鞭毛遺伝子を標的としたPCR法による迅速なライム病診断法の開発 

文献情報

文献番号
199700817A
報告書区分
総括
研究課題名
鞭毛遺伝子を標的としたPCR法による迅速なライム病診断法の開発 
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 雪太(旭川医科大学医学部寄生虫学講座)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ライム病の診断は、臨床症状、マダニ刺咬既往歴、血清検査、培養検査などの結果から総合的に判断して行われているが、世界的に統一された診断基準はまだ確立されていない。現時点では紅斑部の生検組織の培養によるボレリア分離がもっとも確実な診断法である。しかしボレリア分離はその培地の特殊性、結果判定に要する時間などの欠点がある。そこで本研究では、ボレリア鞭毛遺伝子を標的としたPCR法で感染を判定し、同時に起因ボレリア種の特定もできる迅速なライム病診断法の開発を目的とした。
研究方法
ライム病ボレリアは皮膚組織に存在しているが、その密度は小さく1回のPCRでは増幅が難しいためnested PCR法を用いた。すなわち塩基配列が決定されているボレリア鞭毛遺伝子約1,000 bpについて、1回目はその中の800bpを標的に、2回目はさらにその内側の580bpを標的にするプライマーを設計した。この580bpの塩基配列中には各種ボレリア特有の制限酵素切断部位があることが判っている。
そこで既知の各種ボレリアを感染させたマウスの皮膚から抽出したDNAを用いてNested PCRを行い、ついで増幅産物を5種類の制限酵素(Hap II, Hha I, Cel II, Hinc II, Dde I)で処理してRFLPパターンから起因菌を決定した。また、従来の培養法とPCR法による検出感度の比較も行なった。さらに遊走性紅斑の出現でライム病が疑われた患者の生検皮膚組織を用いて同様に検討した。
結果と考察
すべての感染マウスから標的配列の増幅シグナルが得られ、それらのRFLPは感染源のボレリア種と一致した。また今回のnested PCR法では組織10mgあたりボレリアが10から100菌体存在していれば検出できることが推定された。臨床例では11例中7例で増幅シグナルが得られ、RFLPからいずれもfla IIタイプ(Borrelia garinii)に分類された。fla IIはIIaからIIfまで6つのサブタイプに細分されるが、今回はIIa、IIdおよびIIeの3サブタイプが検出された。また、培養およびPCRとも検出感度に差異がないことが確認された。PCRによるライム病診断法は他にもいくつか報告されており、多くは菌体表層タンパク(OspA)遺伝子を標的としているが、この遺伝子はボレリア種毎に異なっているため種特異的なプライマーを設計しなければ増幅できなかった。しかし今回標的とした鞭毛遺伝子はライム病ボレリアや他の関連ボレリア種の間で共通配列があり、それらに挟まれた内部に種特異的な塩基置換があるため、PCR反応後に増幅産物を制限酵素で切断して種の同定が可能であった。すなわち、ボレリア感染の有無が判明すると同時に起因種の同定も可能な検出法であることが示唆された。ライム病の原因となるボレリアは3種類が知られており、各種類毎に症状も異なるため、菌種の同定が同時に行えることは治療方針に有益な情報をもたらす。また、今回nested PCR法を用いているので感染者由来のDNA混入の影響がなく、検出感度・信頼性の高い方法であると考えられる。従来の培養による感染判定には約1週間を要していたのに対し、本法ではサンプル到着の翌日にはすべての作業が終了する。PCR法はすでに臨床検査の現場では日常的に用いられる技術であり、プライマーと酵素を準備すればすぐに普及することも可能であると思われる。本法はすべてのボレリア種をユニバーサルに検出・分類することが可能であり、日本のみならずライム病が分布している各国においても標準的な診断方法となる可能性がある。
結論
今回用いたボレリア鞭毛遺伝子を標的にしたPCR-RFLP法は、簡易かつ迅速なライム病診断法として応用可能であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)