ハンタウイルス感染症の診断技術の開発とその標準化に関する研究

文献情報

文献番号
199700815A
報告書区分
総括
研究課題名
ハンタウイルス感染症の診断技術の開発とその標準化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
森松(吉松) 組子(北海道大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ハンタウイルス感染症の海外からの突然の侵入および国内での突発的な発生に際して迅速かつ確実に診断を行うことを目的とし,ハンタウイルス感染の血清診断法を標準化する。さらに感染株の特定を48時間以内に血清診断法およびPCR法によるウイルスゲノム検出によって行うことを試みる
研究方法
ハンタウイルスの抗原性は大きく3つに分けられる.ラット等の真鼠類を媒介動物とするHantaan (HTN), Seoul (SEO), Dobrava (DOB)やArvicolinaeを宿主とするPuumala (PUU), Prospect Hill (PHV), Tula (TU), Khabarovsk(KBR),Sigmodontinaeを宿主とするSinNombre(SNV)および南米の未分類ウイルスである.これらのハンタウイルス感染をもれなく診断するための一次スクリーニング系として,HTN, PUU, SNVの3種類をEIA抗原として準備する.
一次スクリーニングで抗体陽性となった検体の迅速な確定診断法として,Western Blotting法を確立する.これらの検体については同時に,血清型鑑別EIAを行う.共通抗原領域を取り除いた組換え核蛋白抗原を用いることで罹患ウイルスの血清型を血清反応から区別できることを報告している.そこで,DOB, PUU, PHV, TU, KBR, SNVについて同様の抗原を調製し,鑑別診断抗原として有効かどうか検討する.
ハンタウイルス感染のごく初期には,抗体検査と同様にウイルス遺伝子の検出も診断法として有効であるとされている.そこで,発熱期の感染が疑われる検体については,血球画分のRNAを用いたRT-PCRを行う.ハンタウイルス全般の増幅には高度保存領域のプライマーが有効であると考えられており,報告されている.これらのプライマーについて検出限界を比較することで最も検出に適したプライマーセットを明らかにする.また,株特異的領域を増幅するプライマーの設定も同時に行う.この領域の増幅の有無で感染株を同定することが可能であると考えられる.
結果と考察
結果=本研究ではハンタウイルス感染症の検査法と診断システムの確立を試み以下の研究を行った。
1. 血清診断法(蛍光抗体法;IFA,酵素抗体法;EIA,およびWestern Blotting法)の確立および標準化.哺乳動物細胞由来抗原または大腸菌で発現させた組み換え抗原を用いたIFA, EIAを一次スクリーニングとして採用し一定の基準、IFAなら顆粒状の蛍光像、EIAならば陰性抗原の反応OD+3SD以上の発色をみた検体についてWBを行う。この際カイコに発現させた組み換え抗原を用いることで非特異反応の交差反応を除くことが可能であった。この段階まで検体受け取りから二日目の午前で終了することができる。
2. 血清診断による感染株の同定法の開発.血清型特異的組み換え核蛋白抗原の発現に成功した。これを用いたIFAを3次スクリーニングに採用する事により二日目の午後に血清型を推定することが可能になると考えられる。すなわち血清検体受け取りから48時間以内での血清型の推定が可能である。
3. PCR法による感染診断と感染株の同定法の確立.ハンタウイルス属共通のエンベロープG2領域を増幅するプライマーがXiaoらによって報告されている。このプライマーを改良し同じ領域を増幅し、HTN/SEOそれぞれに特異的なプライマーの設定に成功した。適切な血球サンプルへの応用は進行中であるが、この方法によっても48時間以内にRT-PCRを行って血清型を区別することが可能であった。
考察=ハンタウイルス主要抗原である核蛋白の抗原解析を基礎に迅速診断系の開発が可能であると考えられた。
結論
ハンタウイルス感染を診断する一次スクリーニング抗原をHTN/SEO, PUU, SNVについて調整することができた。また、アジアで流行している腎症候性出血熱の2つの血清型、HTN/SEOを迅速に血清反応から区別できる系を確立した。従来中和試験でのみ区別できた感染株の推定がEIAで行えるようになり,診断に要する時間が1週間から3時間へ短縮できると考えられる。各血清型について同様に主要抗原領域を取り除いた組み換え抗原を調整中である。
また、PCRでウイルスゲノムを検出し血清型を区別する方法についても検討したところ、HTN/SEOについては、血清型特異的に増幅させることが可能となった。他の血清型についても応用が可能であると考えられる。
以上の方法を組み合わせることで、検体受け取りから48時間以内の診断が可能にする事ができると考えられるが、今後さらに検体数・症例数を増やし診断システムの評価を進める必要があると考えられる。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)