医療基準の改定に伴う肺結核初回標準化学療法の副作用に関する研究

文献情報

文献番号
199700822A
報告書区分
総括
研究課題名
医療基準の改定に伴う肺結核初回標準化学療法の副作用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
和田 光一(国立療養所西新潟中央病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
昭和61年に改正結核医療の基準では、INH、REP、EB(SM)を第一選択の薬剤として「いわゆる短期化学療法」を採用し、PZAは重症例に限り、必要に応じて初期のおおむね2カ月間、前記3剤に加えてよいが、PZAの副作用の発現には特に注意を要するさされていた。これに対し、諸外国ではPZAを加えた結核治療が標準治療方式として行われてきた。本邦においても今回の改正により、平成8年4月本治療法が新たに初回標準法の一つとして加えられ、PZAを加えた結核治療が「いわゆる初期強化化学療法」として採用されるようになった。しかし、PZAを加えた治療群は有意差をもって副作用が多いことが以前指摘されており、PZAは肝機能障害、尿酸値上昇、発疹などのアレルギ-症状の出現する頻度が高いと臨床医は認識していることが多い。そこで、今回全国の主な結核治療施設における成績を集計し、初期強化化学療法における副作用を検討した。
研究方法
川崎医科大学附属病院、国療西新潟中央病院、国療札幌南病院、宮城野病院、国療東京病院、国立高田病院、国療広島病院、国療大牟田病院、国療近畿中央病院、国療千葉東病院、結核予防会結核研究所、財団法人宏潤会大同病院、大阪府立羽曳野病院、国療神奈川病院、国療東埼玉病院、国療刀根山病院、国療愛媛病院に1997年4月より入院した肺結核排菌患者を順に抽出し、アンケ-ト調査を行い、PZAを含む初期強化化学療法(初期2カ月のみPZAを加える2HRZS(or E)4HR(E)の6カ月療法)とPZAを含まない従来の標準療法の2群間における副作用の出現頻度についてretrospectiveに検討を行なった。
結果と考察
結果=1998年3月末で集計されたプロトコ-ルに合致した症例は227例で、PZAを含む初期強化化学療法群は118例、PZAを含まない従来の標準療法群は101例、多剤耐性菌などその他の治療が行われた症例は8例であった。これらの集計より以下の結果が得られた。?PZAを含む初期強化化学療法群の平均年齢は48.5±16.4才(男87例、女27例、不明4例)であり、標準療法群の平均年齢は58.8±20.1才(男71例、女29例、不明1例)であり、PZAは比較的若い症例で使用されていた。両群の年齢では有意な差(P=0.00004)が認められた。?PZAの使用量は1.0g19例、1.2g69例、1.5g25例、2.0g1例不明4例であった。副作用出現頻度は、1g群26.3%、1.2g群で40.8%、1.5g群で44%であったが、有意な差は認められなかった。?初期強化短期化学療法群では死亡3例、標準療法群では死亡7例を認めたが、いずれも結核病死あるいは基礎疾患による死亡で薬剤の副作用による死亡は認められなかった。?PZA使用群で尿酸値が記載されていた症例は92例で、うち84例(91.3%)で尿酸値の上昇が認められた。尿酸排泄薬は23.2%の症例で併用された。?尿酸上昇以外の副作用は、初期短期強化化学療法群で46例(39.3%)、標準療法群 で28例(27.7%)認められたが、両群に有意な差は認められなかった(P=0.079)。初期強化短期化学療法群の主な副作用は、肝機能障害28例(23.7%)、発疹10例(8.5%)などであった。一方標準療法群の主な副作用は、肝機能障害16例(15.8%)、発疹5例(5.0%)などであった。肝機能障害、発疹ともに初期強化短期化学療法群の方が頻度が高かったが有意な差は認められなかった。?PZAの使用量と副作用の発現頻度の関係では、1.0g使用群で26.3%、1.2g使用群で40.6%、1.5g使用群で44.0%であり、それぞれ有意な差は認められなかった。?PZA使用群における副作用発現後の処置はすべて薬剤を中止した症例とPZAのみを中止した群がそれぞれ半数であった。?副作用の発現日は、初期短期強化化学療法群では平均37.9日、標準療法群では53.1日であった。?初期短期強化化学療法群での検査間隔は、1週ごとが27例(27%)、2週ごとが44例
(44%)、4週ごと28例(28%)であった。
考察=PZAは、尿酸値の上昇がほぼ必発であり時にGOT、GPTの高度の上昇を認めることがあり、肝不全のための死亡例も報告されている。また、薬疹、発熱などの副作用も認められ、抗結核薬のなかでも比較的副作用の多いものと認識されている。このため、肝機能障害のある症例についてはPZAの使用は禁忌とされ、高齢者、高尿酸血症の症例でも慎重使用が求められている。このため、肝機能障害のある症例、高齢者をさけ比較的排菌量の多い結核患者を中心に本剤が使用されているのが現状である。これらの状況を反映して、PZA使用群と非使用群では平均年齢で差が認められている。副作用、臨床検査値異常は尿酸値の上昇を除いてもPZA使用群の方が頻度が高かったが、有意な差ではなかった。これはただでさえ副作用の頻度が高い抗結核薬3剤にさらに比較的副作用の多いPZAを加えるわけであるから、副作用の発現頻度が高くなるのは当然であろう。重要なことは、副作用の発現頻度が高くなるのに対し、治療効果が高くなり、治療期間が明らかに短縮するかどうかの検討である。副作用が発現すれば治療は一時中断せざるをえないこともあり、逆にその症例では治療期間が長くなることも考えられるが、集団として全体の治療期間が短縮されることを証明しなければならない。この点については、中島正光らが同じ症例を対象に検討しているので、その結果を待ちたい。先進諸外国では、PZAを使用した治療期間の短縮が一般的であり、本邦でも治療期間の短縮による患者のQOLの向上、経済的効果が強く求められている。その意味でも本研究は重要であるが、今回の検討はretrospectiveな研究であったため、両群の症例にバイアスがかかっており、完全な比較研究ということにはならない、Prospectiveな検討がまたれるところである。このほか、PZAによる尿酸値の上昇はほぼ必発である。これに対し、23.2%の症例で尿酸排泄剤が併用されていた。しかし痛風を合併している結核患者を除くと、尿酸値の上昇は臨床検査値異常であり、一過性のものである。副作用の発現は極めてまれであり、あえてPZA使用例全例に尿酸排泄剤を併用する必要はないものと考えられる。次に検査間隔の問題であるが、PZA使用例で肝機能異常が発生する時は急激に発生する。これに対し、28%の症例では4週に一度の検査が施行されていた。重篤な副作用、不可逆的な副作用を防ぐ意味で最低2週に一度の肝機能検査が必要であろう。最後にPZAを使用した初期短期強化化学療法と標準療法のプロトコ-ルの問題であるが、現在PZAを使用した初期短期強化療法では自動的に3カ月間治療期間を短縮してもよいこととなっている。しかし、結核菌がPZAに耐性であるか感性であるかの判定方法、ブレ-クポイントは現在確立されていない。PZA耐性菌が存在することは明らかとなっているが、その頻度などについては明らかにされていない。従って、PZA耐性菌であってもPZAを使用していれば3カ月間治療期間が短縮されることとなり、危険な問題が生じてくる。PZA耐性菌の頻度が高くなるとこれは大変な問題となることが明らかである。現在、日本結核病学会薬剤耐性検査検討委員会でこの問題については検討されているが、早急に結論をだすことが必要であろう。
結論
PZAを使用した初期短期強化化学療法と標準療法の副作用につき検討した。PZAを使用した群では尿酸値の上昇はほぼ必発であり、肝機能障害などの副作用も頻度は高かったが、有意差は認められなかった。両群ともに薬剤による死亡、不可逆的な副作用は認められなかった。したがって、肝機能障害例、高齢者を避け、慎重に使用(2週に1度以上の頻度で肝機能検査など)すれば十分にPZAによる 不可逆的な副作用は避けられる。      

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