本邦小児の新たな診断基準による小児慢性腎臓病(CKD)の実態把握のための調査研究

文献情報

文献番号
201024077A
報告書区分
総括
研究課題名
本邦小児の新たな診断基準による小児慢性腎臓病(CKD)の実態把握のための調査研究
課題番号
H22-難治・一般-021
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
石倉 健司(東京都立小児総合医療センター 腎臓内科)
研究分担者(所属機関)
  • 本田 雅敬(東京都立小児総合医療センター)
  • 上村 治(あいち小児保健医療総合センター内科部)
  • 大橋 靖雄(東京大学医学系研究科)
  • 服部 元史(東京女子医科大学医学部腎臓小児科)
  • 田中 亮二郎(兵庫県立こども病院腎臓内科)
  • 和田 尚弘(静岡県立こども病院腎臓内科)
  • 中西 浩一(和歌山県立医科大学小児科)
  • 伊藤 秀一(国立成育医療研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は,本邦小児の血清クレアチニン基準値に基づいた小児CKDの診断基準を作成し,またこれを用いて全国の疫学調査を行う.これにより成人とは異なった病因,合併症を持つ小児CKDの本邦における実態を解明することを目的とする.
研究方法
 小児CKD対策委員会(委員長 上村治)により,本邦小児(生後3ヶ月から15歳まで)の年齢,性ごとの血清クレアチニン値の基準値が作成されている.本研究では,この基準値をもとに本邦小児CKDステージ診断基準を作成した.
 さらに本診断基準を用い,保存期小児CKDステージ3-5の患者(生後3ヶ月から15歳まで,透析,移植患者を除く)に関し全国の疫学調査を行った.対象は全国の大学病院,小児病院および病床数が200床以上で小児科を標榜している全ての病院と,小児腎臓病学会会員が所属するその他の施設で計1190施設であった.
結果と考察
 一次調査に対して925施設(有効回答率77.7%)から回答があり,156施設でCKDステージ3-5の小児患者を継続して診察していることが判明した.さらにこれらの施設に対して二次調査を行い,全国112施設に440人の対象患者を確認した(男児265人,女児174人,性別不明1人,年齢中央値8.66歳,ステージ3: 311人,4: 103人,5: 26人).またこの結果から, 2010年4月1日時点の全国の小児CKD患者は528.5人(95%CI:486.1-570.9)と推計した.これは本邦小児人口10万人当たり2.90人の有病率である.また原疾患として90.7%が非糸球体性疾患であり,これらのうち68.4%が低形成・異形成腎を中心とした先天性腎尿路異常であった.
 これらの疫学調査の結果から,本邦における小児保存期CKDの管理は先天性腎尿路異常を中心に考えるべきであることが明白になった.これらの疾患は塩類喪失,多尿型の腎機能障害であり,慢性腎炎とは水,電解質の管理が大きく異なる.また緩徐に進行する反面,多くが生下時から発症し,罹病期間が非常に長いという特徴がある.また泌尿器科的な合併症の割合が高く,幼少時から入退院を繰り返すこともまれではない.これらは成長発達や母子関係に大きな影響を与えるため,このことを意識した総合的な管理が必要である.
結論
 本邦小児保存期CKDの基礎疾患の大多数が非糸球体性疾患であり,そのなかでも先天性腎尿路異常が約7割を占める.今後小児保存期CKDの管理の向上を目指し,主に先天性腎尿路異常を対象とした,罹患率,長期予後および腎不全進行の危険因子の解明や,腎保護作用を目的とした治療エビデンスの確立が求められる.

公開日・更新日

公開日
2011-12-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201024077C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本邦小児CKD患者(ステージ3-5,生後3ヶ月から15歳)の全国疫学調査を行った.全国の患者数は2010年4月1日時点で528.5人(95%CI: 486.1-570.9)と推計され,有病率は10万人あたり2.90人であった.原疾患として90.7%が非糸球体性疾患で,その68.4%が低形成・異形成腎を中心とした先天性腎尿路異常であった.以上から本邦小児CKDの有病率とその特徴的な疾患構成を明らかにすることが出来,今後の小児CKD管理の基礎データとなることが期待される.
臨床的観点からの成果
今回の研究では回収率が77.7%と極めて良好であり,本邦における患者の正確な把握,罹患率の推定が行えた.今後さらに今回の疫学研究で協力が得られた施設を中心に,患者登録制度を創設する.これにより小児CKDの長期予後および,予後予測因子等の解明に結びつくことが期待される.おおくの施設で,エビデンスが無いままACEi,ARBが使用されていることが明らかになり,エビデンスの確立が急務であることが示された.今後小児CKD患者を対象とした,ランダム化比較試験を行う予定である.
ガイドライン等の開発
本邦小児のCKDステージ診断基準を作成した.本診断基準は従来の推定GFRに基づくものに比べ,簡便であり,また本邦小児のデータに基づいており,有用性が高い(現在一般に用いられている小児のGFR推算式は,欧米のデータに基づいている).今後小児腎臓病学会,および同CKD対策委員会とも連携の上普及活動を行い,診療現場でも標準的なものになることが期待される.
その他行政的観点からの成果
小児CKDは全小児期から成人へと長期間にわたって罹患し,末期腎不全へと進行する難治性の慢性疾患である.末期腎不全に進行した場合は,成人と異なり長期間にわたる透析や,複数回の腎移植の施行が必要であり,医療経済的な負担も極めて大きい.本研究により,小児特有の病態が明らかになったことから,今後これらを対象とした管理が進歩し,末期腎不全への進行の抑制等に結びつくことが期待される.
その他のインパクト
今回の研究では,全国1190施設に対して小児CKD対策の重要性を周知し,小児CKDステージ診断基準を送付した.このことは本邦小児科医へのCKD管理の啓蒙に貢献していると考えられる.さらに小児腎臓病学会の小児CKD対策委員会および小児CKD各都道府県代表者会議において,本研究結果を発表し,学会を通じた更なる小児CKDの啓蒙活動を継続,発展していく予定である.

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
2件
小児内科 43巻9号 (2011年9月号) CKD,小児内科 43巻 (2011年) 増刊号 CKD stageについて説明してください
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
2件
第11回アジア小児腎臓病学会学術集会 ,アメリカ腎臓学会(ASN)学術集会
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
小児CKD対策委員会,小児CKD都道府県代表者会議

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishikura K, Uemura O, Ito S,et al
Pre-dialysis chronic kidney disease in children : results of a nationwide survey in Japan
Nephrology Dialysis Transplantation , 28 (9) , 2345-2355  (2013)
原著論文2
Ishikura K, Uemura O, Hamasaki Y,et al
Progression to end-stage kidney disease in Japanese children with chronic kidney disease: results of a nationwide prospective cohort study
Nephrology Dialysis Transplantation , 29 (4) , 878-884  (2014)
原著論文3
Hamasaki Y, Ishikura K, Uemura O,et al
Growth impairment in children with pre-dialysis chronic kidney disease in Japan
Clinical and Experimental Nephrology , 26  (2015)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2017-06-12

収支報告書

文献番号
201024077Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
15,000,000円
(2)補助金確定額
15,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 0円
人件費・謝金 0円
旅費 0円
その他 0円
間接経費 0円
合計 0円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
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