地方公共団体の児童虐待死事例の検証結果における再発防止策等の検討のための研究

文献情報

文献番号
202527012A
報告書区分
総括
研究課題名
地方公共団体の児童虐待死事例の検証結果における再発防止策等の検討のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23DA1501
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
増沢 高(社会福祉法人横浜博萌会 子どもの虹情報研修センター)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 浩之(立正大学 社会福祉学部)
  • 伊藤 嘉余子(大阪公立大学 現代システム科学研究科)
  • 井出 智博(北海道大学大学院 教育学研究院)
  • 白井 祐浩(九州産業大学 人間科学部)
  • 満下 健太(静岡大学 未来創成本部)
研究区分
こども家庭科学研究費補助金 分野なし 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
第2段階で実施したエキスパートへの面接調査で指摘された課題や障壁について質問項目を作成し、全国の児童相談所(以下、児相)および市区を対象とした質問紙調査を実施した。現場で認識されている課題を実証的に明らかにし、その解決に必要な要件を検討することを目的とした。
研究方法
質問項目は、エキスパートの指摘を踏まえ、①児相・市区で虐待対応を行う支援者の専門性、やりがい、業務負担感等の勤務状況(9項目)、②実務上の障壁となる職場を中心とした業務上の課題(34項目)、③こども家庭センターの設置やサポートプラン作成など、市区町村に特化した課題(12項目)、④検証の在り方や検証報告書の活用(10項目)の4領域で構成した。
 全国の児相263か所および市・区986か所の施設長宛に調査協力を依頼し、同意を得た職員にオンラインによる匿名回答を求めた。回答者には所属、地域規模、職種、経験年数、職位等の属性と各質問項目への回答を求めた。回答総数は1,780件であった(有効回答率28.5%)。
結果と考察
(1)支援者の勤務状況および業務上の課題
 支援者の勤務状況について探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った結果、「業務負担感」「やりがいのなさ」「職場での孤立」の3因子が抽出された。
 業務上の課題について因子分析を行った結果、児相では「防衛的・表層的・形骸化対応」「ケース理解の不十分さ」「意見の言えなさ」「面接力・説明力等に関する養成の不十分さ」の4因子が抽出された。一方、市区では「ケース理解の不十分さ」「防衛的・表層的・形骸化対応」「面接力・説明力等に関する養成の不十分さ」「コミュニケーション不足」の4因子が抽出された。
 児相と市区では一部に違いはみられるものの、因子構造は概ね共通していた。特に「ケース理解の不十分さ」や「面接力・説明力の養成不足」は、死亡事例検証の初期から繰り返し指摘されてきた課題であった。また「防衛的・表層的・形骸化対応」は、近年の虐待対応においてエキスパートが指摘した傾向であり、リスク回避を優先する対応の固定化を示している。
 さらに、児相の「意見の言えなさ」、市区の「コミュニケーション不足」は、組織内の対話や心理的安全性に関わる課題であり、現場の改善を妨げる構造的要因として位置づけられる。
(2)市区独自の課題
 市区独自の課題について因子分析を行った結果、「機関協働の困難さ」「市区町村の役割の不明確さ」「母子保健と児童福祉との協働の困難さ」の3因子が抽出された。市区では、個々の支援技術のみならず、制度上の役割整理や関係機関との協働体制など、支援システム全体に関わる課題が認識されていることが示された。
(3)因子間相関からみた構造的課題
 児相において勤務状況3因子と業務上の課題4因子との関連を分析した結果、多くの因子間で有意な相関が認められた。業務負担、職場での孤立、意見の言いにくさ、ケース理解の困難さなどは相互に影響し、悪循環を形成する可能性が示された。一方で、一つの課題への改善が他の課題にも良い影響を及ぼし、組織の良循環を生み出す可能性も示唆された。
 市区においても、虐待対応上の課題は個別要因ではなく、複数の要因が関連する構造的問題であることが示された。特に母子保健と児童福祉との協働など、新たな制度的要請に対応することへの困難さが認められた。また職種や地域による差が限定的であったことから、これらは全国的に共有される課題であると考えられた。
(4)検証報告書の活用に関する分析
 国および地方公共団体が公表している検証報告書について、回答者の8割以上が閲読経験を有していた。検証の在り方や報告書活用に関する項目では、いずれも肯定的回答が半数を超えていた。
 今後の検証では、単に対応機関の取り組みを振り返るだけでなく、子どものニーズや状態像、生育歴、支援経過、さらに対応の背景にある組織的課題まで含めた重層的分析が求められていることが明らかとなった。
結論
児童虐待対応の課題は、個々の支援者の力量不足だけではなく、支援者・組織が相互に負の影響を及ぼし合う構造的な問題である。 結論として、以下の改善が必要である。 まず、手続き重視のパターナリズムから脱却し、子どもや家族との「関係性」を基盤とした継続的支援へと実践の軸を転換しなければならない。そのためには、業務負担の適正化とともに、職員が失敗を恐れず意見を出し合える「心理的安全性の高い組織づくり」が不可欠である。 また、市区町村は生活支援という本来の役割を再確認し、母子保健と児童福祉が真に一体となった早期支援体制を構築すべきである。 最後に、死亡事例の検証を「学習と組織改革」の場へと転換し、組織文化や未関与事例まで含めた重層的な分析を行うことが重要である。

公開日・更新日

公開日
2026-07-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2026-07-10
更新日
-

文献情報

文献番号
202527012B
報告書区分
総合
研究課題名
地方公共団体の児童虐待死事例の検証結果における再発防止策等の検討のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23DA1501
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
増沢 高(社会福祉法人横浜博萌会 子どもの虹情報研修センター)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 浩之(立正大学 社会福祉学部)
  • 伊藤 嘉余子(大阪公立大学 現代システム科学研究科)
  • 井出 智博(北海道大学大学院 教育学研究院)
  • 白井 祐浩(九州産業大学 人間科学部)
  • 満下 健太(静岡大学 未来創成本部)
研究区分
こども家庭科学研究費補助金 分野なし 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、児童虐待死事例の検証報告書を精査・分析し、虐待死に至る特徴や対応の課題、改善に向けた障壁要因を明らかにすることである。具体的には、以下の3点を中心に据えている。 第一に、地方公共団体による検証報告書の内容を分析し、虐待死に至る状況と防げなかった課題を整理すること。 第二に、児童相談所や市区町村の現場において、課題解決の障壁となっている要因(支援者・組織・社会レベル)を深く分析すること。 第三に、これらの分析結果を踏まえ、実効性のある改善策と提言を提示することである。
研究方法
本研究は、以下の3段階のプロセスを経て実施された。
1. 文献・資料分析(第1段階):2008年度から2022年度までに公開された地方公共団体の検証報告書(226件)および国の検証報告書、国内外の先行研究を対象に、コーディングやテキストマイニングを用いた構造的分析を行った。
2. エキスパートへのインタビュー(第2段階):児相や市区町村で10年以上の実務経験を持つエキスパート16名を対象に、半構造化面接を実施。繰り返し指摘される課題が解決しない背景要因を探索的に分析した。
3. 実務者への全国調査(第3段階):全国の児相および市区町村の現役実務者(有効回答1,780件)を対象にオンライン調査を実施。第2段階で抽出された課題や障壁が現場でどの程度共通して認められるか、その妥当性と構造を統計的に検証した。
結果と考察
 調査および分析の結果、以下の主要な知見が得られた。
1. 虐待死に至るプロセスと「組織の修正力」
文献分析から、虐待死の背景には「孤独と孤立を深めるプロセス」と「途切れない支援のプロセス」の拮抗があり、前者が勝ることで重症化することが示された。この両者に基盤として作用するのが「組織の修正力」である。ケースの変化に応じて支援方針を柔軟に変更できる組織文化の欠如が、重症化を止められない根源的な課題として浮き彫りになった。
2. 現場に蔓延する「防衛的・形骸的対応」
実務者調査では、児相・市区町村ともに「防衛的・表層的・形骸化対応」因子が抽出された。社会的批判や業務過多を背景に、手続き的対応を優先するパターナリズム(権威的・指導的な関わり)が強まっている。これが支援関係の構築を阻害し、結果としてアセスメント能力や面接技術といった専門性の獲得を妨げるという悪循環を生んでいる。
3. 組織マネジメントと心理的安全性の課題
「意見の言えなさ」や「職場での孤立」は、やりがいの低下や形骸化した対応と強い相関を示した。特に、組織内の心理的安全性が低い環境では、多角的な視点によるケース検討が困難となり、特定の権威ある意見に依存する「組織の硬直化」を招いている実態が明らかとなった。
4. 市区町村特有の構造的困難
市区町村においては、制度改正に伴う「こども家庭センター」の設置に関わり、児相との役割分担の不明確さや、母子保健部門と児童福祉部門の協働の難しさが顕著な障壁となっている。
5. 検証報告書の在り方への問い
現行の検証は通告後の行政対応に焦点が偏りすぎているとの指摘が多い。現場からは、子どもの生育歴、周産期情報、加害者の背景、さらには対応の背景にある「組織文化」まで含めた包括的な検証を求める声が強く、現在の検証結果が実務に十分に還元されていない現状が示された。
結論
 児童虐待対応の課題は、個々の支援者の力量不足だけではなく、支援者・組織・制度が相互に負の影響を及ぼし合う構造的な問題である。 結論として、以下の改善が必要である。 まず、手続き重視のパターナリズムから脱却し、子どもや家族との「関係性」を基盤とした継続的支援へと実践の軸を転換しなければならない。そのためには、業務負担の適正化とともに、職員が失敗を恐れず意見を出し合える「心理的安全性の高い組織づくり」と、組織の修正力を支えるリーダーシップの確立が不可欠である。 また、市区町村は生活支援という本来の役割を再確認し、母子保健と児童福祉が真に一体となった早期支援体制を構築すべきである。 最後に、死亡事例の検証を「学習と組織改革」の場へと転換し、組織文化や未関与事例まで含めた重層的な分析を行うことが、繰り返される悲劇を食い止めるための鍵となる。

公開日・更新日

公開日
2026-07-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2026-07-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202527012C

収支報告書

文献番号
202527012Z