新興再興感染症のサーベイランス及び感染症情報システムの導入に関する調査

文献情報

文献番号
199700802A
報告書区分
総括
研究課題名
新興再興感染症のサーベイランス及び感染症情報システムの導入に関する調査
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
宮崎 久義(国立熊本病院院長)
研究分担者(所属機関)
  • 鶴田憲一(成田空港検疫所)
  • 遠田耕平(秋田大学医学部)
  • 松村克己(国立熊本病院)
  • 吉倉廣(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、WHO、米国CDC、米国科学者協会等の既存の国際的な感染症サーベイランスシステムを補完する我が国の独自のグローバルサーベイランスシステムの構築及びその運営方法を研究する。
研究方法
国外のサーベイランス情報の定点として、過去に(財)国際保健医療交流センターがJICAの研修事業を通じて受け入れた感染症関係の専門家を活用することでサーベイランスネットワークが稼働するかを検討した。地理疫学的に重要なベトナム、バングラデシュにおけるサーベイランスを強化するため、それらの国の代表的な感染症関係の研究所との協力関係を樹立し、感染症情報の交流の進め方について検討した。国内への感染症侵入の監視という観点から、我が国の検疫施設及び検疫行政の在り方について、現状の分析と将来像について検討を行なった。また、実際の我が国への輸入菌の状況を把握するとともに、それらの菌に関して薬剤耐性の試験を行なった。更に、サーベイランスの情報源として、商業通信社のデータベースの活用の適否について検討した。
結果と考察
1994年以降の(財)国際保健医療交流センターの研修参加者のうち約240名が感染症関係の事業に従事しているが、その中でその国の保健施設のMiddle Level 以上の地位にある人、FAX番号または電子メールのアドレスが判明している人という基準に従って定点候補者を選んだ。定点となる施設は、Category 1(保健施設のうち感染症対策関連部門、病院、研究室など)、 Category 2(研究実験室)、 Category 3(ウイルス性出血熱等の特殊疾病の地方病流行のおそれのある地域に存在する上記の施設)、Category 4(血液銀行施設)の4つに大別した。通信技法については、アフリカなどが現段階ではインターネットのインフラが不十分であるため、当分はFAX又はポーリング式ファクスで暫定的にシステムの立ち上げを行うことにした。しかし、基本的には、電子メールを活用する方が経費的に便利であり、情報の処理加工においても効率的であることから、漸次インターネットによる通信に移行することにしている。将来はインターネット上に研究班のホームページを設置し、システムの効率性を高めたい。実際に通信を試みた結果、FAX番号の変更などにより交信不能だったものが20%程度あり、日本からの訪問者や関連施設を使っての確認作業に相当な時間を費やしたが、1998年2月末時点で44名の候補者がシステムへの参加を希望した。第一回通信で協力同意の回答のあった定点の反応は、予想外に積極的な意思表明をしたものが多く、パーソナルコンタクトを基本とする本システムの可能性について十分な手応えを感じた。インドネシア及び中国は、基本的には国レベルで協力する方針を持っており、現在この研究班と何らかの公式な合意を作ることを検討しているので、試験的通信で機能を確認した上で、正式の協定を結ぶことを検討することにした。今後、未通信の候補者との通信を試み続けることで、来年度中期には70~80の定点を確保できると思われる。
ベトナムでのサーベイランスネットワークについては、サーベイランスの拠点施設として重要な役割を果たすと思われるハノイのNIHE(National Institute of Hygiene Epidemiology)と協力関係を結んだ。ベトナムとの通信方法としては、同国の通信インフラを検討した結果、現時点ではFAXが最も確実性が高いことが分かった。
バングラデシュにおいては、IEDCR(Institute of Epidemiology, Disease Control and Research)に各地の病院情報が集まるため、サーベイランスの拠点施設として適当であることが分かった。本年度は同機関との基本的な協力関係を結び、来年度から具体的な共同作業を開始することにした。
輸入感染症のサーベイランスという観点から、検疫行政の現状と課題について考察した結果、医師と衛生技官が減少している中で、エボラ出血熱等の人畜共通感染症の輸入の危険性は増しており、今後、動物・ベクターの検査をどうするかが大きな課題であることが分かった。これに対応するには、血液を検査できる職員の養成など人材の質の向上や検疫所外の研究機関との共同研究などを積極的に進める必要がある。
我が国への実際の輸入菌の状況を知るため、成田空港検疫所が保管する菌について14種類の抗菌剤を使って薬剤耐性検査を行った。その結果、Shigella sonneiがホスホマイシンに対し軽度耐性を示す以外は感受性は良好であった。
我が国を含め多くの国では、行政判断にメディアの及ぼす影響は非常に大きい。また、メディアの情報は、“Alert"情報としても有益と考えられる。商業通信社からの情報収集について、ロイター社、共同通信社等のサービス内容を検討し、世界中の主な新聞、雑誌等約4千誌をカバーしているロイター社のデータベースから情報収集を行った。例としてトリインフルエンザの報道を見ると、報道には2つのピークがあり、最初に一時的な感染症発生そのものの報道があり、その後時間を置いて、感染症発生に対する社会反応としての報道があった。そして、これが第一の報道のピークを上回る規模になり、行政が本格的に反応する。このように感染症対策が実施される上でメディアは重要な役割を果たすことが分かった。
結論
我が国の国際社会に占める地位及びその高度な科学技術レベルを考えると、我が国は新興再興感染症の地球規模のサーベイランスに関して、WHOやCDCの情報に頼るだけではなく、積極的に独自のサーベイランス網の発展に努力し、むしろWHOやCDCとの共同事業を行い、地球的規模のサーベイランスに貢献するべきである。(財)国際保健医療交流センターがこれまで受け入れた500人以上の研修員や彼等の所属施設はグローバル・サーベイランスの定点として有効な資源となり得ることが分かった。今後、更にネットワーク化を進めて、50~100の定点ができれば一応の目的が達せられるものと考えられる。本年度、約40の情報定点を確保できたことは、今後のシステム構築に向けた大きな成果だと言えよう。
アジアにおけるサーベイランスについては、地理的に我が国に近いこともあり非常に重要である。ベトナムやバングラデシュの感染症動向については、今回の調査の中で有力な情報拠点を開拓できたことから、今後、更に関係を強化すればシステムへの貢献度も高まると思われる。
サーベイランス対象の疾患は、暫定的に限定しているが、必要に応じて改変していく必要がある。薬剤耐性菌の状況は今後とも重点的に調査を行いこのシステムの質的向上に役立てたい。
サーベイランスが感染症予防の基本であることを考えると、今回の伝染病予防法の改正を念頭に置いた検疫行政の在り方もこの研究の調査項目として引き続き検討を行う必要がある。
商業通信社の情報の活用についても感染症対策を多角的な視点で検討する上で有用であることが分かったが、今後はサーベイランスシステムに如何にリンクさせるかなども検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)