日本国内の新興および再興リケッチア感染症の重症化と宿主側要因に関する研究

文献情報

文献番号
199700818A
報告書区分
総括
研究課題名
日本国内の新興および再興リケッチア感染症の重症化と宿主側要因に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
岩崎 博道(福井医科大学・第1内科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国では、一時その発症が殆ど認められなかったリケッチア感染症のツツガムシ病が、近年再興し届け出数も増加している。しかし、病原体の毒性には関係なく重症化する個体(宿主)が存在することが認識されていることより、本研究ではツツガムシ病の重症化機序を解明することを目的とし、重症感染患者の治療前後のサイトカインの血中濃度を測定するとともに、リケッチア症において治療効果が特効的とされるテトラサイクリン系薬剤の抗リケッチア作用とは異なる、本症を治癒に導くメカニズム解明を実験的に検討し、宿主側のサイトカインの誘導能の相違と重症化との関連性について明らかにすることを目的とした。
研究方法
1)患者の重症度:対照とした9例は全例入院による加療を必要とした重症例であるが、本研究では重症度を明確化するために、臨床症状(中枢神経症状や肝脾腫の有無など)ならびに検査値(肝機能、腎機能、凝固系など)を用いスコア化(0~11ポイント)することにより判断した。2)臨床症例における血中サイトカインの測定:血清抗体価の上昇より診断された9例のツツガムシ病の急性期および、そのうちの7例のミノサイクリン投与後(回復期)の血中サイトカイン(M-CSF, G-CSF, IFN-g, IL-1a, IL-1b, IL-2, IL-6, IL-8, IL-10)を測定し、重症例のサイトカイン誘導能を検討した。サイトカインの測定はELISAキットを用いた。3)リケッチア感染症にともなうマクロファージからのシグナル伝達:ヒト白血病由来のHL-60細胞(2 x 105個)を、フォルボールエステル(TPA) 10 ng/ml存在のもとに24時間培養し、マクロファージに分化させた後、上清を取り除き抗生物質、抗真菌剤を含まない培養液(RPMI-1640)を用いてさらに24時間培養した。この培養の間、Karp株のOrientia tsutsugamushi 菌体のみを添加した場合、ミノサイクリン10 mg/mlのみを添加した場合、さらにO. tsutsugamushiとミノサイクリンの両者を同時に添加した場合を比較検討した。培養終了後、その上清に含まれるサイトカイン濃度をELISAキットを用いて測定した。
結果と考察
臨床的には9例の対照患者のうち急性期にM-CSFは全例、IFN-gは6例、G-CSFは5例、TNF-aは2例が増加を示した。回復期にはM-CSF, IFN-g, G-CSFは正常域に復したが、TNF-aのみが測定し得た7例中5例(71%)において急性期よりさらに高値を示した。この中には重症度の高い4症例(重症度スコア≧5ポイント)が含まれた。この結果より、ツツガムシ病の重症化機序にはサイトカイン誘導能の関与が示唆された。特に回復期におけるTNF-aの上昇が特徴的であり、TNF-aがミノサイクリンによる化学療法後に活性化され、重症化の抑制に関与している可能性が推測された。最も重症化した症例は、骨髄内でマクロファージが活性化し自己血球を貪食してしまう血球貪食症候群を呈していたことより、リケッチア感染症が生じた場合、病原体を除去するために、活性化したマクロファージが増殖することは生体防御の観点からは有意義であることが考えられた。しかし、マクロファージの刺激に関連した複数のサイトカインの血中濃度が上昇することが、病態を重症化するメカニズムの1つであることが推測された。
実験系においては、O. tsutsugamushi添加培養後、TNF-a, M-CSF, IL-8はそれぞれ上清中の濃度がコントロールに比べ上昇していた。O. tsutsugamushiと同時にミノサイクリンを添加した場合、M-CSFおよびIL-8の誘導が抑制されたのに対して、TNF-aは一層刺激されたことより、マクロファージからミノサイクリンにより、TNF-aが誘導されたことが推測された。
以上のことより、ツツガムシ病の重症化の機序にはマクロファージに関連するサイトカインの誘導が関連し、通常抗リケッチア作用を目的として用いられているミノサイクリンが、付加的な作用機序として、生体のサイトカインの誘導能に影響し、一部のサイトカインを抑制したり、他のサイトカインを一層誘導することにより、生体環境を変化させる可能性のあることを強く示唆していると考えられる。同一の病原体に対する生体のサイトカイン産生能が個体により相違が認められる可能性もあり、この点の解明が一部のリケッチア感染症例において重症化に至る機序を説明し得る可能性が示唆された。
結論
リケッチア感染症に対する生体防御のシグナルとして誘導されたサイトカインがマクロファージを刺激し貪食能を高めることは病原体の生体からの除去に有利に働くと考えられた。しかし、一部ではその機能が過剰になり、血球貪食症候群を合併することによる重症化のメカニズムが存在することが示された。さらにサイトカイン誘導を修飾するためにミノサイクリンがリケッチア感染症に有用な薬剤であることも推測された。

公開日・更新日

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