピーの手引き開発に関する研究

文献情報

文献番号
201026019A
報告書区分
総括
研究課題名
施設高齢者を対象にしたロボット・セラピーの方法論-ロボット・セラピーの手引き開発に関する研究
課題番号
H21-認知症・若手-008
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
和田 一義(首都大学東京 システムデザイン研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 薫(首都大学東京 人間健康科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
1,950,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、認知症の新たなケア手法として、動物型ロボットとの触れ合いによる心のケア、“ロボット・セラピー”の効果的な実施方法を実現するための手引き開発を目的とした。本年度は、手引き作成に資する調査としてDCM(Dementia Care Mapping)を用いたロボット・セラピーの評価、開発した手引きの有効性検証を行った。
研究方法
DCMを用いた評価では、重度認知症デイケアにおいて5名の対象者を対象に、パロと触れ合う時間およびその他の過ごし方をDCMにより1.5時間の観察評価を行った。手引きの有効性検証では、認知症患者を有する施設のセラピー実施者に開発した手引きを配布し、手引き読了前後における実施者および利用者の行動を、観察シートを用いて複数の観察者により1分毎に記録した。各回の観察は、セラピー実施30分前から終了までの1時間行った。
本研究は、首都大学東京健康福祉学部の研究安全倫理委員会の承認を受け、その下で実施された。
結果と考察
DCMを用いた評価では、対象者全員のWIB値平均が +1.5 で比較的穏やかな状態で参加されていた。特にパロとの交流中のWIB平均値は +2.6と高値を示した。一方、パロを介したスタッフの関わり時は、WIB値が上がることもあれば、下がることもあり、使用者向けマニュアルおよびスタッフ教育が重要となると考えられた。
手引きの有効性検証は、4施設、9名の実施者、12名の施設利用者を対象に行われた。手引き読了前後におけるセラピー実施中の利用者笑顔の出現頻度(回数/分)に増加傾向、実施者の介入の出現頻度には有意な増加が見られた。実施者が手引きを参考に適宜介入を行うようになり、利用者の笑顔増加をもたらしたと考えられ、手引きの有効性が示唆された。また、認知症の日常生活自立度ランクによる比較では、ランクII以下、III共にセラピー実施前と比較して、実施中の笑顔と会話に増加が見られた。特に、ランクII以下の方は、IIIの方と比較して実施中の笑顔、会話の出現頻度が高かった。ロボット・セラピーはランクII以下の認知症が比較的軽度の方に対し、より効果的である一方、症状に合わせた実施方法の整備が必要になることが示唆された。
結論
DCMを用いた評価より手引きの必要性を再確認した。また、手引きの有効性検証を行い、その有効性を確認した。今後は、利用者の症状に合わせた実施方法について調査整理し、手引きの拡充を図る。

公開日・更新日

公開日
2011-08-08
更新日
-

文献情報

文献番号
201026019B
報告書区分
総合
研究課題名
施設高齢者を対象にしたロボット・セラピーの方法論-ロボット・セラピーの手引き開発に関する研究
課題番号
H21-認知症・若手-008
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
和田 一義(首都大学東京 システムデザイン研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 薫(首都大学東京 人間健康科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、認知症患者の新たなケア手法として、動物型ロボットとの触れ合いによる心のケア、“ロボット・セラピー”の効果的な実施方法を実現するための手引き開発を目的とした。
研究方法
ロボット・セラピーでは、実施者のわずかな対応の違いが利用者の行動に影響を及ぼし、実施者自身が介入の良さ/悪さに気付きにくいという問題がある。そこで、観察に基づき介入事例を収集、整理分析することにより、手引きを作成する。また、作業療法士に対するアンケート調査、本邦の医学専門雑誌に掲載されているペットロボットに関する文献調査、重度認知症デイケアにおけるDCM(Dementia Care Mapping)を用いたロボット・セラピーの評価により、ロボット・セラピーの留意点、課題を検討する。
次に、手引きの有効性検証として、認知症患者を有する施設のセラピー実施者に開発した手引きを配布し、手引き読了前後における実施者および利用者の行動を、観察シートを用いて複数の観察者により1分毎に記録した。各回の観察は、セラピー実施30分前から終了までの1時間行う。
本研究は、首都大学東京健康福祉学部の研究安全倫理委員会の承認を受け、その下で実施された。
結果と考察
都内5カ所の施設にて64回にわたり観察を行い、332例の介入事例を収集した。そして、収集した事例を基に、全7章、31ページからなる手引きを作成した。文献調査、作業療法士に対する調査、DCMを用いた評価より、ロボット・セラピーは対象者の精神面への良好な効果が期待できる一方、ロボットの使用に際して実施者による適切な支援が必要であり、それら情報をまとめた手引き書等の必要性が再確認された。
手引きの有効性検証は、4施設、9名の実施者、12名の施設利用者を対象に行い、手引き読了前後におけるセラピー実施中の利用者笑顔の出現頻度に増加傾向、実施者の介入の出現頻度には有意な増加が見られた。実施者が手引きを参考に適宜介入を行うようになり、利用者の笑顔増加をもたらしたと考えられ、手引きの有効性が示唆された。
結論
観察によりロボット・セラピーの事例を収集、整理分析することにより、ロボット・セラピーの手引きを作成した。また、文献調査、作業療法士に対する調査、DCMを用いた評価より、手引きの必要性を再確認した。そして、手引きの有効性検証を行い、開発した手引きが効果的なロボット・セラピーを実現する可能性を持つことを確認した。

公開日・更新日

公開日
2011-08-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2012-03-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201026019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
動物型ロボットとの触れ合いによる心のケア、ロボット・セラピーは、認知症患者の新たな心のケア手法として注目されている。しかし、実施者が異なると介入の仕方が異なり、効果に影響を及ぼすという問題があった。本研究は、このロボット・セラピーの標準化を目指す初の試みとして、効果的なロボット・セラピーを実現する手引き開発を目的とした。本手引きで対象としたアザラシ型ロボット・パロ(開発:AIST)は、世界唯一のセラピー用ロボットとして国内外の様々な医療福祉施設にて使用されており、その意義は大きい。
臨床的観点からの成果
DCM(Dementia Care Mapping)を用いたロボット・セラピーの評価より、WIB値の上昇、不安感や帰宅欲求などの周辺症状の抑制など、認知症高齢者への短期的有効性がみられ、パロは認知症者に対し有効な一つの手段となりうることが示唆された。一方、パロを効果的に使用するためのマニュアルやスタッフ教育が重要となることが確認された。これに対し、開発した手引きはスタッフ教育のツールとして役立ち、実施者の行動を改善し、ケアの質の向上が得られると期待される。
ガイドライン等の開発
本研究で得られた知見を基に、“ロボット・セラピーの手引き”とその英訳版である”Caregivers manual for robot therapy”を作成した。作成した手引きは、パロとの触れ合い活動における注意点やかける言葉の例を具体的に場面毎に記し、ロボット・セラピー未経験者であっても戸惑うことなく実施できるよう配慮されている。今後は、手引きを活用した講習会や世界のロボット・セラピーの実施施設・機関へ配布し、普及を図る予定である。
その他行政的観点からの成果
認知症の方々やその家族のニーズに適切に対応するため、認知症介護の現場における認知症ケアの標準化・高度化を目指す、認知症ケア高度化推進事業が推進されている。本研究は、認知症ケアの新たな手法として、ロボット・セラピーの標準化・高度化を目指す第一歩として行われた。得られた知見や開発した手引きは、上記事業の一助になると考える。また、神奈川県介護ロボット普及推進事業の中で介護者の研修に利用されている。
その他のインパクト
本研究は様々なメディアより注目され、JapanMedicine MONTHLY“セラピーロボットの使用マニュアル作成へ”(2010年3月25日付)、朝日新聞“動物ロボ介護現場で活躍”(2010年8月24日付)、NHK WORLD“In Focus: High-Tech Cuddles”(2010年9月21日放映)、夕刊 讀賣新聞“認知症支えるロボット”(2011年1月4日付)の中で紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
H22-23 神奈川県 介護・医療分野ロボット普及推進モデル事業の中で、介護者の研修、及び介護ロボット活用のガイドライン作成に利用された。
その他成果(普及・啓発活動)
3件
H22年度首都大学東京OU講座「認知症高齢者に対するリハビリテーション」、H24年度アザラシ型ロボット・パロによるロボット・セラピー研究会(9月52名参加;3月79名参加)を開催、紹介と意見交換

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201026019Z