Galloway-Mowat症候群(腎糸球体・脳異形成)診断基準作成のための実態調査

文献情報

文献番号
201024083A
報告書区分
総括
研究課題名
Galloway-Mowat症候群(腎糸球体・脳異形成)診断基準作成のための実態調査
課題番号
H22-難治・一般-027
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
塚口 裕康(関西医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 飯島 一誠(神戸大学大学院医学研究科こども発育学小児科学)
  • 仲里 仁史(熊本大学生命科学研究部小児科学)
  • 服部 元史(東京女子医科大学腎臓小児科学)
  • 伊藤秀一(国立成育医療研究センター腎臓リウマチ膠原病科)
  • 小崎里華(国立成育医療研究センター遺伝診療科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Galloway-Mowat症候群(以下、GM症候群と略す、OMIM 251300、腎糸球体・脳異形成)は、腎糸球体硬化症(ネフローゼ、腎不全)、小頭症(てんかん、精神運動発達遅滞)を2主徴とし、顔面・四肢奇形を合併する原因不明の難治性疾患である。
本症の疾患対策の最初のステップとして 診断基準作成のための患者実態把握を主目的とした。並行して次年度以降のさらなる診断・治療法開発に必要な疾患情報、研究資源の基盤整備を推進した。
研究方法
(1) 全国アンケート調査: ①ネフローゼ(or 蛋白尿> 0.5g/日)、② 精神運動発達遅滞、てんかん、の2大徴候を有する患者数を問う一次調査票に仮診断基準案を添付し、全国1560施設(1945名)に配布後、Faxで回答を回収した。(2) 診断基準策定のためのデータベース構築: 臨床所見(脳画像、腎病理、体表特徴)、治療経過、自然歴を集約整理した。(3) 疾患遺伝子の探索:マイクロアレイによるゲノム構造異常解析、連鎖解析マッピング、次世代シークエンサを用いた全エクソーム解析を行った。(4)疾患iPS細胞の作成:熊本大学発生医学研究所と共同で実施した。
結果と考察
1)全国アンケート調査: 最終集計(回収率67%)の結果、「症例あり」の回答は47名(4.4%)であった。(2)診断基準策定のための情報収集: 脳異形成は最重症型(滑脳症)から軽症型(皮質髄鞘低形成)例まで、幅広い変化を示した。また腎病理所見は巣状糸球体硬化(FSGS)が特徴とされていたが、内皮障害・メサンギウム増殖所見を示す例も観察された。(3)疾患遺伝子の探索:候補領域の定まった大家系(Nakazato, 2002)について、全エクソーム解析を行い、病因となる可能性のある塩基変異の情報を得た。(4) 疾患iPS細胞の作成:初期化因子の導入を行い細胞株を樹立中で、難病バンクへの供託予定である。
結論
一次調査で新たに判明した47症例の2次調査を行い、改訂診断基準を提案する。診断基準の改定のポイントは、① 従来の診断基準では診断が確定しない成人軽症例を包括する、②診断根拠となるMRI 画像、腎病理、形態所見(顔面、四肢)の具体的情報を盛り込む、の2点である。さらに分子異常を基軸にした診断基準や疾患亜型分類のために、疾患遺伝子の同定も進める。診断基準と疾患情報は論文、ホームページ等を通じて公開する。患者家族、支援スタッフ(医療、養育、福祉)、行政の3者間での情報共有化を進めることで、疾患克服に向けた施策の具体化と政策提言に繋げていく。

公開日・更新日

公開日
2011-12-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201024083C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本症はニューロンと糸球体上皮(ポドサイト)の2者に共通する形態・構築制御機構の異常が原因と推測されるが、まだ解明されていない。近年ゲノム解析技術の進歩は著しく、わずか数症例から、原因遺伝子が相次いで報告されている。本症でも疾患遺伝子解明の国際的競争の渦中にあり、当研究班ではマイクロアレイと次世代シークエンスを組み合わせた最新のゲノム解析法を導入した。その結果一家系では疾患遺伝子座が判明して、候補遺伝子数も10個程度に絞られており、疾患遺伝子探索は最終段階に入っている。
臨床的観点からの成果
本症は臨床症状が多彩で重症度にも個人差があり、また文献情報も少ないために病態が認知されず、医療、福祉支援が遅れがちであった。今回の全国調査により、実際の疾患スペクトラムの広がりを把握し、実地に役立つ診断基準案の策定を推進できた。並行して疾患遺伝子の解明を進めることで、分子機序に基づく新しい診断や治療法を開発し、臨床実用化への展開を図る基盤を整備できた。その成果はまれな本症患者にのみならず、有病率の高い一般のてんかんや進行性腎障害の診療向上にも役立ち、広く国民健康の増進に貢献する。
ガイドライン等の開発
当研究班による初の全国調査で、診療患者数は190人/5年と推定された。新たに判明した70症例の2次調査を行い、データベースを構築し、それを基に診断基準案を修整する予定である。診断基準の修整の要点は、① 重・軽症例を包括した、スペクトラムの広がりを加味したものとする、② 診断根拠となるMRI 画像、腎病理、形態所見(顔面、四肢)の具体的情報を盛り込む、の2点である。さらに今後遺伝検査情報を統合して、分子異常から見た診断基準や疾患亜型分類の再考も行う予定である。
その他行政的観点からの成果
本症初の全国調査で、患者支援を向上めざす施策立案に必要な疾患の実態(患者概数、自然歴、合併症等)を整理、集約できた。疾患支援策を具体化し政策提言する第一段階として、疾患統合データベースと診断基準原案を作成し、診療、療育・福祉スタッフ、行政の3者間での情報の共有化を進めた。特に疾患情報と社会資源、制度の情報を管理し、多施設および行政との連携の実働を担うコーディネータの育成と連携強化に重点をおいた。今後、成果を効率良く臨床へと橋渡しし、患者ニーズに即した医療福祉支援の充実化に活用していく。 
その他のインパクト
最近1-2年間のめざましいゲノム情報整備と解析技術の進歩によって、今全世界的に腎や脳の器官構築を制御する因子を解明する研究が活発化している。本症の病態解明は有病率が1%前後の国民的健康課題である、てんかん、および進行性腎障害の新しい診断治療シーズの創出を促し、社会的、経済的効果はきわめて大きい。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
第56回日本人類遺伝学会 口演(2011年11月) 第58日本透析医学会総会 口演(2013年6月) 第49回日本小児腎蔵学会 口演(2014年6月)
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
第27回九州小児ネフロロジー研究会 H25年7月20日 第22回長野県小児腎臓病研究会 H25年11月19日 ニューロンとポドサイトの共通点から探る小児腎糸球体硬化の病態

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
塚口裕康
Galloway-Mowat症候群(脳・腎糸球体異形成)
日本臨床別冊 腎臓症候群(上) , 411-419  (2012)
原著論文2
上田啓子、塚口裕康
ネフローゼ症候群:病因・病態と治療に関する最新の知見 遺伝子異常
『腎と透析』76巻6号(2014年6月号)801頁~810頁  , 76巻6号 (6月号) , 801-810  (2014)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201024083Z