疾病根絶対策の費用効果(コストベネフィット)に関する研究

文献情報

文献番号
199700825A
報告書区分
総括
研究課題名
疾病根絶対策の費用効果(コストベネフィット)に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
西村 裕一(財団法人国際保健医療交流センター)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
麻疹は天然痘、ポリオに続く第三の根絶対象疾病となる。この疾病は、南米大陸では2000年までに根絶を達成するというタイムスケジュールのもとにプログラムが進んでおり、これが成功した後の南北アメリカ大陸では麻疹は再興感染症となる。早晩、日本が南北アメリカ大陸にとって再興感染症の輸出国となることが危惧される。したがって日本における麻疹根絶の開始は早急に検討されるべきである。この際、最も大切なことは麻疹根絶が保健医療財政煮及ぼす影響の分析を行った上で、その結果を国内の世論に問い、根絶へのコンセンサスをえることである。その第一歩として、本研究は麻疹の根絶対策の費用効果について検討し、日本国内の麻疹根絶の是非についての検討資料を作成するとともにその結果が日本のおよび世界の根絶計画の推進に利用できるようにする。
研究方法
限定された地域における麻疹予防接種事業、患者発生頻度及びその治療、麻疹発生家族の労働力ロスなどから、その費用算定を行い、もし根絶された場合、その地域の保険医療費がどの程度の費用を節約できるかを算定する。それに該当する地域として日本の一地域(2県)を考える。1997年度は熊本県、福岡県両県における麻疹の予防接種にかかる費用および治療費の算定に必要な研究の基礎的データの収集、分析を行った。具体的には、両県の市町村における接種費用の調査、感染症サーベイランスにより報告数が集計される麻疹様疾患患者数の収集、分析を実施した。
結果と考察
予防接種の費用は、大きくワクチン価格と接種経費に分けられるが、名口規模の異なる市町村を熊本県から15市町村、福岡県から9市町村を選び、ワクチン接種費用を調査した。熊本県ではワクチン接種費用の最高は8000円、最低は7000円であった。福岡県は最高は8909円、最低は4981円であった。福岡県において接種費用が最も安い2地区は今回調査したうち集団接種を採っている2地区(他は熊本、福岡ともに個別接種)であり、予防接種法の改正以降、接種形態が個別接種へ移行していることを考えると、個別に移行した場合、接種費用が上昇することが見込まれる。なお、個別接種の場合、接種費用が最も低かったのは、遠賀郡の6135円であった。ワクチン価格は最高3778円、最低2800円であった。しかしほとんどの市町村が2800円から3000円の範囲に入っている。また接種の形態として、医師会へ委託して実施している市町村が多いが、ワクチン代金を除いた委託費は、3300円から6100円までさまざまであった。なお、両県ともこれらの金額には担当者の接種に関わる事務連絡、ポスター作成等広報費用は含まれていない。福岡県のワクチン接種率は平成8年には、70.4パーセント(対象者63000名に対して接種者数が、44500名)であったことから予防接種実施のみの経費として3億円以上が使われている。しかし、WHO麻疹対策専門家は日本の人口、ワクチン接種率から、少なく見積もって年間10万名の患者が発生していると推計している。麻疹様疾患の報告に関して熊本県は46カ所の報告定点から、95年度は248名、96年度506名、福岡県は66か所の報告定点から、95年度が2136名、96年度1020名の報告があり、サーベイランスの感度は低い。サーベイランスWHO専門家の意見を採ると、福岡で約4500名の患者発生があり、重症度の高い10パーセントの患児を入院させ治療(基礎疾患無し、5日間の医療費を10万円と見込む)した場合、医療費の総額は約4500万円となる。そこで、接種率がこの水準で推移し、麻疹が根絶されない場合、福岡県では毎年3億数千万円の経費がかかり続けることになる。以上より日本全体では80億円以上が毎年ワクチン接種費と麻疹患者の治療に費やされている。
結論
感染症根絶計画のコ
ストベネフィットを評価するために麻疹を場合にとって研究に着手した。その結果麻疹という感染症が存在するためワクチン接種費を主として、日本全体では毎年80億円以上が使われている。麻疹の予防接種強化が導入された場合、当初、年間の経費はこれを上回ることが確実である。しかし、短期間に根絶を実現するならば対策実施期間の経費増加分を取り戻して余りある経費の節減が実現する。根絶の実現のためには予防接種の強化とともに、発生監視、流行対策の決定を行うことのできるサーベイランスシステムが不可欠であると考える。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)