医療基準の改訂に伴う肺結核初回標準化学療法に関する研究

文献情報

文献番号
199700823A
報告書区分
総括
研究課題名
医療基準の改訂に伴う肺結核初回標準化学療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中島 正光(川崎医科大学呼吸器内科)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤有好(国立療養所西新潟中央病院)
  • 岸盡彌(国立療養所札幌南病院)
  • 渡辺章(東北大学加齢医学研究所)
  • 佐藤紘二(国立療養所東京病院)
  • 来生哲(国立高田病院)
  • 重籐えり子(国立療養所広島病院)
  • 高本正祗(国立療養所大牟田病院)
  • 坂谷光則(国立療養所近畿中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
PZAの結核症に対する有効性は古くから知られ、治療期間2ヶ月間にPZAを含む初期短期化学療法が米国、欧州など諸外国では広く使用され、入院期間短縮、医療費の軽減に貢献している。我が国においても平成8年4月結核医療基準の改定時にPZAを含む治療が肺結核初回治療の標準法として採用された。そこで、今回、初回強化短期化学療法の実施状況、治療効果などを検討した。
研究方法
17施設において無作為に初回強化短期化学療法を行った肺結核患者とした。また、これらの施設で結核治療にたずさわる呼吸器科および内科医師にPZAを含む初回強化短期化学療法に対する認識調査をアンケ-トで行った。副作用、転院など何らかの理由で治療が行えなかった症例を除き対象患者は全体で165名で、男性117名、女性48名であった。年齢は15歳から90歳、平均54.3歳であった。全例喀痰より結核菌が培養され、PCRなどで診断、また喀痰以外の検体から診断されたものは含めなかった。INH,RFP,EBによる初回強化短期化学療法は76名にINH,RFP,EB,PZAによる治療は89名に行われていた。
さらに、PZAに対する短期治療効果、副作用に関する認識、さらに投与する場合に気を付ける点などについてアンケ-ト調査を同じ17施設で63名の結核治療にたずさわる呼吸器科および内科医師に行った。
結果と考察
1)菌陰性化期間はPZA投与群の場合は1ヶ月が34.7%、2ヶ月が26.4%、3ヶ月が27.8%、4ヶ月が5.6%、6ヶ月以上が4.2%であった。PZA非投与群では1ヶ月が29.8%、2ヶ月が33.7%、3ヶ月が19.8%、4ヶ月が5.8%、5ヶ月が5.8%、6ヶ月以上が4.7%であった。菌陰性化期間についてはPZAを含む群で長い菌陰性化期間が多い傾向であった。しかし、統計学的に有意差は認められなかった。
2)入院期間はPZA投与群では1ヶ月が6.8%、2ヶ月が12.2%、3ヶ月が25.7%、4ヶ月が23.0%、5ヶ月が10.8%、6ヶ月が20.3%、6ヶ月以上が1.2%であった。これに反しPZA非投与群では1ヶ月が2.4%、2ヶ月が5.8%、3ヶ月が15.1%、4ヶ月が19.8%、5ヶ月が17.4%、6ヶ月が18.6%、6ヶ月以上が20.9%であった。入院期間についてはPZA投与群の方が短い傾向にあり、統計学的に有意差を認めた。
3)胸部X線写真(画像)の変化はPZA投与群では著明改善が26.3%、改善が69.7%、悪化は4%であった。PZA非投与群では著名改善が24.7%、改善が62.9%、悪化が7.9%、転院と死亡が4.5%であった。PZA非投与群に死亡例があったが、PZA投与の有無とは無関係と考えられた。
4)入院中の転帰についてはPZAを含む群では軽快が90.7%、転院が4%、自己退院が4%であった。これに反しPZAを含まない治療では軽快が80.7%、入院中が10.1%であった。転帰に関して傾向を見出せなかった。
5)PZA投与に対するアンケ-トによる認識調査では治療医師の68%がPZAの有効性を認め、PZAにより短期治療効果があると答えていた。また54%の医師がPZAの副作用の多いことを指摘している。さらに、半数以上の医師がPZAの使用において年齢、喀痰中の菌数、病型分類、また肝障害などの合併症を考慮して投与することを考えていた。また、軽症例には投与せず、ある程度の重症例にPZAの投与を行う傾向にあると答えた医師が多かった。
結論
入院期間はPZA投与群で短く、有意差を認めた。しかし、菌陰性化期間についてはPZAを含む群で長い菌陰性化期間が多い傾向はあったが、統計学的な有意差はなかった。医師のPZAに対する認識は68%の医師がPZAの有効性を認め、より重症の患者にPZAの投与を行う傾向にあると見られる。PZAは入院期間、菌陰性化期間短縮に貢献できる可能性は高いが、今回の検討では確定的ではなかった。重症度、病型分類、投与する患者の年齢、合併症の有無などが入院期間、菌陰性化期間に影響している可能性がる。今後、より詳細に対象人数を増やし検討すると共に副作用調査とも考え合わせて判断する必要がある。

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