地方衛生研究所における感染症サーベイランス情報の解析に関する研究

文献情報

文献番号
199700801A
報告書区分
総括
研究課題名
地方衛生研究所における感染症サーベイランス情報の解析に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
片桐 進(山形県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 鳥羽和憲(横浜市衛生研究所)
  • 水口康雄(千葉県衛生研究所)
  • 木村浩男(北海道立衛生研究所)
  • 益川邦彦(神奈川県衛生研究所)
  • 北村敬(富山県衛生研究所)
  • 赤尾満(大阪市立環境科学研究所)
  • 森忠繁(岡山県環境保健センター)
  • 中村のぶ久(熊本県保健環境科学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
12,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平常時の弛まざる感染症サーベイランス活動があって、感染症流行という緊急時対応が円滑に、適切に推進される、感染症サーベイランス活動は、感染症危機管理の基本である。新興・再興感染症の台頭が住民に多大の脅威を与えている現状において、現行の感染症サーベイランス事業の充実・強化は緊急を要する重要な課題である。
本研究では、各地域における感染症情報(患者発生情報及ぴ病原体検出情報)活動への各地方衛生研究所の参画状況及ぴ情報の収集・解析・解析情報の提供に関する方法の実態を調査・検討し、現在抱えている問題を抽出するとともに、地域の感染症対策の中核機関としての地方衛生研究所の在り方、ひいては地方衛生研究所全国協議会という全国組織と国立試験研究機関との連携による感染症情報全国ネットワーク活動のあり方、特に、わかりやすい解析情報提供の方法論等について検討することを目的とする。
研究方法
平成9年初春、地方衛生研究所全国協議会伝染病対策特別部会で実施した「伝染病予防法改正に関するアンケート調査(結果の一部を平成9年7月に報告)」のデータをさらに解析し、今後の感染症サーベイランス事業推進上の課題とその解決策を探った(烏羽分担研究者が担当)。また、病原体の異同に関する迅速診断法の一つである遺伝子学的手法の地方衛生研究所における導入の現状について全国的に調査を行った。加えて、実際の事例の遺伝子学的手法を用いた解析例を行い、感染症サーベイランス情報活動へのこの手法応用の有用性を検討した(水口分担研究者が担当)。
一方、各地方衛生研究所の各地域における感染症サーベイランス活動への参画状況調査とその活動に積極的に参画、そして、方法論について研究を行っている地方衛生研究所の活動事例について調査した(地方衛生研究所全国協議会6支部代表の木村、益川、北村、赤尾、森、中村の各分担研究者が担当)。
なお、「感染症サーベイランスにおける患者発生情報と病原体検出情報の一元化に関する研究」を続けている秋田県衛生科学研究所宮島嘉道所長にその活動状況の報告を依頼した。
結果と考察
1現行の結核・感染症サーベイランス事業への地方衛生研究所の参画状況
本事業に、中核的立場で参画している地方衛生研究所は少なく、特に情報の収集・入力、国への情報提供・還元にかかわっている地方衛生研究所は非常に少ない(14%)。また、情報の管理、解析に関与している地方衛生研究所も予想に反して多くなかった(3.2%)。
これは、現行の事業において地方衛生研究所がこれらの業務を行う機関として位置づけられていないことによる。
これに対して、病原体検出情報に関しては、その解析及ぴ解析評価委員会への惰報提供などについて多くの地方衛生研究所がその役割を担っていた。これは、この事業において病原体検査が地方衛生研究所の業務として位置づけられているためである。
また、この事業の特色ともいうべき患者発生情報と病原体検出情報を一元的に捉えた総合的解析に携わっている地方衛生研究所は3割程度であり、それらの大部分の地方衛生研究所は、事業の中核的役割を担っており、各研究所においては、解析の対象疾病はまだ限られてはいるものの、感染症流行の中期的・長期的予測をいかに客観的に、迅速に解析・表現するか、あるいは、情報提供においては、提供する対象により、解説記事を付したり、図などに加工して、視覚的に、わかりやすい情報に表現しようという独自の努力がなされていた。
現行の感染症サーベイランス事業は、本事業の基本ともいうべき患者発生情報と病原体検出情報の総合的解析、一元的捉え方が為されないままに20年弱を経過し、単なる数字の羅列のようなデータを情性的に集計しているという感がしないでもない。
その原因は、患者発生情報及び病原体検出情報の担い手を分離していることによることは明らかであり、このまま現体制が続く限り本事業の発展は望めないと推察した。
また、事業が停滞するもう一つの要因として本事業の中核に感染症疫学の研究者がいないことが強く指摘され、その改善の必要性が望まれている。改善の一つの考え方として、これまで長い聞、感染症に関する調査研究を継続実施してきたという歴史を持つ地方衛生研究所を本事業の地方における中核(事務局)として位置付けることにより、より適切な、より実践的な情報解析が可能になると確信した。
2 地方衛生研究所における病原体の遺伝子学的解析の実施状況詞査とこの手法の応用による感染症集団発生事例の病原体解析
遺伝子学的手法による病原体の解析は、全国73地方衛生研究所すべてにおいて用いられていた。
対象微生物は機関によりいろいろであるが、細菌では、腸管出血性大腸菌群をはじめとする大腸菌群が最も多く、コレラ菌、腸炎ビブリオ、赤痢菌、ウエルシュ菌、ボツリヌス菌、レジオネラ、結核菌などであった。一方、ウイルスにおいては、SRSVが最も多く、75%の機関で行われていた。そのほか、インフルエンザウイルス、HIV、エンテロウイルス、ロタウイルスなどであった。
遺伝子学的手法としては、PCR法をはじめ、核酸プローブを用いる方法、in situ-ハイブリダイゼーション法などいろいろな方法を駆使していることがわかった。
千葉県で発生した赤痢及び腸管出血性大腸炎の集団発生事例から分離された病原菌を解析して、従来行って来た病原菌の異同診断法(コリシン型別、薬剤耐性パターンなど)のみでは結果の解釈に混乱を来す可能性があること、それを解消する一つの方策として分子疫学的手法が非常に有用であることを改めて確認した。
しかし、赤痢の場合も、腸管出血性大腸炎の場合も、今回の調査おいては、感染源の特定には至らなかった。
各地方衛生研究所においては、分子疫学的手法の実践的応用について調査・研究を進めていることが明らかになった。この機運を、今後の感染症サーベイランス活動に有効に取り入れるぺきと考える。
3 各地域において積極的に現行の結核・感染症サーベイランス事業に参画している地方衛生研究所の本事業への係わり方と情報の解析・発信に関する方法論の研究
北海道、秋田県、山形県、宮城県、大阪府、大阪市、兵庫県等の各地方衛生研究所の活動状況、特に解析とその情報提供の方法及び患者発生情報と病原体検出情報の一元的解析の方法等について報告してもらった。
それらの詳細は、別にまとめる本研究の報告書に掲載することとするが、各地方衛生研究所における情報解析・加工と提供の方法をみると、各研究所独自の工夫がなされ、さらに研究が続けられていることがわかった。すなわち、情報活動は、単に、決められた方法に基づいて情報の収集・集計・解析・提供を実施するのみにとどまらず、更なる有用性を評価・検討するなどの研究を推進することが重要であり、この研究活動なくして本事集の発展はあり得ない。感染症サーベイランス事業の実施機関は、調査・研究機能を有する機関が担当すべきという結果が得られた。
結論
1) 結核・感染症サーベイランス事業への地方衛生研究所の関与について病原体検出情報のみならず、患者発生情報についても地方衛生研究所を地域における情報の収集・解析・提供の中核的機関(地方感染症情報センター)として位置付け、情報の一元的管理や総合的解析を担当させるべきである。
(1) 地域の解析評価委員会に地方衛生研究所を事務局として参加させ、情報の集計・解析資料を委員会に提出する業務を担当させることにより、質の高い解析評価委員会の活動が約束される。
(2) 関係機関への情報提供業務を地方衛生研究所に担当させ、インターネット、ファックス等の最新の媒体を用いた迅速な情報提供を行わせることが望ましい。
(3) 本事業における検査の精度管理の重要性を考慮し、地方衛生研究所の検査精度管理を国の事業として発展させるべきである。
2) 新興・再興感染症の流行などを含む感染症対策における地方衛生研究所の役割
地方衛生研究所を地域における包括的な感染症対策の中核に据えて、その強化を図るとともに、地方衛生研究所全国協議会という全国組織ネットワークと国立感染症研究所等の国立試験研究機関との緊密な連携体制を整備することが重要である。これは、地方衛生研究所の専門性を有効に活用する最良の方策と考える。
以上の事項は、我が國における今後の感染症対策を具体的に進める段階で、十分に検討されるべき重要課題である。
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