野生鳥獣の食肉利用に関わるリスク分析に資する研究

文献情報

文献番号
202523011A
報告書区分
総括
研究課題名
野生鳥獣の食肉利用に関わるリスク分析に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
24KA1004
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
前田 健(国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所獣医科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 壁谷 英則(日本大学生物資源科学部)
  • 鈴木 康規(北里大学 獣医学部)
  • 入江 隆夫(宮崎大学 農学部 獣医学科)
  • 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和6(2024)年度
研究終了予定年度
令和8(2026)年度
研究費
18,867,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
野生動物の分布拡大と個体数増加により農業被害が深刻化する一方、食資源不足や家畜感染症の影響で野生鳥獣肉の有効利用が重要性を増している。しかし、野生動物は飼養管理ができないため、捕獲後の衛生管理が不可欠である。本研究班は病原体の分布とリスクを明らかにし、ガイドラインや認証制度の整備に寄与してきたが、制定から10年が経過し、改訂が必要となっている。また、野生鳥獣肉はペットフードや展示動物への給餌にも利用され、新たな感染リスクが顕在化している。さらに、狩猟者は異常個体の発見の最前線にあり、情報提供・収集体制の構築や狩猟者自身の感染防止が重要である。消費者にも適切な加熱・調理の重要性を周知し、野生鳥獣肉利用に伴うリスクを総合的に評価・管理する必要がある。
研究方法
 本研究班は、上記の目的を遂行するために以下の4項目に関して研究を遂行する。
1)野生鳥獣由来食肉の保有する病原体に関する知見の収集(ウイルス、細菌、寄生虫)
2)食中毒や健康被害の発生防止対策のための科学的な根拠の提供
3)現場の実態に対応したHACCP に沿った衛生管理手法の確立
4)消費者や関係事業者に対する分かりやすい形での情報提供手法の提案
結果と考察
野生鳥獣由来食肉の安全性確保に向け、ウイルス・細菌・寄生虫の保有状況、環境中の食中毒菌の分布、処理施設における衛生管理の実態を多面的に評価した。まずウイルスについて、E型肝炎ウイルス(HEV)の疫学調査では、シカにおける感染は極めて稀である一方、イノシシ、特に30kg以下の幼獣で抗体陽性率が低く遺伝子検出率が高いことから、幼獣が感染初期段階にある可能性が示された。また、イノシシ糞便からは遺伝子型3bを中心とする複数のHEV株が検出され、地域ごとのクラスター形成が確認された。さらに青森県ではHEVとサペロウイルスAの共感染が示唆され、国内イノシシ集団におけるウイルス循環の多様性が明らかとなった。SFTSVやOzウイルスなどの節足動物媒介ウイルスについても、イノシシ・シカ・ツキノワグマ・ニホンザルで高い抗体陽性率が認められ、野生動物がこれらウイルスの生態系内循環に関与している可能性が示された。
細菌については、シカ糞便から黄色ブドウ球菌が5.6%、イノシシから3.1%分離され、多くが野生鳥獣特有クローンCC121に属した。βラクタム系抗菌薬耐性菌では、ESBL産生E. coliがイノシシ糞便から11.6%検出され、blaCTX-M-15および55が主要遺伝子であった。非結核性抗酸菌も両動物から検出され、Mycolicibacterium fortuitumと同定された。寄生虫では、有鉤嚢虫・旋毛虫・トキソプラズマはイノシシ心臓263検体すべて陰性であったが、住肉胞子虫は18.3%で陽性となり、アナグマでも高率に検出された。シカ胎児からは複数種のSarcocystis DNAが検出され、母子感染の可能性が示唆された。
食中毒防止に関して、野生カモおよび環境水のカンピロバクター調査では、カモ35.3%、環境水35.1%が陽性で、畜産施設や下水処理場の近接地点で陽性率が高い傾向がみられた。解体場調査では、盲腸内容物が陽性であっても環境表面からは検出されず、適切な衛生管理の有効性が示された。
処理施設の衛生管理評価では、屋外処理や剝皮順序、湯剝ぎ、のせ台使用などが細菌数増加と関連し、食道・肛門結紮は鹿で細菌数低減に寄与した。外皮付き熟成では外皮細菌数が大幅に増加し、作業者手指・ナイフの細菌数も工程により大きく変動した。細菌叢解析ではPseudomonadalesが枝肉で優勢であり、ListeriaやSalmonellaは検出されなかった。
さらに、狩猟者・解体者向けのカラーアトラスを作成し、病変の識別や生食リスクの啓発を強化した。本研究は、野生鳥獣肉の衛生管理ガイドラインの改訂に資する科学的根拠を提供し、今後の安全なジビエ利用に向けた基盤を形成した。
結論
本研究により、イノシシがHEVの主要宿主であり、若齢個体で感染頻度が高いこと、また複数ウイルスが集団内で循環していることが最確認されている。SFTSVも東日本を含む広域で野生動物内に維持されており、狩猟者や処理従事者のマダニ対策強化が必要である。細菌では、シカに特有クローンCC121が定着し、イノシシではESBL産生菌が高率に検出された。寄生虫では、住肉胞子虫はイノシシ・アナグマで高率に検出され、食中毒原性評価が求められる。カモはカンピロバクター保有率が高く、環境水との関連も示唆された。HACCP評価では屋外処理や不適切な工程が細菌汚染を増加させ、土壌が主要汚染源であることが示された。カラーアトラスは現場のリスク低減に寄与する。

公開日・更新日

公開日
2026-09-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

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公開日
2026-09-02
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収支報告書

文献番号
202523011Z