肺静脈閉塞症についての病理病態解明と診断基準確立のための研究

文献情報

文献番号
201024089A
報告書区分
総括
研究課題名
肺静脈閉塞症についての病理病態解明と診断基準確立のための研究
課題番号
H22-難治・一般-033
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
植田 初江(独立行政法人国立循環器病研究センター 臨床検査部臨床病理科)
研究分担者(所属機関)
  • 佐久間 聖仁(独立行政法人国立循環器病研究センター 心臓血管内科)
  • 松原 広己(独立行政法人国立病院機構岡山医療センター 循環器科)
  • 佐藤 徹(杏林大学 医学部 循環器内科)
  • 白井 幹康(独立行政法人国立循環器病研究センター 研究所心臓生理機能部)
  • 平野 賢一(大阪大学 大学院医学系研究科 循環器内科学)
  • 坂尾 誠一郎(千葉大学 大学院医学研究院 呼吸器内科学)
  • 木曽 啓祐(独立行政法人国立循環器病研究センター 放射線部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肺静脈閉塞症(PVOD)は、人口100万人に0.1-0.2人と非常に稀で予後不良の難病である。肺高血圧症(PAH)の血管拡張剤抵抗例や膠原病合併例などに潜在例があるはずだが、臨床診断基準がなく治療方針が決定できない。WHO肺高血圧会議でもコンセンサスはない。本研究は日本初のPVOD調査であり、PVOD臨床診断基準を確立し、膠原病合併肺高血圧(cPAH)例からPVODを発掘し、さらに肺移植以外の有効治療の検討を目的とする。
研究方法
1.PVOD確定診断例の症例登録
PVOD病理診断例を匿名化しWEB上で症例登録。
2.膠原病合併肺高血圧(cPAH)症例のアンケート調査
全国の膠原病内科標榜216主幹施設にcPAH症例のアンケートを行った。項目はPAH診断時の年齢・性別・喫煙歴・肺炎の既往・膠原病名と罹患期間・動脈血ガス・DLCO, %VC・6分間歩行距離・肺野CT・治療薬の種類 等。
3.肺移植以外の有効治療の検討
PVOD、cPAH薬剤;プロスタサイクリン、NO、シルデナフィル、エンドセリン受容体拮抗薬、Rhoキナーゼ阻害剤、治験薬等の有効性を検討した。
結果と考察
1.病理診断されたPVOD10例を本年度登録した。7例が男性、5例に喫煙歴を認めた。肺機能検査は7例施行され4例に拡散能の低下を認めた。肺血流シンチで全例異常を示し、上肺野の血流低下、び漫性不均一血流が半数で認められた。
2.平成23年3月時点のアンケートcPAH登録数は179である。強皮症関連が31%と最多で、SLE関連24%、MCTD関連20%、シェーグレン8%であった。DLCO55%以下が61%。肺野CT像では38%にグランドグラス(GGO)を認めた。DLCO低下とGGOの両者を呈する症例が18%、低酸素血症は8%であった。6分間歩行距離は強皮症で最短。cPAH中で10-20%のPVODの可能性を示唆した。
3.班員松原は同意を得たPVOD・PCH 疑いの10例にイマチニブを投与。投与群は非投与群(静注PGI2等)と比較し生存期間が延長した。PVODに対するイマチニブの有効性を示した世界初の結果を得た。
結論
PVOD臨床診断基準としてDLCOの低下、GGOが有用と考えられた。cPAH中にDLCOの低下とGGOを示し、低酸素血症を呈する症例が1-2割認められ、PVODの可能性が示唆された。PVODは報告よりも多い可能性があり、治療選択のため的確な診断が必要でPVOD診断基準の確立は重要である。

公開日・更新日

公開日
2011-12-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201024089C

成果

専門的・学術的観点からの成果
肺静脈閉塞症 (Pulmonary Veno-Occlusive Disease, PVOD) 診断基準案を作成した。さらに膠原病合併肺高血圧症のアンケート調査からPVOD類似症例を発見した。WHO肺高血圧国際会議でもPVODの治療法は未だコンセンサスが無く、本研究の成果を日本ばかりでなく、海外へ発信することは有意義である。また、患者向けホームページ等の活用や、海外へも発信することは有意義である。
臨床的観点からの成果
多施設共同研究として、病理学的に診断されたPVOD症例について調査を行い、%DLCOの低下および肺野CT所見が臨床診断の指標となることが示唆された。また、膠原病合併肺高血圧症例の中にPVOD類似例があることがわかってきた。PVODはWHOでも肺動脈性肺高血圧の亜型に分類され、基礎疾患による違いは明らかにされていない。PVODの診断基準およびガイドラインにより肺高血圧専門施設以外でも病初期より鑑別でき、対象となる患者への薬物治療の介入、肺移植治療の適応判定などを可能にする。
ガイドライン等の開発
PVOD臨床診断案を作成 1. 臨床所見が特発性肺高血圧症と類似-呼吸困難等臨床症状あり,胸部X線所見で多くの場合明白な異常陰影なし, 右心カテで肺高血圧の所見あり
2. 検査所見 a. 酸素飽和度の低下 特に運動負荷後 b. 肺機能検査:%DLCOの著明な低下
c. HRCT:小葉間隔壁の肥厚、粒状影、索状影、小葉中心性スリガラス様影縦隔リンパ節腫大
d. 肺血流シンチ:亜区域性の血流欠損 3. 肺動脈性肺高血圧治療による肺うっ血/肺水腫
4. 男性に多く喫煙歴を認めることが多い
その他行政的観点からの成果
PVODは世界的にも稀な予後不良な難病で、肺移植のみが根治的治療である。100万人に0.2人と言われるものの、疫学的報告は皆無で発症の実態が把握されておらず、データに基づく適切な行政施策が望まれる。本研究では初めての全国規模の登録システムを用いて情報を収集することで、PVODの実態を明らかにし、膠原病合併肺高血圧症中にPVOD類似例があり、潜在患者数は報告より多いことが推定された。本研究によりPVODの診断、治療のガイドラインを確立することで医療経済的にも無駄を省き、患者の幸福につながる。
その他のインパクト
本研究からPVODの実際の患者数は報告よりも多いと考えられる。患者が施設間格差なしに的確な治療を受けられるようPVODの臨床診断基準を確立し、全国の呼吸器内科ばかりでなく膠原病内科、一般内科にも広く情報を発信することが重要である。肺移植必須症例と内科治療可能症例を鑑別できるようPVODの治療選択指針を発表し、膠原病合併肺高血圧症からもPVODを鑑別、抽出できるようになれば、本研究は今後の治療に大きく貢献するものであると考える。

発表件数

原著論文(和文)
17件
原著論文(英文等)
29件
その他論文(和文)
40件
その他論文(英文等)
21件
学会発表(国内学会)
41件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
1件
「出願」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2015-06-08

収支報告書

文献番号
201024089Z