児童養護施設等や里親家庭における養育の不調の要因分析に資する研究

文献情報

文献番号
202527011A
報告書区分
総括
研究課題名
児童養護施設等や里親家庭における養育の不調の要因分析に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23DA1401
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
引土 達雄(新潟青陵大学大学院 臨床心理学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 上鹿渡 和宏(早稲田大学 人間科学学術院)
  • 山口 敬子(京都府立大学 公共政策学部)
  • 三輪 清子(明治学院大学 社会学部)
  • 塩谷 隼平(東洋学園大学 人間科学部)
研究区分
こども家庭科学研究費補助金 分野なし 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
虐待経験や行動面や情緒面について様々な配慮を要する子どもの里親やファミリーホーム等への委託が増加しており、養育の専門性向上が強く求められている。しかし、子どもと養育者の関係悪化に起因する「養育不調」と、それに伴う委託・措置の解除は、双方に多大な心理的負担を与えるだけでなく、家庭養護の推進における重大な課題となっている。本研究は、養育不調による委託解除に影響する事象とそのプロセスを明らかにすることを目的とした。また、それらを時間軸に沿って整理した「プロセス図」を作成するとともに、児童相談所、フォスタリング機関、里親、ファミリーホーム、地域小規模児童養護施設の養育者が協働して「子ども一人ひとりのチーム」を構築するための実践的な指針となる「養育不調の予防とケアのための手引き」を作成することを目的とした。
研究方法
2024年度に実施した質問紙調査のデータを活用し、里親家庭とファミリーホームにおける児童相談所やフォスタリング機関等からの支援・連携状況について、「チーム養育体制」の視点から追加の比較分析を行った。
養育不調による委託(措置)解除を経験した里親、ファミリーホーム、地域小規模児童養護施設の養育者を対象に、半構造化インタビュー調査を追加実施した。
得られた語りデータを統合し、時間軸(委託前・委託初期・委託中・委託解除時・委託後)に沿って整理した「プロセス図」を対象ごとにモデル化した。時間軸ごとに検討すべき予防とケアのポイントと対応の実際について明記された「養育不調の予防とケアのための手引き」を作成した。
結果と考察
質問紙の追加分析から、養育不調で解除に至ったケースにおいて児童相談所とフォスタリング機関の「双方から」支援を受けていた割合は1割程度に留まり、いずれからも支援のないケースが約4分の1を占めた。理念としての「チーム養育」に対して実態の連携が十分に機能しておらず、養育者が孤立しやすい実態が示唆された。
養育不調による委託解除は突発的に起こるものではなく、各段階の委託解除に影響する事象が連鎖して起きていることが示唆された。具体的には、委託前のアセスメントや情報共有の不足に加え、委託初期には子どもの「過剰適応」によって潜在的課題の表面化が遅れる傾向がある。その後、試し行動等の顕在化や家庭内のバランスや関係性の悪化が生じるものの、支援機関からの継続的なモニタリング不足から介入が遅れ、早期対応の難しさが確認された。
また、地域小規模児童養護施設における特性として、施設における不調は年齢によって異なることが示唆された。このことから、発達段階に応じた中長期的な支援計画と外部専門機関との早期連携の重要性が示された。
委託(措置)解除プロセスの課題に目を向けると、解除時に十分な事前協議や子どもへの説明がないまま、当日に唐突な引き離しが行われ、子どもの心身に多大な負担を与えている実態が示唆された。自傷他害等の子どもに危険があり緊急保護が必要な場合を除き、子どもの意見を聴取して決定に反映させることや、発達段階に合わせた説明やお別れの準備期間を設ける「別れのプロセス」の保障が必要である。
これらの結果を統合し、養育不調をチーム全体で共有し解決すべき課題として捉え直した。また、直ちに委託(措置)解除を意味するものではなく、支援ニーズが高まっている「サイン」として受け止め、再アセスメントと新たな支援を導入するための重要なタイミングとして位置づけた。この基本方針に基づき作成した「養育不調の予防とケアのための手引き」は、児童相談所、フォスタリング機関、および里親、ファミリーホーム、地域小規模児童養護施設の養育者が、それぞれの役割と対応のタイミングを相互に確認し合うための実践的なツールである。共通の枠組みを持つことで、「子ども一人ひとりのチーム」が効果的に機能し、養育者の孤立を防ぐことが期待される。
結論
本研究は、質問紙・オンライン調査、インタビュー調査を通じて、養育不調がアセスメントや関係機関の連携不足から生じる事象の連鎖であることが示唆された。これらの知見に基づき、養育不調を「チーム全体で共有し解決すべき課題」として、また、「新たな支援を導入するための再アセスメントのサイン(機会)」と捉え直すことが重要であると考えられた。この基本方針のもと、時系列のプロセス図と各段階の対応ポイントを明記した「養育不調の予防とケアのための手引き」を作成した。本手引きが全国の支援現場における共通の指針・枠組みとして広く活用されることで、里親等の養育者の孤立を防ぎ、関係者が専門性をもって手を取り合う「子ども一人ひとりのチーム」が効果的に構築され、子どもの最善の利益と健やかな成長が守られる社会的養育システムが充実することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2026-07-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2026-07-17
更新日
-

文献情報

文献番号
202527011B
報告書区分
総合
研究課題名
児童養護施設等や里親家庭における養育の不調の要因分析に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23DA1401
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
引土 達雄(新潟青陵大学大学院 臨床心理学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 上鹿渡 和宏(早稲田大学 人間科学学術院)
  • 三輪 清子(明治学院大学 社会学部)
  • 山口 敬子(京都府立大学 公共政策学部)
  • 塩谷 隼平(東洋学園大学 人間科学部)
研究区分
こども家庭科学研究費補助金 分野なし 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、社会的養護は施設から家庭養護への変革期にあり、虐待経験や心身の障害など、高度な専門的ケアを必要とする子どもの家庭養護への委託が年々増加している。養育不調に伴う委託解除は、子どもの心身に大きな負担を与えるだけでなく、養育者の疲弊やその後の受け入れ意欲の低下を招く。子どもの最善の利益を守り、安心・安全な環境を持続的に保障する社会的養育システムを確立する上で、養育不調のメカニズム解明と予防・ケア体制の構築は重要な課題である。本研究は、質問紙やオンライン調査、及びインタビュー調査を行い、里親、ファミリーホーム、地域小規模児童養護施設における養育不調による委託(措置)解除に影響する事象とプロセスを解明し、「養育不調の予防とケアのための手引き」を作成することを目的とした。
研究方法
3年間にわたり、日々の養育を担う養育者側(里親、ファミリーホーム、地域小規模児童養護施設)と、委託と支援を担う支援者側(児童相談所、フォスタリング機関)の双方を対象に調査を実施した。
1年目は先行研究(Konijn et al., 2018)を参考に、子どもの心身の特性や行動上の問題、医学的診断の有無、虐待被害状況、知能・発達状況など、養育上の課題、および支援の課題について、全国規模の質問紙・オンライン調査を実施し、委託解除事例と長期継続事例を比較することで、養育不調の要因や支援介入の実態を客観的に把握した。
2年目、3年目にその結果を踏まえ、養育不調による解除を経験した養育者側(里親、ファミリーホーム、地域小規模児童養護施設)と、委託と支援を担う支援者側(児童相談所、フォスタリング機関)の当事者へインタビュー調査を行い、アセスメントからマッチング、委託中、委託(措置)解除時、委託(措置)解除後に至るまでのプロセスと課題を詳細に分析した。
3年目に得られたデータを統合して各主体の時系列の「プロセス図」を作成した。手引き作成のためそれぞれの時系列で検討すべきポイントについて検討し手引きを作成した。現場機関からのフィードバックを経て手引きを精緻化し完成させた。
結果と考察
質問紙・オンライン調査の結果から、子どもの行動上の問題が深刻である一方で、児童相談所とフォスタリング機関のどちらからも支援を受けていない養育者が約3割に上るなど、チーム養育が形骸化し、養育者が孤立・疲弊している実態が示唆された。委託当初の「過剰適応」により不調の小さなサインが見過ごされやすく、問題が顕在化した際には対応が後手に回る傾向が確認された。養育不調による委託解除となる子どもの行動上の問題の深刻さが示唆された。インタビュー調査の分析から、養育不調は突発的な事象ではなく、「委託前のアセスメントや情報共有の不足」、「同居家族をふまえた準備の欠如」、「委託後の支援不足」等といった事象の連鎖による結果であることが示唆された。やむを得ず解除に至る際、子どもや養育者への事前の説明や協議がないまま唐突に引き離され、子どもにとって心身の負担が大きく、トラウマ化のリスクが推測される事例が散見された。子どもへの「別れのプロセスの保障」や、解除後の心理的ケア・振り返りの体制が不足しているという課題も示唆された。
 本研究で作成した手引きは、調査で明らかになった課題を解決すべく、養育不調を「チーム養育体制の中で解決すべき課題」であり、新たな支援を導入する「再アセスメントのサイン」であると捉え直すことの重要性を示し、作成された。調査結果に基づき、各関係機関や養育者の視点から不調に至る「プロセス図」を時系列で提示し、委託前から解除後に至る各段階の「予防とケアのポイント」を明記した。これにより、役割を共有し「子ども一人ひとりのチーム」として協働するための実践的指針を示した。
結論
養育不調による委託解除は、「委託前の準備不足」や「連携の欠如」等といった事象の連鎖よって生起していることが示唆された。本研究はこれらの実態を踏まえ、養育不調を「チーム養育体制で共有し解決すべき課題」や新たな支援を導入する「再アセスメントのサイン」と捉え直し、各段階における実践的な手引きを完成させた。手引きに示された時系列の「プロセス図」と「予防・ケアのポイント」を活用することで、児童相談所、フォスタリング機関、里親、ファミリーホーム、地域小規模児童養護施設が互いの役割と対応すべきタイミングを明確に確認し合うことが可能となる。今後、家庭養護の推進に伴い、より複雑な背景を持つ子どもたちの委託が増加していく中で、本手引きが全国の現場で活用されることが望まれる。それにより、支援者が専門性をもって協力し、養育者を孤立させない実効性のある「子ども一人ひとりのチーム」が構築され、子どもたちの最善の利益と健やかな成長が守られる社会的養育システムの更なる充実が期待される。

公開日・更新日

公開日
2026-07-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2026-07-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202527011C

収支報告書

文献番号
202527011Z