ヘリコバクターピロリ感染に伴う胃粘膜病変発症の機序に関する研究

文献情報

文献番号
199700826A
報告書区分
総括
研究課題名
ヘリコバクターピロリ感染に伴う胃粘膜病変発症の機序に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 雅之(国立東京第二病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦では他の先進国に比し胃潰瘍、胃癌の罹患率が高く、ヘリコバクターピロリ(HP)感染治療の重要性が強調されている。しかし、無症候性のHP感染を治療することが医療経済的に有益であるかについては疑問である。したがって HPによる胃粘膜障害機序に即した治療法が今後さらに要求されてゆくと思われる。本研究では分子生物学的手法を用いHP株と粘膜障害因子である好中球集積、活性酸素産生、サイトカインとの相互関係明らかにする。
研究方法
(1)胃粘膜組織の採取.胃炎、消化性潰瘍、胃癌患者より同意を得た後、上部消化管内視鏡施行時に胃粘膜生検を行い組織を採取した。採取検体よりヘマトキシリンエオジン染色およびギムザ染色による病理組織標本を作製した。また、スキロー培地に塗布後、ヘリコバクターピロリの分離培養、増菌培養を施行し菌体を凍結保存した。さらに、生検粘膜組織を凍結しミエロペロキシダーゼ、サイトカイン定量の測定用に保存した。一部は生検後速やかに活性酸素産生量の測定をおこなった。(2)ヘリコバクターピロリ毒性遺伝子の検索.増菌後の菌株を処理しDNAを抽出後、病原性と関連が報告されているcagA遺伝子をPCR法を用いて検索した。なおコントロールとしてウレアーゼの遺伝子ureCを用いた。(3)胃粘膜生検組織内サイトカインの定量.凍結保存された胃粘膜生検組織をホモジネート後蛋白を抽出し、ELISA法を用いて炎症性サイトカイン(IL-8)を定量した。(4)好中球由来活性酸素量.生検胃粘膜組織を速やかにルミノールを含む培養液中に保存し、活性酸素産生(ClO-)量をケミルミネッセンスアナライザー(Biolumat LB9501)にて経時的に測定した。
結果と考察
胃粘膜生検組織中のミエロペロキシダーゼ含量はHP除菌後に著しく低下した。また走化性サイトカインであるIL-8も同様に除菌治療後著明に低下した。胃粘膜より分離培養した菌株のcagA遺伝子に関してはcagA陽性株では胃粘膜組織の好中球集積、活性酸素量が陰性株に感染した粘膜に比して高かった。以上より好中球は活性酸素産生細胞として胃粘膜障害に関与している可能性が示唆された。また、その原因の一つとしてIL-8産生の亢進が考えられた。HP株のcagA遺伝子は以上の障害に関わっていると推定された。
結論
HPによる胃粘膜障害因子として好中球由来の活性酸素が重要である。また、その産生にはHPのcagA遺伝子が間接的に関与している。

公開日・更新日

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更新日
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