エクソソームRNAを毒性指標とした次世代型生殖発生毒性評価法の開発に資する研究

文献情報

文献番号
202525007A
報告書区分
総括
研究課題名
エクソソームRNAを毒性指標とした次世代型生殖発生毒性評価法の開発に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24KD1004
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
小野 竜一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部 第五室)
研究分担者(所属機関)
  • 桑形 麻樹子(帝京平成大学 健康医療スポーツ学部医療スポーツ学科)
  • 成瀬 美衣(国立健康危機管理研究機構(JIHS)国立感染症研究所 ウイルス第一部 第三室 )
  • 伊川 正人(大阪大学 微生物病研究所)
  • 落谷 孝広(東京医科大学 医学給合研究所 分子細胞治療研究部門)
  • 平林 容子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
16,030,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質の有害性評価、特に化審法に基づくヒト健康影響の評価において、生殖発生への影響を迅速かつ正確に評価することは重要な課題である。現在広く用いられている発生毒性試験では、母動物への毒性とあわせて胎児の形態(外表、内臓、骨格)を観察し催奇形性を評価するが、この方法は観察者の熟練度に依存し、評価基準も必ずしも一定ではない上、膨大な労力と時間を要する。こうした背景のもと、より客観的かつ高精度な評価手法の開発が求められている。
近年、細胞から分泌され体液中を循環する小胞「エクソソーム」が注目を集めている。エクソソームは細胞特異的なマイクロRNAを内包し、疾患由来の分子情報を反映していることから、バイオマーカーとしての利用が期待されている。実際に研究分担者である東京医科大学の落谷らは、腫瘍由来のマイクロRNAを指標とした13種類の早期がん診断法(精度95%以上)を開発した実績を持つ。

こうした背景のもと、本研究では、体液中を循環するエクソソームに含まれるRNAを用いて、生殖発生毒性の客観的かつ高感度な評価法を確立することを目的としている。特に、母体血および羊水中のエクソソームを指標とする新規手法に、特定の臓器由来エクソソームを可視化・単離可能な“エクソソーム可視化マウス”を組み合わせることで、毒性機序に基づいた次世代型生殖発生毒性評価法の開発を目指している。
研究方法
本研究においては、毒性発現メカニズムを考慮した次世代型の生殖発生毒性評価法を確立することを目的に、以下の概要を行う。

● 妊娠中の服用により神経管閉鎖不全や指形成不全などの催奇形性や生後の自閉症などを発現することが知られるバルプロ酸と同様のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤作用を持つトリコスタチンAの妊娠マウスへの投与実験を行い、詳細な外表面観察、および、母動物血清および羊水よりエクソソームの抽出を行ない、次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子発現解析を行うことで、現在までに得られている生殖発生毒性作用のバイオマーカー候補の検証を行う。

●肝臓特異的にエクソソームの単離を行うことで、真に肝臓に由来する肝障害の毒性バイオマーカーを単離、および、評価を行う。また、次年度以降に確立された部位特異的エクソソーム単離方法を利用して、胎児由来のエクソソームを母体血中での単離を行う。
結果と考察
本研究では、バルプロ酸(VPA)の投与により、マウス胎児に催奇形性を誘発し、羊水中エクソソームRNAを用いた新たなバイオマーカーの探索を行なった。その結果、VPA投与によりHbb-y遺伝子の発現が、催奇形性胎児で特異的に誘導されることを明らかにした。さらに、神経管閉鎖不全や指形成不全などの催奇形性作用を持つバルプロ酸(VPA)と同様にヒストン脱アセチル化酵素阻害作用を持つトリコスタチンA(TSA)の投与により、マウス胎児に催奇形性を誘発し、羊水中エクソソームRNAの遺伝子発現解析により、VPAと同様にHbb-y遺伝子の発現が、催奇形性胎児で特異的に誘導されるのかを検証することを計画した。実際に、TSA投与でも神経管閉鎖不全や指形成不全などの外表奇形や胎児・胎盤の体重減少が観察され、エピジェネティック異常が催奇形性の要因である可能性を示した。さらに、今年度は、TSA投与により、VPA投与により発生毒性のバイオマーカー候補であったHbb-y遺伝子の発現が、VPAと同様に誘導されることを明らかにした。また、エクソソーム可視化マウスを用いて、肝臓特異的エクソソーム可視化マウスを作成し、その血液から肝臓特異的エクソソームを単離することで、真に肝臓に由来する肝障害のバイオマーカーを単離することに成功した。
結論
本研究を通じて、催奇形性発現におけるエピジェネティック異常の重要性を示すとともに、羊水中のエクソソームRNAを用いた新規バイオマーカー候補検証を行なった。

Hbb-y遺伝子の活性化がVPAだけでなく、別のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤であるTSAによる催奇形性にも共通して見られることを明らかにした。次年度には、VPAのヒストン脱アセチル化酵素阻害活性を欠くアナログであるバルプロミド投与により、催奇形性やHbb-y遺伝子の活性化の検証を行う予定である。

また、胎児特異的エクソソームを母体血中から検出する方法を確立し、非臨床試験の高度化を目指す。これらの成果は、新しい毒性評価指標や動物実験代替法の開発に寄与するものであり、今後の毒性研究において重要な知見を提供する。

公開日・更新日

公開日
2026-08-05
更新日
-

収支報告書

文献番号
202525007Z