オカルト黄斑ジストロフィーの効果的診断法の確立および病態の解明

文献情報

文献番号
201024255A
報告書区分
総括
研究課題名
オカルト黄斑ジストロフィーの効果的診断法の確立および病態の解明
課題番号
H22-難治・一般-200
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
角田 和繁(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター視覚研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 峰生(名古屋大学大学院医学系研究科感覚器障害制御学)
  • 篠田 啓(帝京大学医学部眼科学講座)
  • 岩田 岳(独立行政法人国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター分子細胞生物学研究部)
  • 國吉 一樹(近畿大学医学部眼科学教室)
  • 町田 繁樹(岩手医科大学眼科学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
オカルト黄斑ジストロフィーは遺伝性の黄斑部変性症であり、いまだにその臨床病態および病理学的・分子遺伝学的な原因が明らかにされていない。このため多くの眼科施設では正確な診断に至らず、誤った治療を受ける例が非常に多く、大きな問題となっている。さらに、当疾患には家族性タイプから弧発例タイプまでさまざまな亜型があることが予想され、本疾患の正確な病態の解明の必要性が強く求められている。本研究の目的は、本疾患の大家系、多数の小家系・弧発例の疾患病態を多施設間で詳しく調べることで、本疾患の臨床的および分子遺伝学的病態を解明し、診断基準の作製を行うことである。
 
研究方法
本研究の構成は(A)臨床病態調査、および(B)原因遺伝子検索からなる。
(A) 調査にあたっては発症の経過を詳しく調べる他に、健常者を含めた定期的な眼科ルーチーン検査(視力、視野検査等)、電気生理学的検査(全視野網膜電図、局所網膜電図)、画像診断(蛍光眼底造影、光干渉断層計)などを行い、眼科検査の面から疾患の完全な病態把握を行い、また確定診断に必要な効率の良い検査方法の選別、診断基準の作製を目指した。
 
B)検体は東京医療センター分子細胞生物学研究室に運ばれ、連鎖解析をもとに原因遺伝子の検索が行われた(担当:研究分担者岩田)。患者及び健常者について全ゲノム遺伝子多型アレーを用いて100万種類の遺伝子多型(SNP)を解析した(研究協力者、東京大学神経内科・辻省次)。家系内で患者と強く相関するSNPを抽出し、原因遺伝子の染色体上の位置を確定した。さらに連鎖不平衡ブロック(LDブロック)を決定し、この領域内に存在する網膜で発現し、疾患に関与すると考えられる遺伝子についてPCRとダイレクトシークエンスによって遺伝子変異を探索した。
結果と考察
優性遺伝型オカルト黄斑ジストロフィーの原因が視細胞の構造タンパク「RP1L1」の異常によるものであることを世界で初めて解明した。またRP1L1変異を有する患者において、また、電気生理学的検査によって視細胞機能を確認するとともに、視細胞の詳細な構造描出が可能な光干渉断層計(OCT)による計測を行った。黄斑部ERGで異常を来した発症例すべてにおいて、COSTラインの消失を含むOCTでの異常所見が見られたことにより、OCTによる非接触的な画像解析によってオカルト黄斑ジストロフィーのスクリーニングを行うことができる可能性が示された。
結論
 黄斑ジストロフィーの原因が視細胞の構造タンパク「RP1L1」の異常によるものであることを解明するとともに、今後重要となる多施設臨床共同研究のための体制を整えることができた。

公開日・更新日

公開日
2011-12-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201024255C

成果

専門的・学術的観点からの成果
優性遺伝型オカルト黄斑ジストロフィーの原因遺伝子として、RP1L1を同定した。
ひとつの独立した眼科疾患の原因遺伝子を国内のみの研究チームで解明したのは今回が初めてのことであった。ただし、本疾患にはRP1L1の変異を有しないタイプも多くあることが分かり、他の原因遺伝子の解明および、遺伝子異常から疾患発症に至るメカニズムの解明が今後の課題となった。
臨床的観点からの成果
オカルト黄斑ジストロフィーについて、同一の遺伝子異常を有していても発症時期は6才から50才台まで非常に幅がある。黄斑部ERGにて発症が確認されていても、視力低下などの自覚症状のない患者が存在する。OCTでは自覚症状のない患者でも視細胞層の異常が生じており、比較的発症初期から視細胞の構造が変化しているなど、様々な新しい知見が得られた。これにより、これまでに議論のあった本疾患の詳細な病態、長期経過等も明らかにすることが出来た。
ガイドライン等の開発
最近の多数例の遺伝子解析によって、本疾患についての「表現型-遺伝子型関連」は1対1対応ではなく、また表現型も当初の概念より幅が広いことが分かっている。特に最近は海外も含めてRP1L1遺伝子についての新たな知見も発表されている。
平成26年度に、本疾患のガイドラインの作成について集中的に議論する予定である。
その他行政的観点からの成果
H22年度の遺伝子解析、臨床解析は東京医療センターおよび新潟大学における症例を中心に行われた。8月の研究班発足とともに全国の各大学との共同研究を開始したところであり、今後症例が集積され、ガイドライン作製作業が進むことにより行政政策に反映されることになる。
その他のインパクト
今回の黄斑ジストロフィーの原因遺伝子解明は、ひとつの独立した眼科疾患の原因遺伝子を国内のみの研究チームで解明した初めてのケースであった。今後の治療開発に向けた大きな一歩となったため、主要新聞記事にてその成果内容が報告された。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
22件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Akahori M, Tsunoda K, Miyake Y, et al.
Dominant mutations in RP1L1 are responsible for occult macular dystrophy
Am J Hum Genet , 83 (3) , 424-429  (2010)
原著論文2
Fujinami K, Tsunoda K, Hanazono G, et al.
Fundus Autofluorescence in Autosomal Dominant Occult Macular Dystrophy
Arch Ophthalmol , 129 , 597-602  (2011)
原著論文3
Hanazono G, Ohde H, Shinoda K, et al.
Pattern- reversal visual-evoked potential in patients with occult macular dystrophy
Clinical Ophthalmology , 10 (4) , 1515-1520  (2010)
原著論文4
Inomata K, Tsunoda K, Hanazono G, et al.
Distribution of Retinal Responses Evoked by Trans-scleral Electrical Stimulation Detected by Intrinsic Signal Imaging in Macaque Monkeys
Investigative Ophthalmology & Visual Science , 49 (5) , 2193-2200  (2008)
原著論文5
Hanazono G,Tsunoda K, Kazato Y, et al.
Evaluating Neural Activity of Retinal Ganglion Cells by Flash-evoked Intrinsic Signal Imaging in Macaque Retina
Investigative Ophthalmology & Visual Science , 49 (10) , 4655-4663  (2008)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201024255Z