「ナッジ」等の行動経済学的アプローチによる労働災害防止の取組促進に資する研究

文献情報

文献番号
202522002A
報告書区分
総括
研究課題名
「ナッジ」等の行動経済学的アプローチによる労働災害防止の取組促進に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23JA1003
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
財津 將嘉(産業医科大学 高年齢労働者産業保健研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 宮内 博幸(産業医科大学 産業保健学部 作業環境計測制御学講座)
  • 田淵 貴大(国立大学法人東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
転倒や腰痛など作業行動に起因する労働災害は、高年齢労働者の増加とともに重要な労働安全衛生課題となっている。作業者が自発的に安全で健康な行動を選択できるよう選択環境を設計する「ナッジ」等の行動経済学的アプローチを、労働災害防止へ応用することが求められている。
研究方法
最終年度の本年度は、職場における転倒予防を中心に、①生活習慣因子と職場での転倒との関連、②平衡機能を要するレクリエーション活動による重心動揺改善可能性、③人感センサーを用いた危険予知ライトによる危険回避行動の誘発に関する検証を実施した。
結果と考察
生活習慣因子の研究では、全国規模のインターネット調査であるJACSISの転倒既往のない20〜74歳の労働者10,645人を対象とした縦断観察研究を行った。約1年間の追跡期間中、456人(4.3%)が職場での転倒を経験した。喫煙、高血圧症、短時間睡眠により転倒リスクが上昇したが、中強度の身体活動は転倒リスクを低下した。
レクリエーション活動の研究では、当センターで収集された重心動揺測定データを用い、Glice®樹脂製人工アイスパネル上でアイスホッケーを実施した未経験の健康成人6名、ロングボードによるサーフィンを実施した未経験の健康成人4名、および企業等の体力測定会で複数回測定された対照群228名を対象とした後方視的観察研究を行った。アイスホッケー活動では閉眼時重心動揺総軌跡長が低下し、サーフィン活動では開眼時重心動揺総軌跡長が低下し、実施回数に対して線形な減少傾向を認めた。一方、対照群では重心動揺総軌跡長に変化は認められなかった。
危険予知ライトの研究では、社会福祉施設の従業員46名を対象に、厨房、入浴施設、洗濯作業域、施設入口など転倒リスクの高い場所へ人感センサー搭載の危険予知ライトを設置し、設置前後1か月の危険認知および安全行動を質問紙調査とテキストマイニングにより評価した。設置後には、危険認知、台や脚立の利用、足腰を鍛える運動、改善を常に意識することなどの安全意識・行動が向上する傾向を認めた。自由記述の分析では、「危険」「リスクマネジメント」「予防」「予知」などの語が増加し、転倒を「防げるもの」「対策できるもの」と捉える認識の広がりが示唆された。
結論
職場の転倒予防においては、生活習慣病管理、睡眠改善、禁煙、身体活動促進といった衛生教育に加え、楽しさを伴う身体活動への誘導、および危険箇所を目立たせる「ナッジ」が有用となる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2026-10-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-10-22
更新日
-

文献情報

文献番号
202522002B
報告書区分
総合
研究課題名
「ナッジ」等の行動経済学的アプローチによる労働災害防止の取組促進に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
23JA1003
研究年度
令和7(2025)年度
研究代表者(所属機関)
財津 將嘉(産業医科大学 高年齢労働者産業保健研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 宮内 博幸(産業医科大学 産業保健学部 作業環境計測制御学講座)
  • 鎌田 真光(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 田淵 貴大(国立大学法人東北大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
令和5(2023)年度
研究終了予定年度
令和7(2025)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高年齢労働者の増加に伴い、転倒や腰痛など作業行動に起因する労働災害は重要な労働安全衛生課題となっている。従来型の環境改善のみでは対策に限界があり、作業者が自発的に安全で健康な行動を選択できるよう促す「ナッジ」等の行動経済学的アプローチの活用が期待される。
研究方法
本研究では、労働災害疫学データ、職域・一般住民データの解析、および現場介入実験を通じて、行動経済学的アプローチによる労働災害防止対策の有用性を検討した。
結果と考察
令和5年度は、文献レビューにより安全衛生分野におけるナッジの確立したエビデンスが乏しいことを確認した。労働者死傷病報告データでは、転倒災害の増加を確認し、地域別では関東が最多、季節別では1月にピークを示す地域が多く、業種別では商業が最多であり、2020年以降は社会福祉施設での増加を確認した。一般住民コホートや歩数アプリデータを用いた身体活動・運動器疾患に関する研究を開始し、社会福祉施設における転倒リスク箇所の把握と介入評価用アンケートを作成した。
令和6年度は、個人要因、生活習慣要因、作業環境要因の検証を進めた。輸送機械組立従事者249名の縦断研究では、加齢に伴い閉眼片脚立位時間が有意に短縮する一方、歩行習慣はその低下を抑制する可能性が示された。全国労働者18,440人を対象としたJACSIS横断研究では、7.3%が過去1年間に職場での転倒を経験し、高血圧、脂質異常症、糖尿病はいずれも転倒発生率の上昇と関連していた。社会福祉施設の46名を対象とした危険予知ライトの研究では、設置後に「危険」「リスクマネジメント」「予防」「予知」などの語が増加し、危険認識の向上が示唆された。さらに、一般住民コホートでは大腿四頭筋の筋力増強運動が慢性腰痛発症の低下と関連し、歩数アプリデータから身体活動の日内変動の特徴を明らかにした。
令和7年度は、最終年度として、生活習慣因子、平衡機能を要するレクリエーション活動、危険予知ライトによるナッジの検証を行った。大規模労働者縦断研究において、1年間で約4.3%が職場での転倒を経験し、喫煙、高血圧症、短時間睡眠は転倒リスクを上昇させ、中強度身体活動はリスクを低下した。重心動揺データを用いた後方視的観察研究では、平衡機能を要するレクレーション活動により重心動揺総軌跡長が低下した。危険予知ライトの研究では、設置後に危険認知や安全行動が向上する傾向を認め、転倒を「防げるもの」「対策できるもの」と捉える認識の広がりが示唆された。
結論
3年間の研究により、職場の転倒予防には、疫学分析に基づく高リスク集団・場面の把握、生活習慣や身体活動促進といった衛生要因への支援に加え、楽しさを伴う身体活動への誘導や危険箇所を目立たせるナッジを組み合わせる個人と作業環境の双方に働きかける多層的な行動経済学的アプローチが重要であることが明らかとなった。

公開日・更新日

公開日
2026-10-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2026-10-22
更新日
-

行政効果報告

文献番号
202522002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
労働災害疫学データ、職域・一般住民データ、現場介入実験を統合し、転倒・腰痛災害に対する行動経済学的アプローチの有用性を明らかにした。成果は国際的科学雑誌に掲載され、国内外から大きな反響があった。
臨床的観点からの成果
転倒災害の属性別・季節別・業種別特徴を明らかにし、生活習慣病、睡眠、喫煙、身体活動が職場転倒と関連すること、さらに危険予知ライトや楽しさを伴う身体活動が安全行動や平衡機能改善に寄与し得ることを示した。
ガイドライン等の開発
エイジフレンドリーガイドラインを元にした「高年齢者の労働災害防止のための指針」の作成に寄与し、研究成果が利活用されることとなった。
その他行政的観点からの成果
「高年齢者の労働災害防止のための指針」の作成に寄与し、高年齢労働者の労働災害防止対策へ効果的な推進に貢献した。
その他のインパクト
第99回日本産業衛生学会において、フォーラム2(産業衛生技術部会フォーラム)エイジフレンドリーな職場づくり ~高年齢労働者が働きやすい職場の現在と展望~として、話題が取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
新事業の契機1
その他成果(普及・啓発活動)
1件
シンポジウム開催1

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Zaitsu M, Ishimaru T, Tsushima S, et al
Incidence of coronary heart disease among remote workers: a nationwide web-based cohort study
Sci Rep  (2024)
10.1038/s41598-024-59000-y
原著論文2
Watanabe K, Iizuka S, Kobayashi T, et al
Daily walking habits can mitigate age-related decline in static balance: a longitudinal study among aircraft assemblers
Sci Rep  (2025)
10.1038/s41598-025-86514-w
原著論文3
Tsushima S, Watanabe K, Hirohashi S, et al
Occupational fall incidence associated with heated tobacco product use and lifestyle behaviors in Japan
Sci Rep  (2025)
10.1038/s41598-025-05204-9
原著論文4
Watanabe K, Kawachi I, Zaitsu M
Occupational Disparities in Cancer Survival Among the Working Population in Japan: 10-Year Survival Analysis Using the Kanagawa Cancer Registry
Cancer Med  (2025)
10.1093/joccuh/uiaf046
原著論文5
Shibata K, Souji T, Iwasawa T, et al
Hazard Warning Lights as a Nudge to Promote Workers’ Safety Awareness and Fall Hazard Avoidance: A Pilot Study
日本職業・災害医学会会誌  (2025)
原著論文6
Zaitsu M, Watanabe K, Nagayoshi M, et al
Educational disparities in mortality mediated by modifiable behavioral factors: Findings from the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study
Public Health  (2026)
10.1016/j.puhe.2026.106142
原著論文7
Watanabe K, Fujino Y, Tabuchi T, et al
Incidence and lifestyle risk factors for same-level falls among Japanese workers
J Occup Environ Med  (2026)
0.1097/JOM.0000000000003764

公開日・更新日

公開日
2026-10-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
202522002Z