アルツハイマー病の根本的治療薬開発に関する研究

文献情報

文献番号
201026015A
報告書区分
総括
研究課題名
アルツハイマー病の根本的治療薬開発に関する研究
課題番号
H20-認知症・指定-007
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
道川 誠(独立行政法人 国立長寿医療研究センター アルツハイマー病研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 松原悦朗(弘前大学医学部 神経内科)
  • 西道隆臣(理化学研究所 脳科学総合研究センター)
  • 富田泰輔(東京大学大学院 薬学系研究科臨床薬学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病発症機構における複数の標的を攻略し、有効な予防・治療薬を開発する。複数の標的とは、(1) Aβ産生機構解明と産生調節薬開発、(2) Aβ分解促進薬開発、(3) Aβ除去を目的とするAβ抗体療法開発、(4) Aβ分解・除去を目的としたHDL療法開発である。
研究方法
道川)(1)ABCA1発現を指標にHDL産生促進薬の2次・3次スクリーニング。(2)モデル動物へのアラキドン酸含有餌の投与ー脳内Aβ沈着・認知機能への効果を解析。(3)リポ蛋白リパーゼの生化学的機能解析。(4)ApoE3, ApoE4ーHDLのtight junction形成への影響の検討。松原:Aβ重合体特異的抗体の静脈投与による細胞死、タウリン酸化、Aβ沈着、認知機能障害への影響の解析。西道:相同的組み換えを利用したノックイン戦略で新規モデルマウスを作製。富田:オリジナルライブラリーの化合物あるいはスフィンゴ脂質系の遺伝子・分子等のγセクレターゼ活性に対する作用の検討。
結果と考察
道川:1)ABCA1蛋白発現を増加させる化合物3種類を同定した。2)アラキドン酸含有食餌の摂取で、モデルマウス脳内Aβ沈着減少と認知障害発症予防が認められた。3)新規Aβ結合分子(リーパーゼ)を発見した(特許出願1件)。松原:1)抗体の作用発現部位は後シナプスのスパインである。2)抗体投与群は対照群に比して記憶を保持し、Aβ細胞内蓄積を予防した。またtangle形成を抑制した。西道:1)ソマトスタチン受容体を介して、ネプリライシン活性が上昇した。2)新規モデルマウスの作成に成功した。富田:1)Notch切断を保ちながらAβ42産生を低下させるγセクレターゼモジュレーターを同定した。2)セラミド代謝経路関連遺伝子がAβ40/42産生を変化させた。3)スフィンゴ脂質S1PはBACE活性を制御した。4)S1P産生酵素SphKの阻害剤SKI IIは、脳内Aβ量を減少させた(新規AD治療薬になる可能性)。5)孤発性AD脳でSphK活性が有意に上昇した。
結論
1)HDL産生増加薬、アラキドン酸摂取により、治療・予防法開発につながる可能性がある。2)ApoE-HDLは血液脳関門形成にも重要である。3)Aβ重合体抗体療法は、細胞内 Aβ重合体を除去し、細胞死やAD病理出現を予防・改善させ、認知機能障害を予防・治療する。3)次世代型モデルの作成に成功した。今後創薬は治療評価で有用なツールとなる。4)スフィンゴシン経路に関与する遺伝子や蛋白は、副作用のないγセクレターゼ活性調節薬開発の新規標的となる。以上のように複数の予防・治療標的の攻略に進捗があった。

公開日・更新日

公開日
2011-07-27
更新日
-

文献情報

文献番号
201026015B
報告書区分
総合
研究課題名
アルツハイマー病の根本的治療薬開発に関する研究
課題番号
H20-認知症・指定-007
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
道川 誠(独立行政法人 国立長寿医療研究センター アルツハイマー病研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 松原悦朗(弘前大学医学部 神経内科)
  • 西道隆臣(理化学研究所 脳科学総合研究センター)
  • 富田泰輔(東京大学大学院 薬学系研究科臨床薬学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病(AD)発症機構の複数の標的を攻略し、有効なアルツハイマー病の予防・治療薬を開発する。複数の標的とは、(1) Aβ産生機構解明と産生調節薬開発、(2) Aβ分解促進薬開発、(3) Aβ除去を目的とするAβ抗体療法開発、(4) Aβ分解・除去とコレステロール代謝恒常性維持を目的としたHDL療法開発である。
研究方法
ApoE-HDL量の増加薬を、ABCA1プロモーター活性を指標にして探索した。ADモデルマウスを用いて、脂肪酸Aβ重合体抗体なをの投与によるAβ産生・沈着ならびに認知機能障害への効果を生化学的、病理学的に解析した。更に、Aβ代謝(産生・分解)に対する各種酵素並び分子群の機能を阻害ならびに促進させる化合物探索を行った。
結果と考察
(1)脳内HDL産生を増強する化合物探索で3種の化合物を同定した。(2)アラキドン酸含有食餌の経口摂取により、脳内Aβ沈着減少と認知障害発症が予防された。(3)リポ蛋白質リパーゼは、Aβと結合し、取り込み・分解を促進することを発見。創薬の新たな標的になる(特許出願1件)。(4) ApoE-HDLが、血液脳関門形成に重要な作用を持つことを発見。(5) 重合体Aβを特異的に認識する抗体を作成し、モデルマウスに投与した。脳内Aβ沈着ならびに認知機能障害予防・治療効果を認めた。臨床応用へ準備中である。(6) 次世代型のマウスモデル作製に成功した。APPを過剰発現せずにAβ42を過剰産生するノックインマウスを作製した。より臨床患者に近い病態を再現できるため、薬剤開発や治療効果判定に利用できる。(7)NEP活性を制御する因子としてソマトスタチンを同定し、受容体のサブタイプの同定および薬剤探索を行った。(8)「脂質環境の変化によるセクレターゼ活性制御」という新規戦略に基づいたAD創薬標的候補分子群の同定と活性制御法開発を行った。Notchシグナルへの影響を回避(副作用のない)する複数のγセクレターゼモジュレーターの同定に成功した。(9)新たに、SphK阻害剤投与が、脳内Aβ量を低下させることを発見。S1P経路が新たなAD創薬標的機構であることを明らかにした。
結論
薬剤探索では、HDL産生促進薬の候補化合物の同定、Notch切断を保ちながらAβ42産生を低下させる新規γセクレターゼモジュレーターを同定した。またSphk阻害剤のSKI IIが脳内Ab沈着を抑制することを発見し実用化へ検討中。Aβ重合体に特異的なモノクローナル抗体作成に成功し、前臨床試験を終了した。現在実用化に向けて製薬会社と開発中。

公開日・更新日

公開日
2011-07-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201026015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
薬剤開発では、化合物ライブラリーを使用して薬剤探索を行い候補化合物を同定した。新規Aβ分解経路の発見と特許申請を行った。副作用(Notchシグナル遮断)を回避する治療薬として、スフィンゴシン-1-リン酸受容体アゴニスト/機能的アンタゴニストFTY720を見出した。独自に作成したAβ重合体抗体の予防・治療効果を確認し、企業と臨床開発を開始した。新規動物モデル作成に成功した。今後の薬剤開発で威力を発揮すると期待される。
臨床的観点からの成果
アルツハイマー病の抗体療法に使用するモノクローナル抗体を作成し、モデルマウスにおいて認知症発症ならびにアルツハイマー病病理発現に対する予防・治療効果を明らかにした。企業と臨床薬剤開発を開始した。脂肪酸摂取により認知症発症ならびにアルツハイマー病病理発現に対する予防効果をマウスで明らかにした。すでに疫学研究によりヒトでの効果を検証中である。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
臨床応用が可能となるモノクローナル抗体を作成し、モデルマウスで効果を確認した。企業と臨床薬剤開発を開始した。脂肪酸を経口摂取することで認知症発症ならびにアルツハイマー病病理発現に対する予防効果をモデルマウスで明らかにした。現在疫学研究を実施中であり。ヒトでの効果を検証中である。効果が検証されれば臨床試験を行う予定である。
その他のインパクト
抗体療法による予防・治療効果については新聞記事で報道された。
新規のアルツハイマー病モデルマウスの作成に成功した。よりヒトに近い病理・病態を再現でき、発症機構の解明や治療薬開発、治療効果判定などにも利用される。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
53件
その他論文(和文)
26件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
52件
学会発表(国際学会等)
31件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishitsuji K, Hosono T, Uchimura K, 他
Lipoprotein lipase is a novel Ab-binding protein that promotes glycosaminoglycan-dependent cellular uptake of Ab in astrocytes
J. Biol. Chem. , 286 , 6393-6401  (2011)
原著論文2
Minagawa H, Watanabe A, Akatsu H,他
Homocysteine, another risk factor for Alzheimer's disease, impairs apolipoprotein E3 function
J. Biol. Chem. , 285 , 38382-38388  (2010)
原著論文3
Jung C-G, Horike H, Cha B-Y,他
Honokiol increases ABCA1 expression level by activating retinoid X receptor β
Biol. Pharm. Bull , 33 , 1105-1111  (2010)
原著論文4
Nakamura T, Watanabe A, Fujino T.他
Apolipoprotein E4 (1-272) fragment is associated with mitochondrial proteins and affects mitochondrial function in neuronal cells.
Mol. Neurodegener , 4 (35) , 1-11  (2010)
原著論文5
Zou K, Maeda T, Oba R. 他
Aβ42-to-Aβ40- and angiotensin- converting activities in different domain of angiotensin- converting enzyme.
J. Biol. Chem. , 284 , 31914-31920  (2009)
原著論文6
Minagawa K, Gong J-S, Jung C-G. 他
Mechanism underlying apolipoprotein E isoform-dependent lipid efflux from neural cells in culture.
J. Neurosci. Res. , 87 , 2498-2508  (2009)
原著論文7
Zou K, Maeda T, Michikawa M 他
New amyloid plaques or a game of hide-and-seek ?
Int J Biol Sci , 4 , 200-201  (2008)
原著論文8
Zou K Michikawa M
Angiotensin-converting enzyme as a potential target for treatment of Alzheimer’s disease: Inhibition or activation?
Rev Neurosci , 19 , 203-211  (2008)
原著論文9
Zou K, Hosono T, Nakamura T, 他
Novel role of presenilins in maturation and transport of integrin β1.
Biochemistry , 47 (11) , 3370-3378  (2008)
原著論文10
Nishitsuji K, Hosono T, Nakamura T, 他
Apolipoprotein E regulates the integrity of tight junctions in an isoform-dependent manner in an in vitro blood-brain-barrier model.
J. Biol. Chem. (in press)  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
2016-09-12

収支報告書

文献番号
201026015Z