文献情報
文献番号
202523018A
報告書区分
総括
研究課題名
水産物におけるリステリアのリスク評価及び防除に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23KA3001
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
中村 綾花(国立大学法人 東京海洋大学 学術研究院 食品生産科学部門)
研究分担者(所属機関)
- 高橋 肇(東京海洋大学 食品生産科学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
1,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、非加熱喫食されるReady-to-eat(RTE)水産加工食品における Listeria monocytogenes のリスク評価および防除に資する基礎的知見を得ることを目的とした。これまでに国内流通RTE水産加工食品500検体を対象とした汚染実態調査を実施し、たらこ、明太子、いくら、すじこ、まぐろのたたき、スモークサーモン等から本菌を分離した。また、分離株40株の全ゲノム解析により、同一または近縁の遺伝型の株が同一製造者または関連製造者の複数製品から検出される事例を確認し、製造環境における長期残存または反復汚染の可能性を示した。最終年度である令和7年度は、これらの知見を踏まえ、食品製造現場で使用される主要な洗浄剤に対する分離株の感受性を評価し、適切な防除方法の検討を行った。
研究方法
令和5年度にRTE水産加工食品から分離し、令和6年度に全ゲノム解析を実施した L. monocytogenes のうち22株を供試菌株とした。供試菌株は、まぐろのたたき、たらこ、明太子、いくら、すじこ、スモークサーモン等に由来する株で構成した。洗浄剤は、食品製造現場で一般的に使用される有効成分の異なる4種類、すなわち塩化ベンザルコニウム、次亜塩素酸ナトリウム系洗浄剤、過酢酸系洗浄剤、アルキルアミン系洗浄剤を用いた。96ウェルマイクロプレート法により各洗浄剤を2倍段階希釈し、菌液を接種後37℃で24時間培養した。培養後、OD650を測定して最小発育阻止濃度(MIC)を算出した。さらに、生菌数測定により最小殺菌濃度(MBC)を求め、全ゲノム解析データから得られた塩化ベンザルコニウム耐性関連遺伝子等の保有状況と比較した。
結果と考察
4種類の洗浄剤はいずれも濃度依存的に L. monocytogenes の増殖を抑制したが、その効果および株間差は洗浄剤により異なった。十分な殺菌効果を得るためには、塩化ベンザルコニウムでは0.00129%、次亜塩素酸ナトリウム系洗浄剤では2%、過酢酸系洗浄剤では0.25%、アルキルアミン系洗浄剤では0.025%以上の濃度が必要であることが示された。特に次亜塩素酸ナトリウム系洗浄剤では株間差が大きく、増殖抑制濃度と殺菌濃度の差も大きいことから、静菌効果と殺菌効果を区別して評価する必要性が示された。一方、アルキルアミン系洗浄剤では分離株によらず比較的安定した殺菌効果が認められた。また、一部の株では塩化ベンザルコニウム耐性関連遺伝子またはTn6188の保有が確認され、これらの株では塩化ベンザルコニウムに対するMICまたはMBCが高い傾向を示した。このことから、全ゲノム解析に基づく遺伝子情報が洗浄剤感受性の予測やリスク評価に有用である可能性が示唆された。食品製造現場では、有機物残渣、接触時間、温度、表面材質、バイオフィルム形成等が洗浄剤の効果に影響するため、実験室条件で得られた知見を踏まえつつ、現場条件に応じた濃度管理と洗浄手順の検証が重要である。
結論
RTE水産加工食品由来 L. monocytogenes 分離株は、洗浄剤に対する感受性が一様ではなく、菌株の遺伝学的背景により感受性が異なる可能性が示された。特に、塩化ベンザルコニウム耐性関連遺伝子等を保有する株では、同成分に対する感受性低下傾向が認められた。以上より、食品製造環境におけるリステリア防除には、単一の洗浄剤に依存するのではなく、有効成分の異なる洗浄剤を組み合わせ、適切な濃度管理と使用方法を徹底することが重要である。本研究成果は、RTE水産加工食品におけるリステリアリスク低減に向けた衛生管理および食品衛生行政上の基礎資料として活用されることが期待される。
公開日・更新日
公開日
2026-08-13
更新日
-