乳児期QT延長症候群の診断基準と治療アルゴリズム作成による突然死予防に関する研究

文献情報

文献番号
201024088A
報告書区分
総括
研究課題名
乳児期QT延長症候群の診断基準と治療アルゴリズム作成による突然死予防に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-032
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
吉永 正夫(国立病院機構鹿児島医療センター 小児科)
研究分担者(所属機関)
  • 堀米 仁志(筑波大学大学院人間総合科学研究科 疾患制御医学専攻・小児内科学)
  • 住友 直方(日本大学医学部 小児科学系小児科学分野)
  • 清水 渉(国立循環器病研究センター 心臓血管内科)
  • 牛ノ濱 大也(福岡市立こども病院・感染症センター 循環器科)
  • 野村 裕一(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 小児発達機能病態学分野 小児科)
  • 白石 裕比湖(自治医科大学とちぎ子ども医療センター 小児科)
  • 高橋 秀人(筑波大学大学院人間総合科学研究科 疫学・医学統計学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
疫学、遺伝学的研究から乳児突然死症候群として突然死した乳児の中にQT延長症候群の責任遺伝子を有する乳児がいることが判ってきた。一方で、乳児期に発症するQT延長症候群は重症であることが知られているが、頻度が不明であった。
本研究の目的は、乳児期QT延長症候群(以下、本症と略す)の診断基準と治療のアルゴリズムを作成し、乳児期における早期診断と、乳児期の症状(突然死、突然死ニアミス)出現予防を行うことである。
研究方法
フィージビリティースタディーを開始するにあたって、QT時間の補正方法と暫定診断基準を作成した。全国8地域において、1か月健診を受診した乳児の心電図記録と乳児突然死症候群に対するアンケートを行った。スクリーニング基準として乳児用補正式を検討した。経過観察を要する児では保険診療にて観察を行った。1年後にQT延長症候群に関する症状の有無について調査を行う予定である。
結果と考察
乳児全体(0?11か月児)を対象とする場合、乳児用の補正式 {QTc = QT / RR0.43}を用い、スクリーニング値としてQTc値0.440.43が妥当と考えられた。本研究に4,319名の乳児が参加した。本症の頻度は1,071名に1名、治療を要した頻度は2,143名に1名であった。治療を要した例を治療しなければ症状が出現したと仮定すれば、有症状率(対10万)は46.7であった。他に心機能低下を伴う心筋緻密化障害1名を診断できているので約4,300名のうち3名の生命予後を改善できたことになる。アンケート結果からは参加した1か月健診児の96%が仰向け寝、喫煙習慣は父42%、母2%であった。うつぶせ寝あるいは喫煙がリスクの一つであることはそれぞれ81%、69%の両親が知っていた。
 参加した4,319名のうち4,285名の心電図により本症の診断・治療のためのアルゴリズム(第1版)を作成した。1か月児のみを対象とするスクリーニングではBazett補正{QTc = QT / RR0.5}を用い、スクリーニング値としてQTc値0.460.5が妥当と考えられた。
結論
本研究を事業化できれば、本症による症状出現防止だけでなく、乳児突然死症候群総数も減少させることができ、次世代を担う子どもの健全育成に大きく貢献することが可能と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2011-12-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201024088C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1) 乳児期QT延長の暫定基準を作成
1,138名心電図から乳児期(0-11か月)の暫定基準を作成できた。補正式はQT/RR0.43で、基準値は0.44以上が妥当であった
2) 乳児期QT時間の変化を解明
QT時間が最も延長するのは生後6-11週であった。この時期は乳児突然死症候群が最も多い生後2か月前後と一致していた。QT延長症候群患児もこの時期が最も延長することが予測された
3) 乳児期QT延長症候群の頻度を解明
前方視的研究に4,319名が参加した。頻度は1,071名に1名であった
臨床的観点からの成果
4,319名中3名の乳児の生命予後を改善できた。
1) 治療を要する乳児期QT延長症候群児は2名であった
 QT延長を示した4名中2名がQTc値0.50以上と著明に延長し、治療を開始した。うち1名はストップコドンを伴った遺伝子変異を有しており、重症型と考えられた。
2) QT延長症候群以外の重症心疾患が1名いた
 WPW症候群を呈した乳児が3名おり、うち1名は心機能低下を伴う心筋緻密化障害であった。同症例のうち乳児期発例は重症であることが知られており、早期治療により重症化を防げたと考えられた。
ガイドライン等の開発
QT時間は生後6-11週が最も長いこと、乳児突然死症候群は生後2か月時にピークを示すことから1か月健診時がスクリーニング時期として妥当と考えられた。1か月児の補正式はQT/RR0.50で、基準値は0.46以上が妥当であった。
 乳児期QT延長症候群の治療開始暫定基準として下記のガイドラインを作成した。
1. 症状が出現している
2. 補正QT時間が0.50以上、又は持続的に延長する
3. QT延長があり、かつ乳児突然死症候群または症状が出現したQT延長症候群の家族歴がある
その他行政的観点からの成果
鹿児島地区では、1か月健診受診者中の研究参加率も検討した。5産科施設での研究参加率は80 %から99.8 %であった。1か月健診時の心電図記録が、乳児突然死の予防につながることを強く認識された協力病院での本研究参加率はほぼ100%であり、乳児突然死症候群とQT延長症候群に関する情報提供が重要であることが示唆された。心電図収集については、電子媒体等を利用し、時間短縮を検討する必要もあると考えられた。
その他のインパクト
本研究成果を学術雑誌(英文誌)に発表し、学術雑誌に掲載され次第、関連する学会、特に日本小児循環器学会、日本周産期・新生児医学会のホームページへの掲載を依頼する。また、研究代表者および研究分担者の施設のホームページにも掲載する。同時に、新聞その他のマスコミにも掲載を依頼する。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
16件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yoshinaga M, Kato Y, Nomura Y,et al.
The QT intervals in infancy and time for infantile ECG screening for long QT syndrome.
J Arrhythmia , 27 (3) , 193-201  (2011)
org/10.4020/jhrs.27.193
原著論文2
Ninomiya Y, Yoshinaga M, Kucho Y,et al.
Risk factors for symptoms in long QT syndrome in a single pediatric center.
Peadiatr Int , 55 (3) , 277-282  (2013)
10.1111/ped.12107
原著論文3
吉永正夫、長嶋正實.
自動計測とマニュアル計測でのQT時間の差に関する検討.
心電図 , 32 (5) , 427-435  (2013)
原著論文4
Yoshinaga M, Ushinohama H, Sato S, et al.
Electrocardiographic screening of 1-month-old infants for identifying prolonged QT intervals.
Circ Arrhythm Electrophysiol , 6 (5) , 932-938  (2013)
10.1161/CIRCEP.113.000619
原著論文5
Yoshinaga M, Kucho Y, Sarantuya J, et al.
Genetic Characteristics of Children and Adolescents with Long QT Syndrome Diagnosed by School-Based Electrocardiographic Screening Programs.
Circ Arrhythm Electrophysiol , 7 (1) , 107-112  (2013)
10.1161/CIRCEP.113.000426.

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

収支報告書

文献番号
201024088Z