流行域が拡大しつつあるエキノコックス症の監視・防遏に関する研究

文献情報

文献番号
199700797A
報告書区分
総括
研究課題名
流行域が拡大しつつあるエキノコックス症の監視・防遏に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
金澤 保(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤亮(岐阜大学医学部)
  • 小山田隆(北里大学獣医畜産学部)
  • 神谷晴夫(弘前大学医学部)
  • 神谷正男(北海道大学大学院獣医学研究科)
  • 木村浩男(北海道立衛生研究所)
  • 土井陸雄(横浜市立大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
多包性エキノコックス症は世界的に流行域が拡大しつつある。わが国も決して例外ではなく短期間のうちに北海道のほぼ全域が流行地となったことは周知のことであり、今では本州への伝播が懸念されるまでに至った。本研究は本症の予防対策に資することを主たる目的とし以下の三点に重点をおくものである。1)疫学的研究:1.主に本症の重要な媒介動物であるキタキツネの生態、感染状況調査を行なう。2.本州に既に多包性エキノコックスが侵入しているか否かの調査および監視体制を構築する。3.ブタの血清疫学調査法の基礎的検討を行なう。2)感染源対策的研究:1.本寄生虫の終宿主となりうる動物としてネコを用いた感染実験を行なう。2.キツネ、イヌ等の終宿主に対する予防法としてワクチン開発を視野に入れた基礎的研究を行なう。3.終宿主の感染を判定する簡便な検査法の開発を行なう。3)本症の診断・治療に関する研究:1.本症の病態を解析するモデル動物の検討を行なう。2.特異的血清診断法の開発を行なう。3.本症に有効な薬剤開発を目指した基礎的研究を行なう。
研究方法
1)疫学的研究:1.本年度は春から秋にかけてのキタキツネの感染状況の調査、都市部、農村部のキタキツネの感染状況に関して調査検討を行なった。前者では北海道根室市で捕獲した 36 頭のキタキツネを検査対象とし、解剖によって感染率、感染虫体数を明らかにした。後者では都市部として札幌市、農村部として小清水を調査地とし、それぞれの地域でキタキツネの巣穴周辺において糞便を採取し感染の有無を検便法、さらにはサンドイッチELISA 法を用いた糞便内虫卵抗原検出法によって判定した。2.本州においては青森県内と関東地方において終宿主および中間宿主となりうる動物を収集し解剖検査によって本寄生虫の存否を調べた。青森県においてはさらに屠場においてブタ、ウシの肝臓について本寄生虫の感染の有無を調査した。3.ブタ血清疫学調査を行なうにあたり基礎的な検査法についてELISA 法で検討した。2)感染源対策的研究:1.ネコに原頭節15万隻感染させ感染後37日、47日目に解剖検査を行なった。2.マウスに原頭節を感染させ、イヌ血清と共通した免疫応答を解析検討した。3.疫学調査において糞便内虫卵抗原検出法を実際に応用し有効性を検討した。3)本症の診断・治療に関する研究:1. F 344ラット、ブタ、モルモットを用いて検討した。F 344 ラットにおいてはウエスタンブロット法で抗体産生パタ-ンを解析した。ブタ、モルモットの腸管脈静脈から本寄生虫を感染させ感染抵抗性について検討した。2.Em18を用いたウエスタンブロット法を世界各国から収集した本症ならびに近縁寄生虫疾患の患者血清について感度、特異性について検討を加えた。3.中国伝統薬物のなかから本寄生虫のgerminal cell に障害性のある薬物をMTT を応用した方法を用いて検討した。
結果と考察
1)1.春から秋にかけてもキタキツネに本寄生虫の感染はみられ、特に幼獣においては多数の虫体が寄生がしていた。その年に生れた幼獣であっても 6月には既に感染が確認された。従来得られているキタキツネの感染デ-タは冬季に捕獲されたキツネについての情報であった。今回の研究調査によって春から秋までの感染状況の一端が明らかにされた。札幌市内のキツネにおいても 15%の感染が認められ農村部に比較すれば低いものの都市住民にも感染の危険が恒常的に存在することが示唆された。2.青森県内において終宿主となりうるキツネ等の野生動物を合計 93 頭、中間宿主
となりうるネズミ等の野生動物を556 頭を解剖調査したが感染を認めた個体はなかった。また青森県内の屠場においてウシ280 、ブタ6500頭の主に肝臓を検索したが感染個体を認めなかった。関東地方においてはキツネ 20 頭を解剖調査したが感染個体を認めなかった。以上から今年度の調査では青森県および関東地方に本寄生虫が侵入していることは確認されなかった。さらに調査個体数を増やさねばならないことは当然であるが。それに加え恒常的な監視体制を構築することも将来的に必要なことであるため効率のよい方法について検討をしていく必要がある。2)感染源対策的研究:1.ネコにおいて成虫の感染が成立するのはきわめて少数であるため、イヌに比べ終宿主としての役割は低いものと考えられた。しかし虫卵を形成するまでに発育した寄生虫を認めたことから全く安全であるとはいえない。ペット動物として人間と密接な関係にあるネコの終宿主としての役割についてはさらなる検討が必要である。2.マウスにおいてイヌと同様の免疫応答があることを確認した。これらの免疫応答が成虫寄生の感受性あるいは抵抗性を説明できるか否かさらなる検討が必要である。3)本症の診断・治療に関する研究:1.人間の病態に近い動物モデルを得ることは診断・治療の研究を進めるにあたり必要なことである。感染の進展にともなう抗体産生、治療後の抗体産生の変化を解析するのには F 344ラットが人間の場合に類似していることが判明し、この方面の研究に応用できる可能性が示唆された。2.Em18 enriched fractionを用いることで本症の特異的血清診断が可能であることが明らかにされた。3.二種の薬剤(黄符、竹茹)に germinal cell障害作用があることが推定され今後の研究の展開が期待される。
結論
1.キタキツネには年間を通して感染がみられること、都市部のキツネにおいても感染が認められること等から感染源としてのキタキツネの重要性を今以上に認識する必要がある。2.青森県と関東において野生動物のエキノコックス流行調査を行なったが現時点では幸いにして感染動物を認めなかった。3.ネコの終宿主としての役割はイヌに比べ低いと思われるがさらなる検討が必要である。4.本症の病態を解析するためにいくつかの動物モデルが検討された。5.Em18 enriched fractionを用いることにより本症の特異的血清診断が可能である。6.黄符、竹茹に in vitro の系においてgerminal cell 障害作用が観察された。

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