膝痛患者に対する3.0テスラMRIを用いての高精度画像診断技術の確立と膝痛の増悪因子の解明に関する研究

文献情報

文献番号
201025006A
報告書区分
総括
研究課題名
膝痛患者に対する3.0テスラMRIを用いての高精度画像診断技術の確立と膝痛の増悪因子の解明に関する研究
課題番号
H20-長寿・一般-010
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
越智 光夫(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 黒坂 昌弘(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 渡辺 淳也(帝京大学 ちば総合医療センター)
  • 中田  研 (大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 佐粧 孝久(千葉大学 医学部附属病院)
  • 出家 正隆(広島大学 大学院保健学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
14,170,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、中高年の膝痛を有する患者に対して高精度画像診断法を確立し、早期に軟骨障害を捉えること、さらにその経過を調査し、臨床・環境との関連を検討し、変形性膝関節症(膝OA)の原因となる軟骨損傷およびその予後を把握することである。
研究方法
 軽症・中等度膝OA患者に対して1)dGEMRIC法でのMR像撮影によるT1 mappingでの軟骨評価および経年的変化の評価、2)荷重位MR像での軟骨評価、3)MRIの解析ソフトウェアの開発を行った。高度膝OA患者に対して、3.0TMRIの画像所見が関節軟骨変性の病理所見をどの程度まで反映しているのかを定量的に評価した。大腿骨外顆病理標本をtypeII collagen, typeX collagen,aggrecanに対する免疫染色を行い、術前矢状断MRI各撮像(T2 mapping)での信号強度を比較した。
結果と考察
 dGEMRIC法により従来の方法では捉えることができない微細な質的軟骨損傷を描出できることが分かった。また本撮影を施行した全患者に対して膝に関する臨床症状や生活様式の変化の調査を行うとともに、X線像による関節裂隙の狭小化の計測を、初年度、2年目、3年目と行ったが、2年間で有意な変化が得られなかった。さらに足底より圧力を加え、膝関節に体重の1/2および1/4の荷重をかけて撮影した。荷重により軟骨損傷部が明確に描出できた。解析ソフトウエアの精度向上を目的として、多施設研究における測定差違を無くし、かつ短時間に画像解析結果を得ることの可能なソフトウエアを開発した。safraninO染色のみでなく、より詳細な軟骨基質マーカーであるtypeII collagen, typeX collagen,aggrecan, typeX collagenで確認した変性軟骨部においてT2 mapping によるT2値は有意に延長していることが証明され、3.0TMRI によるT2 mappingは軟骨変性の定量的評価に適し、治療評価にも有用である可能性が示唆された。また膝OAの進行に従い、MRI上、大腿骨顆部の輪郭の不整度が増大することに着目してきたが、不整度が臨床症状の悪化に相関して上昇することを明らかにした。
結論
 高精度診断画像技術としての3.0TMRIの有用性を証明し、より詳細な関節軟骨障害を捉えることができることが判明した。今回確立した本技術は膝OAの増悪因子の解明に寄与できる。

公開日・更新日

公開日
2011-09-13
更新日
-

文献情報

文献番号
201025006B
報告書区分
総合
研究課題名
膝痛患者に対する3.0テスラMRIを用いての高精度画像診断技術の確立と膝痛の増悪因子の解明に関する研究
課題番号
H20-長寿・一般-010
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
越智 光夫(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 黒坂 昌弘(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 内尾 祐司(島根大学 医学部)
  • 渡辺 淳也(帝京大学 ちば総合医療センター)
  • 中田  研 (大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 佐粧 孝久(千葉大学 医学部附属病院)
  • 出家 正隆(広島大学 大学院保健学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 3.0テスラMRI(3.0TMRI)を用いて高精度画像診断技術を確立し、MR像と臨床症状を比較検討し、変形性膝関節症(膝OA)の初期症状および増悪因子を解明することである。
研究方法
1.3.0TMRIで描出される関節軟骨像と病理組織学像との対比
高度膝OAで人工膝関節置換術時に採取した骨軟骨の病理組織像と同一部位のMR像を比較検討し、MR像で描出される軟骨変性部の程度を評価した。
2.3.0TMRIを用いての造影撮影法・荷重撮影法の確立
dGEMRIC法によるMR像撮影によるT1 mappingでの軟骨評価および経年的変化の評価、荷重位MR像での軟骨評価を行った。
3.MR像と臨床症状の比較による増悪因子の探索
dGEMRIC法にてMR像を撮影した同一症例を2年間、骨関節疾患予防検診調査票と診察シート、WORMS法を用いて、臨床症状の変化を調査とMR像T1値との関連を調べた。
結果と考察
1.3.0TMRIによる軟骨像と病理組織学像との対比
MR像と同一部位の病理組織所見を比較したところ、MR像は損傷組織部位を的確に描出していた。また、3.0TMRI によるT2 mappingは軟骨変性の定量的評価に適しており、関節軟骨変性の早期診断と治療評価に臨床応用可能であると考えられた。
2.3.0TMRIを用いての造影撮影法・荷重撮影法の確立
dGEMRIC法での評価では、レントゲン像のK-L分類で膝OAの進行に伴い、T1 mappingのT1値が低下した。K-L分類1度、2度の初期膝OAではプロトン強調像で描出できなかった軟骨損傷が、dGEMRIC法では明らかとなり、より鋭敏に初期の軟骨損傷の程度を把握できた。また、荷重MR像での評価では、内側関節部では、大腿骨側および脛骨側軟骨とも前方部で、半月板損傷例は非損傷例に比べ有意に荷重にともなうT2値低下が乏しく、半月板損傷にともなう荷重伝達機能不全が示唆された。本法により、従来は診断が不能であった微細な関節軟骨病変の診断や半月板損傷による力学環境不全の診断に対する可能性が示された。
3.MR像と臨床症状の比較による増悪因子の探索
臨床症状では、歩行や階段をのぼったりする動作の経時的な悪化が確認できたが、MR像で得られたT1値の変化との関連は見いだせず3年の経過観察では、増悪因子の把握は困難であり、より長期の経過観察が必要と思われた。
結論
 本研究で、高精度診断画像技術としての3.0TMRIの有用性を証明し、より詳細な関節軟骨障害を捉えることができることが判明した。今回確立した本技術は膝OAの増悪因子の解明に寄与できる。

公開日・更新日

公開日
2011-09-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201025006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 中高年の膝痛患者に対して3.0テスラMRIを用いて造影撮影法および荷重撮影法による撮影を行った。造影撮影法および荷重撮影法により従来のプロトン強調像ではわからなかった軟骨損傷がわかった。また、膝OA患者の手術時に採取した大腿骨骨軟骨組織を病理学的に評価した。MRI像は損傷組織部位を的確に描出できた。免疫染色での変性軟骨の特徴を示す部位ではT2値は有意に延長しており、軟骨変性を示唆した。以上より、3.0テスラMRIの有用性を証明でき、より詳細な関節軟骨障害を捉えることができた。
臨床的観点からの成果
 我が国の高齢化社会の中、変形性膝関節症として加療を要している患者は800万人以上と推定されるが、現在のところ変形性膝関節症の発症、進行を制御できる有効な治療法は開発されていない。
 本研究の方法を用いることにより、従来のMRI撮影法ではわからなかった軟骨損傷を見出すことができた。また、軟骨損傷部位が痛みの部位と一致することがわかり、早期に軟骨損傷を発見し、治療介入することで、変形性膝関節症の進行を防ぐことができ、早期診断や治療評価に有効な方法となることが考えられた。
ガイドライン等の開発
 高精度画像診断の3.0テスラMRIを用いて、変形性膝関節症の早期診断を行うツールおよび治療方針の正確な決定に重要な方法と考えられ、変形性膝関節症ガイドラインに寄与するものと考える。
その他行政的観点からの成果
 膝痛を有する患者に対して、3.0テスラMRIを用いて造影撮影法および荷重撮影法による膝関節のMRIを撮影した。これにより初期の変形性膝関節症の原因となる軟骨損傷を初期にとらえることが可能となり、早期に治療介入を行うことができ、高齢者では、関節症の進行により、要介護者となるものを減少させることができると考えた。
その他のインパクト
「骨と関節の日」に一般市民公開講座において、ロコモーティブシンドロームの原因となる変形性膝関節症の早期診断への有用な方法であることを一般市民に啓蒙した。

発表件数

原著論文(和文)
31件
原著論文(英文等)
41件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
156件
学会発表(国際学会等)
54件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ogino S, Sasho T, Nakagawa K, et al.
Detection of pain-related molecules in the subchondral bone of osteoarthritic knees.
Clinical Rheumatology , 28 , 1395-1402  (2009)
原著論文2
Ochiai N, Sasho T, Tahara M, et al.
Objective assessments of medial osteoarthritic knee severity by MRI: new computer software to evaluate femoral condyle contours
International Orthopaedics , 34 , 811-817  (2010)
原著論文3
Sasho T, Nakagawa K, Matsuki K, et al.
Two cases of synovial haemangioma of the knee joint: Gd-enhanced image features on MRI and arthroscopic excision
Knee , 18 (6) , 509-511  (2010)
原著論文4
岩間祐基、久保晴司、黒坂昌弘 他
T2マッピングによる関節軟骨の変性の評価-病理組織所見との対比-
関節外科 , 30 (5) , 118-124  (2011)
原著論文5
Toriyama M, Deie M, Ochi M, et al.
Effects of unloading bracing on knee and hip joints for patients with medial compartment knee osteoarthritis.
Clinical Biomechanics , 26 (5) , 497-503  (2011)
原著論文6
Matsuki KO, Sasho T, Nakagawa K, et al.
Comparison of MRI-based Assessment Systems for Osteoarthritic knees: The Irregularity Index System and WORMS
Journal of Orthopaedic science , 16 (4) , 369-375  (2011)
原著論文7
熊橋伸之、蓼沼拓、内尾祐司 他
3テスラMRIを用いた治療前後における変形性膝関節症の軟骨質的評価
日本関節病学会誌 , 30 (1) , 17-21  (2011)
原著論文8
熊橋伸之、蓼沼拓、桑田卓、門脇俊、内尾祐司
変形性膝関節症における3.0T遅延生ガドリニウム造影MRI(dGEMRIC)とT2マッピングを用いた診断と足底板治療における関節軟骨の質的評価.
別冊整形外科 , 62 , 81-85  (2012)
原著論文9
Kumahashi N, Tadenuma T, Kuwata S, Fukuba E, Uchio Y
A longitudinal study of the quantitative evaluation of patella cartilage after total knee replacement by delayed gadolinium-enhanced magnetic resonance imaging of cartilage (dGEMRIC) and T2 mapping at 3.0T: preliminary results
Osteoarthritis and Cartilage , 21 (1) , 126-135  (2013)
原著論文10
Katsuragi J, Sasho T, Yamaguchi S, et al.
Hidden osteophyte formation on plain x-ray is the predictive factor for development of osteoarthritis after 48 months - data from the Osteoarthritis Initiative
Osteoarthritis Initiative. Osteoarthritis Cartilage , 23 (3) , 383-390  (2015)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201025006Z