妊婦・授乳婦における医薬品の安全性に関する情報収集及び情報提供の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
202524022A
報告書区分
総括
研究課題名
妊婦・授乳婦における医薬品の安全性に関する情報収集及び情報提供の在り方に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KC2002
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
後藤 美賀子(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 村島 温子(埼玉医科大学 リウマチ膠原病科)
  • 濱田 洋実(筑波大学医学医療系 総合周産期医学)
  • 佐瀬 一洋(順天堂大学大学院医学研究科臨床薬理学教室)
  • 伊藤 直樹(帝京大学 医学部小児科学講座)
  • 成川 衛(学校法人北里研究所 北里大学 薬学部臨床医学(医薬開発学))
  • 八鍬 奈穂(国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター)
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
5,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
妊婦・授乳婦への医薬品投与は、母体の疾患治療と胎児・乳児の安全性確保の両立が求められる重要な臨床課題である。しかし、倫理的制約から前向きの介入試験は困難であり、市販後のリアルワールドデータ:RWDに基づく安全性評価と添付文書への反映が不可欠となっている。
現行の添付文書(9.4項「生殖能を有するもの」、9.5項「妊婦」、9.6項「授乳婦」)は、定型的な注意喚起文言が臨床判断を過度に制約し、科学的根拠も不十分であるとの課題が指摘されている。
本研究は以下の2点を目的として検討を行った。
1,添付文書9.4〜9.6項の適切な記載方法・見直しルールの作成、改訂優先薬剤の基準検討、および産婦人科診療ガイドラインとの乖離解消。
2,妊娠登録調査等のRWD手法の提言、市販後調査に活かすためのガイダンス作成、ならびに臍帯血・母乳中薬物濃度測定の推進と添付文書反映への提言。
研究方法
目的を達成するため、以下の5つのアプローチで研究を実施した。1,添付文書記載の在り方検討: 過去のアンケート結果を踏まえ、欧米(FDA、EMA)のガイダンスや国内の記載要領を参考に、9.4〜9.6項の記載方法と見直しルール、および優先改訂薬剤の基準を整理した。2,産婦人科診療ガイドラインとの乖離解消: 『産婦人科診療ガイドライン―産科編―2026年版』の「妊娠・授乳と薬」関連5項目の修正案について、最新の添付文書との乖離状況を反映させつつブラッシュアップを行った。3,RWD手法の体系化: 妊娠登録調査、製薬企業による市販後調査、保険請求データベース研究の3手法の強みと限界を比較分析し、妊娠と薬情報センター(以下、センター)を集約ハブとする症例収集モデルを設計した。4,市販後調査ガイダンスの作成: 国際ガイドラインや国内規制、業界アンケートを基に、製造販売業者とセンターが有機的に連携して添付文書改訂に資する情報を蓄積するための具体的手順案を策定した。5,臍帯血・母乳中濃度測定の推進: 国内の測定体制や薬剤師の認識調査を基に9.6項の課題を整理し、薬物動態パラメータの記載を中心とした反映方法を検討した。
結果と考察
(1) 添付文書記載の適正化と優先改訂基準9.5項「妊婦」では、ヒト疫学データが存在する場合は危険性・安全性のいずれであっても記載を検討し、動物試験結果には臨床用量との曝露比を併記を望む。9.4項は9.5項の見直しと整合させることが妥当とされた。9.6項では、相対的乳児摂取量や等の定量的情報を提示し、高分子医薬品の特性等を補足する方向性が示された。優先改訂薬剤の基準として、特定の先天異常リスクが示唆された薬剤、妊娠中の使用頻度が高い慢性疾患治療薬など5つの観点が整理された。 (2) ガイドラインとの乖離解消CQ104-1〜CQ104-5の最終修正案が、産婦人科診療ガイドライン2026年版に正式に採用された。これにより2つの情報源の整合性が改善され、現場の混乱軽減が期待される。今後はこの整合性を継続的に担保する仕組みが必要である。 (3) 多層的RWD収集体制とガイダンスの構築分析の結果、各RWD手法は単独では限界があるため、多層的体制の構築が不可欠であると結論付けられた。具体的には、拠点病院ネットワークによる「ルートA」と、企業連携による網羅的報告の「ルートB」を並行運用し、公的データベースを用いた能動的監視を組み合わせるモデルを提案した。また、企業が患者向け資材にセンターへの相談先を併記し、同意に基づくフォローアップ調査を行う連携手順をまとめた。(4) 臍帯血・母乳中濃度測定と情報提供調査により、現行の授乳制限の定型文が医療者間で過剰な授乳中止判断を招いている実態や、国内の母乳中薬物濃度測定可能施設が約12%と極めて限定的である課題が浮き彫りとなった。全国的な測定体制の整備と多施設共同研究の推進が喫緊の課題である。
結論
令和7年度の研究を通じて得られた結論は、第一に、添付文書の9.5項・9.6項において、ヒト疫学データ、RID等の定量的薬物動態指標を記載する見直し方針を確立し、5つの優先改訂薬剤基準を策定した。
第二に、産婦人科診療ガイドライン2026年版に修正案が正式採用され、添付文書との乖離解消に向けた大きな進展を得た。
第三に、RWDの多層的活用として、センターを集約ハブとするルートA・ルートBの並行運用と能動的監視を組み合わせた市販後調査体制の構築を提言した。
第四に、製造販売業者とセンターの有機的連携を促すガイダンスの枠組みを整理した。
第五に、母乳中濃度等の全国的な測定体制整備を推進し、添付文書の自由記載欄を活用して科学的根拠に基づく情報提供を支える基盤を示した。

公開日・更新日

公開日
2026-07-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2026-07-14
更新日
-

文献情報

文献番号
202524022B
報告書区分
総合
研究課題名
妊婦・授乳婦における医薬品の安全性に関する情報収集及び情報提供の在り方に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KC2002
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
後藤 美賀子(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター)
研究分担者(所属機関)
  • 濱田 洋実(筑波大学医学医療系 総合周産期医学)
  • 佐瀬 一洋(順天堂大学大学院医学研究科臨床薬理学教室)
  • 伊藤 直樹(帝京大学 医学部小児科学講座)
  • 村島 温子(埼玉医科大学 リウマチ膠原病科)
  • 八鍬 奈穂(国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター)
  • 成川 衛(学校法人北里研究所 北里大学 薬学部臨床医学(医薬開発学))
研究区分
厚生労働行政推進調査事業費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、医療用医薬品の添付文書における「9.4 生殖能を有する者」「9.5 妊婦」「9.6 授乳婦」の各項目について、市販後に蓄積されるリアルワールドエビデンス(RWE)を含む科学的根拠を適切に反映させ、臨床現場の意思決定に真に活用しうる情報提供の在り方を提案することを目的とした。現行の添付文書記載は、承認時の非臨床試験(動物実験等)の結果に過度に依拠しており、市販後の疫学研究や臨床知見が十分に統合されていない。このため、臨床現場では過度なリスク警戒による防衛的処方行動や不必要な授乳の中止、さらには不要な人工妊娠中絶といった不利益が生じていることが指摘されてきた。そこで本研究では、国内外の規制制度や処方実態を詳細に調査し、科学的根拠に基づく実用的な添付文書の記載改訂ルールを策定するとともに、製薬企業と「妊娠と薬情報センター(JDIIP)」が連携して、市販後の妊婦における医薬品使用時の安全性データを体系的かつ効果的に収集・蓄積するための仕組みや手順を構築・提示することを目的として実施した。
研究方法
第1年度では、国内の医師および薬剤師を対象とした大規模アンケート調査を行い、添付文書の記載が処方行動やリスク認識に与える影響を定量的に分析した。また、欧米(米国FDA・欧州EMA)における添付文書の記載制度や、法的枠組みに基づく妊娠登録研究の運用実態を調査した。さらに、製薬企業70社を対象に安全性情報の収集体制に関する実態調査を行い、産婦人科診療ガイドラインと添付文書との乖離を特定した。第2年度(ルール整理・手法検討)では、国内のレセプトデータベース(JMDC)を用いた妊婦禁忌薬の処方実態の解析、JDIIP相談データベースと欧州の国際基準(ConcePTION)との整合性評価、疫学知見を客観的に評価する枠組みの有用性検証を行った。加えて、全国の拠点病院を対象に、母乳中の薬物濃度測定体制の現状調査を実施した。第3年度では知見を統合し、添付文書の記載改善に関する提言、産婦人科診療ガイドラインの改訂案、市販後安全性データ収集手順の提言(素案)の最終化を行なった。
結果と考察
主要な研究結果は以下の通りである。まず臨床現場の認識調査において、一般医師の45%が「有益性投与」の薬剤を「危険」と捉えており、治療に必要な薬剤の投与を避ける防衛的処方行動の実態が浮き彫りとなった。薬剤師調査でも、一般薬剤師が禁忌の文言から過剰なリスクを認知する一方、専門薬剤師は個別判断を行っており、知識層による格差が生じているため添付文書自体の情報拡充が必要とされた。海外調査では、米国が2015年にリスクカテゴリを廃止し、記述的な情報提供へ移行している実態や、規制当局が企業に妊娠登録研究を義務付ける法的枠組みを有していることが確認された。これに対し、国内製薬企業への調査では、8割以上が情報収集を試みているものの、年間入手件数は10件未満と極めて少なく、企業単独による市販後追跡の構造的限界が明確になった。添付文書改訂の提言では、9.5項へのヒト疫学データの積極的記載や動物試験の曝露比表記、9.6項への相対的乳児投与量等の定量的指標の導入を提示し、改訂を優先すべき対象薬剤の選定基準案を策定した。また、母乳中濃度測定体制調査では、測定可能施設が全体の12%(5施設)に留まり、臨床ニーズとの乖離が示されたが、国立成育医療研究センターの測定データは国際DB「LactMed」へ全件採用される高い成果を得た。さらに、JDIIPデータベースはConcePTIONの主要変数を網羅し、国際共同解析への即応性が実証された。
結論
3年間の研究で、添付文書の改善、診療ガイドラインの更新、市販後データ収集体制の構築という3つの柱について具体的提言と仕組みを確立した。特に産婦人科診療ガイドライン2026年版の関連5項目への修正案の正式採用は直接的な成果である。また、製薬企業と妊娠と薬情報センターが連携する「市販後安全性データ収集手順に関する提言(素案)」は、国内のデータ収集における構造的障壁を打破する枠組みとなる。本研究の成果は、リアルワールドエビデンス(RWE)に基づく情報基盤を提供することで医薬品の適正使用を推進し、不必要な治療中断や人工妊娠中絶を防ぎ、母児の安全性向上に貢献する。今後は行政施策への反映や試行的運用の開始が期待される。

公開日・更新日

公開日
2026-07-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-07-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202524022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
妊婦・授乳婦への医薬品安全性の適正評価に向け、欧米の制度調査や大規模データベースを用いたリアル・ワールド・エビデンス(RWE)研究を実施した。現行の添付文書記載や企業単独での情報収集の限界を浮き彫りにし、国際的な妊娠登録研究やRWE活用の潮流を確認した成果は、国際学会や論文で公表された。本成果は、米国のPLLRを基盤とする国際規制調和へ本邦から参画する足掛かりとなる。また、母乳中薬物濃度測定ネットワークの必要性を示したことで、周産期薬理学・疫学分野の学術的発展に寄与する。
臨床的観点からの成果
臨床現場での適切な有益性・危険性判断を可能にするため、実態調査に基づき産婦人科診療ガイドライン2026年版の関連CQ修正案を作成・正式採用へと導いた。さらにSEA-U分類や相対的乳児摂取量(RID)等の定量的指標を用いた添付文書(9.4〜9.6項)の見直し方針や、妊娠と薬情報センター(JDIIP)を軸とする市販後安全性情報収集手順案を提示した。本成果により、臨床現場の実態に即したガイドラインと添付文書の整合性が確保され、医師・薬剤師の処方・服薬指導の質向上と、患者への安全な医療提供に貢献する。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
医師・薬剤師・企業への調査に基づき、添付文書(9.4〜9.6項)の見直し方針や優先改訂基準、および「妊娠と薬情報センター」を軸とした多層的な市販後安全性情報収集手順案を策定した。これらの成果は、厚生労働省における医薬品安全対策の制度設計や、薬事審議会等での添付文書改訂に向けた行政通知等の根拠資料として活用されうる。また、RWE研究の成果は、米国FDAのPLLR制度を見据えた国際的な規制調和へ本邦行政が参画するための重要な基礎資料となり、今後の国際施策の推進に貢献する。
その他のインパクト
令和7年1月に一般公開シンポジウムを開催し、妊婦・授乳婦の視点を医薬品安全対策の制度設計に組み込む重要性や、産官学連携による議論の必要性を広く社会へ発信した。また、市販後安全性データの収集体制構築の一環として、患者向け資材等の作成に着手しており、相談窓口の周知や同意に基づく詳細なフォローアップ調査の仕組みを整備した。特許の出願等はないものの、これらの普及・啓発活動を通じて、当事者である妊婦・授乳婦自身が安心して適切な医療を選択できる社会の実現に寄与している。

発表件数

原著論文(和文)
37件
原著論文(英文等)
34件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
シンポジウム1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mikako Goto,Naho Yakuwa,Atsuko Murashima
Physicians' Perceptions of Prescribing in Pregnancy and Package Inserts: A Survey of General and Hub Hospitals in Japan
Clinical and Translational Science , 19 (6) , e70602-  (2026)
https://doi.org/10.1111/cts.70602
原著論文2
八鍬奈穂、後藤美賀子、三浦寄子他
薬剤師を対象とした妊婦・授乳婦への医薬品投与に関する医療用医薬品添付文書の認識調査
医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス , 56 (3) , 243-250  (2025)

公開日・更新日

公開日
2026-06-08
更新日
2026-07-14

収支報告書

文献番号
202524022Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,800,000円
(2)補助金確定額
6,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,032,831円
人件費・謝金 1,673,981円
旅費 804,955円
その他 1,743,688円
間接経費 1,569,000円
合計 6,824,455円

備考

備考
本事業の推進にあたり、研究分担者が海外における調査研究・成果発表等のため外国旅費を支出いたしました。その際、当初の計画よりも航空運賃の高騰や為替レートの変動等による旅費の増加があり、配分された補助対象経費(直接経費)の枠内では不足が生じる事態となりました。
研究計画を円滑に遂行し、十分な成果を得るためには当該海外渡航が不可欠であったため、不足した差額分の24,455円については、分担者所属機関の自己資金(または個人研究費、自己資金等に適宜変更)を充当して補填いたしました。
以上の理由により、補助金受領額と実支出額の合計に24,455円の差異が生じております。なお、この超過分は全額自己資金により措置しており、補助金の不正な流用や計画外の過剰支出ではございません。

公開日・更新日

公開日
2026-07-14
更新日
-