食品及び食品用容器包装に使用されるナノマテリアル等の新規素材の安全性評価に関する研究

文献情報

文献番号
202528004A
報告書区分
総括
研究課題名
食品及び食品用容器包装に使用されるナノマテリアル等の新規素材の安全性評価に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA1011
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子(星薬科大学 毒性学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 赤木 純一(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 為広 紀正(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
  • 大野 彰子(国立医薬品食品衛生研究所 ゲノム安全科学部)
研究区分
食品衛生基準科学研究費補助金 分野なし 食品安全科学研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
11,828,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
二酸化チタン(TiO2)は医薬品添加剤、食品や化粧品など多様な用途で用いられているが、ナノ粒子(少なくとも一次元が100 nm未満の粒子)を含むTiO2はEUにおいて食品添加物としての使用が禁止されるなど、安全性が議論されている。本研究は、食品及び食品用容器包装用途に使用され、経口及び経皮等から暴露されるナノマテリアル(NMs)等の新規素材について、安全性評価方法及び評価データ、並びに関連する国際動向情報を蓄積し、適切な毒性評価法の提案及び特性に応じた試験上の考慮事項等の整理を目的とした。
研究方法
6週齢の雄性F344/DuCrjラットを用いて、結晶子径6、30、180 nmのTiO2を1000 mg/kg体重/日の用量で90日間強制経口投与し、毒性影響および生体内動態について検討を行った。また、90日間反復経口投与後に8週間の回復期間を置き、生体内に取り込まれたTiO2の排出性を検討した。
また、ナノ酸化チタンの経皮/経口ばく露が食物アレルギーに与える影響を検討するため、7週齢の雌性BALB/cマウスにナノ酸化チタンを抗原と同時に経口摂取した際の影響について検討を行った。
さらに、食品関連分野におけるNMs等の新規素材の毒性試験法に関する国際動向調査として、初期評価的観点から全身毒性に焦点をあて、2021年7月にEFSAが発行した“Guidance on risk assessment of nanomaterials to be applied in the food and feed chain: human and animal health ”(Nano-RAに関するガイダンス)の内容を中心に、欧州食品分野における全身毒性に関する評価手法について整理した。また、EFSA が 2025 年 6 月に開催した EFSA ワークショップの議論、6 月に開催された OECD ナノマテリアル作業部会において、NMsの評価に関する国際的な動向について調査した。
結果と考察
F344/DuCrjラットへの90日間の投与終了時および8週間休薬後のいずれの時点においても、全てのTiO2投与群で肝臓および全血中チタン量の増加は見られなかったことから、以前の実験で180 nm群に見られた肝臓中チタン濃度の軽微な増加は一貫して観察され得る頑健な所見ではなく、経口投与されたTiO2の全身移行は結晶子径に関わらず極めて限定的であると考えられた。これに対して、パイエル板においては8週間投与休止後においても観察した全ての個体でTiO2粒子が観察された。一方で、粒子沈着部位におけるIL-1β、TNF-α、IFN-γおよびγ-H2AX等の免疫染色像は対照群と同様であり、長期間のTiO2粒子沈着に伴う過剰な免疫活性化や炎症誘発性DNA損傷を示す所見は見られなかった。
また、BALB/cマウスへのナノ酸化チタンの経口ばく露は、主要なバルクの免疫細胞集団に対して有意な影響を与えず、食物アレルギー症状についても顕著な増悪効果を示さないことが示唆された。しかし、抗原惹起による体温低下をわずかに抑制する傾向を認め、また、一部の免疫細胞ではサイトカインの産生が変動する可能性が示された。
一方、国際動向調査では、EFSAナノガイダンスにおける健康影響評価のスキームでは、NMsの物理化学的性状を基盤とし、粒子の大きさや消化管内での挙動を解析し、消化管からの吸収性を否定できない場合は、全身影響を評価することを基本とする段階的評価スキームが設定されていた。2025年6月のEFSA主催のワークショップでは、2021年公表の「ヒトと動物の健康のためのナノ物質リスク評価に関するガイダンス」と「粒子技術要件に関するガイダンス」を単一のガイダンスへ統合する計画が示され、最新の科学的知見を反映させるための議論が行われた。また、OECDのWPMN(ナノ材料作業部会)では、物理化学的特性、環境運命、ヒト健康影響に関する加盟各国の活動(Tour de Table文書)やプロジェクト方針のほか、試料調製・用量測定、グループ評価に関するガイダンスの進捗が議論された。
結論
ラットの経口投与試験から、TiO2は投与休止後も生体反応をほとんど誘導せずパイエル板に残存する一方で、肝臓および全身循環への移行は限定的であることが示され、パイエル板はTiO2を隔離する生物学的障壁として機能すると考えられた。また、ナノ酸化チタンが免疫系に及ぼす影響については、今後も詳細な科学的知見の集積が必要であると考えられた。さらに、国際的な技術水準の更新や標準化プロトコルの動向を迅速に捉え、国内の審査・評価体系へと調和・導入していくための技術的検証を加速させることが重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2026-08-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-08-19
更新日
-

文献情報

文献番号
202528004B
報告書区分
総合
研究課題名
食品及び食品用容器包装に使用されるナノマテリアル等の新規素材の安全性評価に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA1011
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子(星薬科大学 毒性学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 赤木 純一(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 為広 紀正(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
  • 安達 玲子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
  • 大野 彰子(国立医薬品食品衛生研究所 ゲノム安全科学部)
研究区分
食品衛生基準科学研究費補助金 分野なし 食品安全科学研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
二酸化チタン(TiO2)は医薬品添加剤、食品や化粧品など多様な用途で用いられているが、ナノ粒子(少なくとも一次元が100 nm未満の粒子)を含むTiO2はEUにおいて食品添加物としての使用が禁止されるなど、安全性が議論されている。本研究は、食品及び食品用容器包装用途に使用され、経口及び経皮等から暴露されるナノマテリアル(NMs)等の新規素材について、安全性評価方法及び評価データ、並びに関連する国際動向情報を蓄積し、適切な毒性評価法の提案及び特性に応じた試験上の考慮事項等の整理を目的とした。
研究方法
6週齢の雄性F344/DuCrjラットを用いて、結晶子径6、30、180 nmのTiO2を1000 mg/kg体重/日の用量で90日間強制経口投与し、毒性影響および生体内動態について遺伝子発現解析等を含め検討した。また、90日間経口投与後に8週間の回復期間を置き、生体内に取り込まれたTiO2の排出性を検討した。
また、ナノ酸化チタンの安全性評価に資する科学的データを蓄積することを目的として、経皮及び経口ばく露が食物アレルギーに与える影響をBALB/cマウスモデルを用いて系統的に検討した。
さらに、食品関連分野におけるNMs等の新規素材の毒性試験法に関する国際動向調査として、3年間の計画を通して、初期評価的観点から欧州食品安全機関(EFSA)の「Nano-RAに関するガイダンス(2021年)」を中心に調査を進め、令和5年度は遺伝毒性と酸化ストレス、令和6年度は免疫毒性に焦点を当て、各領域の試験法や評価手法の現状を精査した。最終年度である令和7年度は、同ガイダンスに基づく全身毒性(ADME、反復投与毒性、生殖発生毒性等)の評価手法について整理を行うとともに、2025年6月開催のEFSAワークショップやOECDナノマテリアル作業部会(WPMN)における最新の議論を調査した。
結果と考察
F344/DuCrjラットへの90日間の投与終了時および8週間休薬後のいずれの時点においても、全てのTiO2投与群で肝臓および全血中チタン量の増加は見られなかったことから、以前の実験で180 nm群に見られた肝臓中チタン濃度の軽微な増加は一貫して観察され得る頑健な所見ではなく、経口投与されたTiO2の全身移行は結晶子径に関わらず極めて限定的であると考えられた。これに対して、パイエル板においては8週間投与休止後においても観察した全ての個体でTiO2粒子が観察された。一方で、パイエル板等の粒子沈着部位におけるIL-1β、TNF-α、IFN-γ及びγ-H2AX等の免疫染色像並びに遺伝子発現状況は対照群と有意な差はなく、長期間のTiO2粒子沈着に伴う過剰な免疫活性化や炎症誘発性DNA損傷を示す所見は見られなかった。
また、BALB/cマウスへの試験から、ナノ酸化チタンを経口摂取した際の食物アレルギーに対する効果としては、現時点では食品安全上の懸念を示すレベルでないと考えられた。一方で、検討の際、一部のアナフィラキシー応答を抑制する傾向を認め、軽微ながら注目すべき所見も得られた。ナノ酸化チタンは経皮ばく露によりアジュバント作用を示した。
一方、国際動向調査では、NMsの安全性評価手法は、従来のバルク化学物質の画一的な毒性試験アプローチから、粒子の物理化学的特性の動的な変化を完全に内包した、高度に階層化された「段階的リスク評価スキーム」へと完全に移行していることが明確に実証された。
EFSAが提示する最先端の評価フレームワークは、初期の特性評価および生理学的in vitro消化試験から得られる科学的証拠を厳格な判断基準(トリガー)とし、不溶性や移行性が否定できない材料に対してのみ、ADMEサテライト群を完全融合させた改良型90日間反復経口投与毒性試験(STEP 3)を課す極めて合理的かつ堅牢な体系を敷いている。さらに、ここで組織蓄積や微変調が検知された場合には、生殖発生毒性(EOGRTS)、慢性毒性・発がん性、詳細な免疫毒性、神経毒性、内分泌撹乱、および最先端の腸内細菌叢影響評価を含む、極めて標的を絞った詳細な高次試験(STEP 4)へとシームレスに展開する構造を確立していた。
結論
ラットの経口投与試験から、TiO2は投与休止後も生体反応をほとんど誘導せずパイエル板に残存する一方で、肝臓および全身循環への移行は限定的であることが示され、パイエル板はTiO2を隔離する生物学的障壁として機能すると考えられた。また、ナノ酸化チタンが免疫系に及ぼす影響については、今後も詳細な科学的知見の集積が必要であると考えられた。さらに、国際的な技術水準の更新や標準化プロトコルの動向を迅速に捉え、国内の審査・評価体系へと調和・導入していくための技術的検証を加速させることが重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2026-08-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-08-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202528004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ラットの経口投与試験から、ナノTiO2は投与休止後も生体反応をほとんど誘導せずパイエル板に残存する一方で、肝臓および全身循環への移行は限定的であることが示され、パイエル板はTiO2を隔離する生物学的障壁として機能すると考えられた。また、TiO2が免疫系に及ぼす影響については、今後も詳細な科学的知見の集積が必要であると考えられた。さらに、国際的な技術水準の更新や標準化プロトコルの動向を迅速に捉え、国内の審査・評価体系へと調和・導入していくための技術的検証を加速させることが重要と考えられた。
臨床的観点からの成果
酸化チタンは、食品色素のみならず錠剤のコーティング等にも広く用いられており、その安全性評価に資する結果が得られたと考えられる。
ガイドライン等の開発
二酸化チタンの食品添加物、医薬品の規格における安全性評価に利用可能なデータと考えられる。
その他行政的観点からの成果
FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)等の国際的な議論に用いられうる研究成果が得られた。
その他のインパクト
海外学会発表においても、多くの方の関心がしめされ、重要なデータであるとの評価が得られた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2026-08-19
更新日
-

収支報告書

文献番号
202528004Z