病原細菌の病原因子との解析とその発現制御に基づいた治療法開発のための研究

文献情報

文献番号
199700812A
報告書区分
総括
研究課題名
病原細菌の病原因子との解析とその発現制御に基づいた治療法開発のための研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中山 周一(国立感染症研究所細菌部研究員)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
赤痢菌の病原性遺伝子群全体の統括的な正の制御因子virF遺伝子自身の発現制御については未だ不明な点が多く残されている。申請者らはこのような背景でこの問題に対して精力的に取り組んできた結果、virF発現はpHによる制御を受けていること、この制御に染色体上の遺伝子であり、いわゆる2-component regulatory systemをコードするcpxR-cpxAが関与していること、このうち特にresponseregulatorであるcpxRはvirFの発現に必須なファクターであること、を遺伝学的に証明してきた。しかしながら、見かけ上のcpxRによるvirF発現の増強のメカニズムは、その効果が直接的なものか間接的なものかを含め全く不明であった。申請者らは、この問題にアプローチすべく予備的な実験としてCpxR産物を精製し、それがvirF遺伝子の転写開始点付近に直接結合し得ることを示した。このことを踏まえ、CpxRの結合のみでvirF転写を増強できるか否かを確認することを本研究の第一目的とした。
研究方法
CpxR産物のみでvirF転写を活性化できるかどうかの検討のため試験管内転写系を構築した。まず、virF転写産物を比較的短いRNA種として検出できるような鋳型プラスミドDNAを作製した。virF転写開始点より180bp下流にリボゾームRNA遺伝子由来の強力なr-非依存性転写終結配列を組み込み、virF転写物が220ntdのRNAとして産生される構造を作製、これをpMB1系のプラスミドに挿入した。pMB1レプリコンの108ntd のRNAIが有用な内部コントロールとなった。このプラスミドを鋳型とし、大腸菌RNAポリメラーゼ、放射性画分を含むNTPsからなる試験管内転写系にCpxRを添加し、その転写量に対する効果を観察した。新生RNA量はサンプルを泳動後、RNAに取り込まれた放射性NTPをオートラジオグラムで検出して行なった。前項の予備的実験において、CpxRがリン酸化したときにDNA結合能が上昇するデータを得ていたので、そのリン酸化の転写活性に対する効果も合わせて検討した。CpxRのリン酸化は過剰量のacetyl phosphateとプレインキュベーションすることで行なった。
結果と考察
結果=
前項の試験管内転写実験で、CpxRを添加しない条件では、virF転写物は内部コントロールであるRNAIと比較して極めて少量であったが、リン酸化したCpxRを最終濃度1.4mM添加した条件で著しい増強が見られた。
考察=前項の結果と以前からのデータを合わせ、CpxRがvirF上流に直接結合し、直接転写活性化しうること、少なくともある程度までのCpxRのリン酸化がこの反応を増強すること、このプロセスには基本的に他の因子は必要ではないこと、転写活性化のメカニズムはtrue activation であり、抑制因子 をリリースするようなDouble negative system ではないこと、を示すことができた。今後は、どの範囲でもCpxRのリン酸化レベルとvirF発現レベルとが正の相関関係にあるかどうかを検討するため、in vivoでのCpxRリン酸化レベルの測定系の開発を行なうとともに、存在が示唆されているCpxAによるものとは別のCpxRリン酸化経路を同定したい。
結論
赤痢菌病原性の統括的制御因子virFの発現はリン酸化したCpxR産物のvirF上流域への結合による直接の転写活性化で増大することが明らかになった。このことは、CpxRのリン酸化を特異的に阻害することによる赤痢病原性抑制の可能性を提出する。この方法の実用化を視野に置き、今後さらに、実際の生菌内でのCpxRリン酸化レベルとvirF発現レベルの相関関係の検定、確認が極めて重要となった。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)