サーベイランスデータの疫学指標への活用に関する研究

文献情報

文献番号
199700819A
報告書区分
総括
研究課題名
サーベイランスデータの疫学指標への活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
谷口 清州(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在感染症サーベイランスデータは、迅速というところに視点を置いて、CDC MMWRにて採用されているCurrent Past Experience Graph (CPEG)形式と過去10年間との比較グラフにて検討している。しかしながら、サーベイランスシステム自体がその定点サーベイランスであるという本質的な制限とその他実行上の問題点を抱えているためこれらを実際の疫学的指標として活用するには種々の困難がつきまとう。本研究ではサーベイランスデータを迅速にわかりやすく提供することを念頭に置き、また行政対応に反映できることを旨とし、早期警報を含めたデータ解析方法を検討することを目的とする。
研究方法
現行のデータ解析方法であるCPEG形式では、過去5年間の経験、すなわち平均と標準偏差 (SD)とを使用し、当該の週のデータと比較して、平均+1SD、あるいは平均+2SDの場合その旨表示しているが、これらの数字がどのくらい実状を反映しているか、平成9年度の毎週のデータと比較検討した。また、Autoregression Incorporated Moving Average (ARIMA)法を用いて、過去のデータから流行モデルを作成し、予測モデルとともに95%信頼期間を計算して、予測或いは早期警報への活用を検討した。また、retrospectiveな疫学指標への活用として、厚生省人口動態統計のデータからインフルエンザによる過剰死亡モデルを、上述のARIMAモデルを使用して作成した。
結果と考察
現行のサーベイランスのうち週報疾患の流行パターンは、インフルエンザのように急峻な季節性を示すもの、麻疹や風疹のように緩やかな季節性を示すものとその他の季節性変動に乏しいものに分けられる。また、感染性胃腸炎、乳児嘔吐下痢症、インフルエンザ、手足口病、ヘルパンギーナは全国的流行を起こしうるが、その他の疾患はそう頻繁に起こるものではない。これらの疾患についてCPEG形式にてどのくらい流行をとらえられるか検討した。
急峻な季節性を示す疾患として96/97と97/98シーズンにおけるインフルエンザを取り上げ検討した。96/97シーズンは96年第49週より患者数が増加し始め、97年3週と4週でピークとなりその後減少した。CPEGにて過去の平均+標準偏差を超えたのは第13週で、その後14から24週までと28から36週まで2標準偏差を超え、その後37から44週まで1標準偏差を超えていた。過去よりも小さな流行のため、流行開始時にはCPEGにてはとらえられなかった。しかしながら、ARIMAを用いた予測モデルでは、96年44、45週で連続2週間epidemiological thresholdを超え、流行の開始を予測できた。97/98シーズンに目を移すと、98年第4週までは過去の平均+1標準偏差を下回っていたが、第5週で1標準偏差を超えた。しかしながら、この時期にはすでに全国的な流行となっており、流行をとらえることはできたが、早期予測には役立たなかった。ARIMAを使用したモデルにておいては、モデルの95%信頼区間上限を超えた時点ですでに急峻な立ち上がりを見せており、早期予測はできなかった。都道府県毎に見てみると、2週連続で報告数が増加する都道府県があらわれるのは、97年53週から98年2週にかけて和歌山県にて2週連続で増加し、その後第3週から全国流行となった。これからは、早期予測には地域での動向が有用と考えられた。
1997年一年間で、風疹の全国集計データ解析では、一度も過去の平均+標準偏差を超えたことはなかった。地域別の解析では地域的に流行があったが、こ全国集計のCPEG解析ではとらえられていなかった。そこで、ARIMAを使用してモデル化を行ったところこの部分の報告数の増加はモデルより過剰部分としてとらえることができた。しかしながら、95%信頼区域を計算したところ、この域は超えておらず、統計学的に報告数増加という判定はできなかった。
同様に緩徐な季節性を示す溶連菌感染症を見てみると、CPEGにて全国レベルでの報告数の増加は検出できていたが、詳細に見てみると地域での増加を反映しており、全国的な流行があったわけではなかった。予測モデルでは、一時的にepidemiological thresholdを超えるが、しばらくすると範囲内に低下し、全国的流行ではないことがわかる。
後方視的な解析として、インフルエンザによる過剰死亡モデルを動揺にARIMAを使用して作成した。今シーズンの予測値も併せて作成したので、今年度のデータと併せて、過剰死亡の評価ができるものと思われる)。
今回の結果からは米国で行われているCPEGは、疾患発生数が少なく、変動が少ない場合には鋭敏に変化をとらえることができるが、現在の日本のようにまだまだ疾患発生数が多く、時に流行が見られる状況では、鋭敏にとらえられないことが示唆された。しかしながら、自己回帰を用いた予測モデルと地域ごとの解析を加えると、全国規模の流行を起こす疾患のみならず、地域的な流行を起こす疾患の地域での流行もより鋭敏にとらえられることより、早期警報システムには地域での解析と全国での解析を加えることが必要であると思われた。その他に早期警報システムを設定している国としてフランスがあげられるが、やはり早期警報には回帰モデルを用いた予測と"Kriging"モデルを用いた空間的解析を併用しており、一元的な解析の限界であると思われた。
結論
今後の解析方法としては、都道府県あるいは保健所単位にて流行予測モデルを作成してthresholdを設定するとともに、空間的な解析にて単位地域で2週連続してthresholdを超えた場合に、早期警報を出すことが有効と考えられた。

公開日・更新日

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