MRSAにおける消毒剤耐性遺伝子の分布と多様性に関する研究

文献情報

文献番号
199700810A
報告書区分
総括
研究課題名
MRSAにおける消毒剤耐性遺伝子の分布と多様性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小林 宣道(札幌医科大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)はわが国において最も重要な院内感染起因菌であるが、消毒剤耐性MRSAの出現は感染予防対策上、重大な脅威であると考えられる。しかしながら、消毒剤耐性に関与する遺伝子の分布に関しては、本格的な疫学調査は行われていない。本研究では、わが国で最近5年間に分離された多数のMRSA臨床分離株について、既知の消毒剤耐性遺伝子(QacA/QacB遺伝子群、QacC/QacD遺伝子群) の分布状況を調査することにより、消毒剤耐性化の実態を明らかにする。さらに消毒剤耐性遺伝子保有株の疫学的特徴を明らかにすることにより、院内感染対策に資することを目的とする。
研究方法
1993ー1997年に札幌医科大学附属病院(検査部細菌検査室)で分離され、札幌医科大学衛生学教室にて保存されていた黄色ブドウ球菌293株(MRSA:223株、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA):70株)を調査対象とした。これらの株についてはまず疫学的タイピング法による分類を行った。コアグラーゼ型は、コアグラーゼ型別用免疫血清(?ー?特異的)を用いた血漿凝固阻止試験により決定した。エンテロトキシン(ETA、ETB、ETC、ETD)、TSST-1の産生は逆受身ラテックス凝集反応に基づくキットを用いて調べられた。プロテインAタイピングは、プロテインA遺伝子において多様性の高いXr領域全体をPCRで増幅し、得られた産物のサイズより、この領域に含まれる24塩基ユニットのリピート数を判定し、プロテインAタイプとした。
次に消毒剤高度耐性遺伝子(QacA/QacB遺伝子群)と低度耐性遺伝子(QacC/QacD遺伝子群)の存在を、2組のプライマーを用いた多重PCRにより調査した。消毒剤耐性遺伝子陽性株については、上記の疫学的タイピングによって得られた結果から、その特徴を調べ、さらに消毒剤耐性遺伝子の多様性について解析した。QacA/QacB遺伝子については、PCR産物を制限酵素AluIあるいはMaeIIで消化した後、DNA断片を電気泳動し、その泳動パターンによってgenotypeを判定した。QacC/QacD遺伝子群については、既報のQacC、QacD遺伝子の配列に基づき、それらの5'および3'側外側の配列に特異的なプライマーを用いてPCRを実施し、genotypeを判定した。
結果と考察
(1)黄色ブドウ球菌株の疫学的型別:MRSAでは?型が最多(194株;87%)で、他は?型(19株;8.5%)、?(6株;2.7%)、?型(2株;0.9%)であった。MSSAで高頻度であったのは?型(33株;47.1%)であったが、?、?、?、?、?、?型にも分布していた。エンテロトキシン、TSST-1産生型別は、MRSAではETCとTSST-1両者の産生株65%を占め、MSSAでは約6割がET、TSST-1非産生株であった。プロテインAタイプでは、MRSAではリピート数10回を示すものが大部分(85.7%)であった。MSSAでもリピート数10回の株が最も多かった(18.6%)が、多くはリピート数4回から11回まで比較的均等に分布していた。(2)消毒剤耐性遺伝子の検出:消毒剤高度耐性を規定するQacA/QacB遺伝子群は、293株中84株(28.7%)に検出された。そのうちMRSAは81株であり、MRSAに限ると検出率は36.3%であった。QacA/QacB遺伝子陽性MRSAは、MRSAで最も高頻度に見られたコアグラーゼ?型、プロテインAタイプー10リピートの株においてのみ検出された。コアグラーゼ型?型MRSAに限ると、QacA/QacB遺伝子群の検出率は41.8%となった。一方この遺伝子陽性のMSSA3株は、コアグラーゼ型?型(1株)、?型(2株)に属していた。消毒剤低度耐性を規定するQacC/QacD遺伝子群は、MRSA7株とMSSA5株の計12株(4.1%)に検出された。MRSAはコアグラーゼ型?、?型、MSSAは?、?型に属していた。QacA/QacB遺伝子群とQacC/QacD遺伝子群の両者を保有する株は検出されなかった。2種の消毒剤耐性遺伝子は、その検出頻度および保有株の疫学的特徴を異にすることから、遺伝子の起源および菌株間の伝播様式が異なることが示唆された。
(3)QacA/QacB遺伝子群のgenotypeの解析:QacA遺伝子とQacB遺伝子では7個の塩基が異なり、その一部は制限酵素AluIあるいはMaeIIによる認識の違いにより区別することができる。そこでQacA/QacB遺伝子の一部分に相当するDNAをPCRで増幅し、得られた産物をそれら2種の制限酵素で消化後、電気泳動を行い、制限酵素切断長多型パターン(RFLPパターン)を解析した。その結果MaeIIによるRFLPでは84株の全てがQacA型と判定されたが、AluIではQacA型は20株のみであり、残る64株はQacB型を示した。このことはQacA遺伝子の他、QacA、QacB両者の特徴を有する新しい遺伝子型が広く分布していたことが示唆される。現在この遺伝子の塩基配列決定と消毒剤耐性の程度について解析を進めている。(4)QacC/QacD遺伝子群のgenotypeの解析:QacC/QacD遺伝子群には、QacC、QacDのほか、ebr, smr, QacC'などの遺伝子型が報告され、これらは殆ど同一のORFを有するが、ORF外の5'ー、3'ー側の遺伝子配列に違いがある。今回はQacC、QacD遺伝子特異的プライマーを本遺伝子のORFの外側に設定し、12の全陽性株についてPCRを行ったところ、全てQacD特異的プライマーにより遺伝子の増幅が見られ、QacD型の遺伝子が優勢に分布していることが示唆された。しかし4株では、既知のQacD遺伝子から予想されるよりも大きなPCR産物が得られ、QacDの中にも新たなgenotypeが存在することが示唆された。これについても今後塩基配列の解析を行う予定である。
結論
多数の黄色ブドウ球菌臨床分離株を用いた解析により、消毒剤耐性遺伝子の分布状況が明らかとなった。特にMRSAでは3割以上の株がQacA/QacB遺伝子群を有していることが判明し、しかも全てコアグラーゼ型?型に属していた。従ってコアグラーゼ?型MRSAに対しては院内感染対策上、特に注意を払うべきであると考えられた。またQacC/QacD遺伝子群の検出率は低かったものの、MSSAにおいても見られ、また種々のコアグラーゼ型の株においても検出されたので、遺伝子の保有状況を今後も監視してゆく必要があると思われた。

公開日・更新日

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