胎児・新生児期に発症する難治性遺伝性不整脈の実態調査、診断・治療ガイドライン作成並びに生体資料のバンク化

文献情報

文献番号
201024108A
報告書区分
総括
研究課題名
胎児・新生児期に発症する難治性遺伝性不整脈の実態調査、診断・治療ガイドライン作成並びに生体資料のバンク化
課題番号
H22-難治・一般-053
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
堀米 仁志(筑波大学 大学院人間総合科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 堀江 稔(滋賀医科大学 呼吸循環器内科)
  • 住友 直方(日本大学医学部 小児科学系小児科学分野)
  • 吉永 正夫(国立病院機構鹿児島医療センター 小児科)
  • 清水 渉(国立循環器病研究センター 心臓血管内科不整脈部)
  • 鈴木 博(新潟大学医歯学総合病院 小児科)
  • 竹田津未生(埼玉医科大学国際医療センター 小児心臓科)
  • 高橋 秀人(筑波大学 大学院人間総合科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胎児・新生児期・乳児期に発症する先天性QT延長症候群:LQTは難治性のことが多いが、わが国におけるその発生状況は明らかでなく、その診断基準、治療法は確立されていない。また、近年、わが国の乳児死因第3位を占める乳幼児突然死症候群(SIDS)の一部は遺伝性不整脈が原因となっていることが明らかとなり、臨床情報と遺伝情報を統合した新たな効果的治療法の確立が求められている。本研究では、これらの疾患の新たな診断、治療アルゴリズムの確立を目的として、発生状況、遺伝的背景、治療状況、予後について全国調査を行い、臨床症状と遺伝情報の関連を検討した。
研究方法
全国の主要な小児循環器医療施設を対象として、胎児・新生児期・乳児期に発症したLQTに関する調査を行った。登録された症例について、特に遺伝的背景に注目して臨床経過、治療とその効果、予後について解析した。LQTのSIDSへの関与については、文献的に報告されているSIDSの遺伝子変異の種類と、今回の調査で登録された症例の遺伝子変異との関連を考察した。
結果と考察
全国38施設から72症例が登録され、胎児期診断例が23例、新生児期診断例が35例、乳児期が14例であった。遺伝子型では、早期から心室頻拍、房室ブロックを呈して重症に経過するのはほとんどがLQT2型(KCNH2変異)と3型(SCN5A変異)であり、突然死例または救命された心停止例も14例みられた。LQT1型(KCNQ1変異)はほとんどが家族歴の存在が診断契機となり、洞性徐脈のみを呈し、重症不整脈は合併しなかった。2型と3型LQTでは救命のためにβ遮断剤、メキシレチン、マグネシウムを主体とした多剤薬物療法やペースメーカー治療を必要とすることが多かった。LQTとSIDSの遺伝子変異部位の検討では、LQT3型ではSIDSで検出されている変異部位とオーバーラップがみられたが、LQT2型では変異部位が明らかに異なり、SIDS発生に関与する他の修飾因子の存在が示唆された。
結論
胎児期から乳児期に重症不整脈を呈して発症する遺伝性不整脈(特にLQT)の多くはLQT2型及び3型であり、難治例が多いため、遺伝子型が未確定であっても早期から多剤抗不整脈薬治療を行い、必要な場合には新生児であってもペースメーカー治療を併用することによって救命率を上げることができる。また、LQT3型は一部のSIDSの原因となっている可能性がある。今後さらにSIDSの遺伝学的背景を解析し、不整脈との関係を明らかにすることにより、わが国の乳児死亡率をさらに低減できる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2011-12-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201024108C

成果

専門的・学術的観点からの成果
今回の研究で全国から集積した胎児・新生児期・乳児期に発症する遺伝性不整脈(特に先天性QT延長症候群:LQT)の症例数は、現在までに欧米で報告されている論文と比較しても最大のものであり、その年齢層は最もデータ収集が困難な胎児期から乳児期をカバーしている。また、この疾患の管理指針を立てる上で最も重要な遺伝子変異の種類も約70%で確定し、代表的な1-3&8型LQTについて、遺伝学的背景と臨床症状の関連を明らかにすることができた。
臨床的観点からの成果
胎児・新生児期・乳児期に発症する遺伝性不整脈(特に先天性QT延長症候群:LQT)は発生頻度が低く、難治性であるため、診断・治療が確立していなかったが、乳児期にみられる症状に加え、特徴的不整脈(洞性徐脈・心室頻拍・房室ブロック)の存在、家族歴の存在を契機として早期診断できることが明らかとなった。また、重症例は遺伝子型によらず早期から積極的な治療介入することによって救命率をあげることができるができる可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
胎児・新生児期、乳児期に発症する先天性QT延長症候群の診断・治療指針の案を策定した。診断:(1)先天性QT延長症候群診断の基本は心電図上のQT時間の延長であるが、(2)持続性洞性徐脈、房室ブロック、間欠的心室頻拍、家族歴の存在が重要であり、その場合は遺伝子検査を積極的に行う。治療:遺伝子型が不明であっても重症例に対しては積極的な多剤薬剤治療と、徐脈誘発性の心室頻拍を繰り返す症例では、新生児・乳児であっても遅滞なくペースメーカー治療を行うことが救命のために必要となる。
その他行政的観点からの成果
現在、日本の乳児死亡率は世界最低レベルにあるが、その第3ー4位を占める乳児突然死症候群の一部は先天性QT延長症候群が関与して発生している。今回得られた不整脈の早期診断法と予防的治療に関する成果を全国に普及させることによって、わが国の乳児死亡をさらに減らし、国民の健康に寄与できる可能性がある。実際、厚労省のSIDS研究班が2014年から立ち上がることになり、本報告者も分担研究者として加わった。
その他のインパクト
アメリカ心臓病学会の機関誌Circulation: Arrhythmia and Electrophysiologyに掲載された本研究成果の論文は、同誌の同年度読まれた論文の中で30位台にランクされた。さらに2014年4月には同学会の胎児心臓病診断と治療に関するScientific Statementに引用された。また、日本の医学関連誌(メディカルトリビューンなど)でも取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
29件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
83件
学会発表(国際学会等)
20件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2015-06-08

収支報告書

文献番号
201024108Z