抗リウマチ薬の時間薬物療法の確立

文献情報

文献番号
201023045A
報告書区分
総括
研究課題名
抗リウマチ薬の時間薬物療法の確立
課題番号
H20-免疫・若手-027
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
藤 秀人(富山大学大学院医学薬学研究部(薬学))
研究分担者(所属機関)
  • 井田 弘明(久留米大学医学部内科学講座呼吸器・神経・膠原病内科部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
8,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、早朝に現れる四肢の関節のこわばり等の関節リウマチ (RA) 患者特有の生体リズムに着目し、RA患者及びRAモデル動物を対象に、抗RA薬の効果・副作用に及ぼす投薬時刻の影響について研究した。
研究方法
RA患者を対象とした臨床研究では、各被験者が投薬されていたメトトレキサート (MTX) の投薬スケジュールを基盤に、投与量および投薬回数を変更せずに、MTXを1日1回寝る前に投薬する投薬スケジュールで3ヶ月間効果を評価した。RAモデル動物を対象とした基礎実験では、タクロリムス (FK506) 及びミゾリビン (Miz) の投薬時刻の違いによる抗RA効果及び副作用について検討した。
結果と考察
RAの治療効果の指標であるDAS28は、時間治療開始前と比較し時間治療開始後3ヶ月で有意に減少し、23.5%の被験者が臨床的寛解に到達した。さらに、3ヶ月間の試験終了後、再同意を得た被験者に対し、時間治療を継続した結果、約6ヶ月目において25%の被験者で臨床的寛解が維持されていた。コラーゲン誘導関節炎 (CIA) マウスを対象に、FK506 (4mg/kg) を9:00もしくは21:00に連日腹腔内投与した結果、関節炎スコアの中央値はcontrol群で17、9:00投薬群で4.5、21:00投薬群で11.5であり、9:00投薬群の関節炎スコアは、control群及び21:00投薬群と比較し有意に低値を示した。CIAラットにコラーゲン感作後翌日よりMiz (10 mg/kg) を5:00もしくは17:00に連日28日間投薬し、抗RA効果の指標として関節炎スコア等を評価した。その結果、Miz投薬群は、contorol群と比較し有意に関節炎スコアを低下させた。また、5:00投薬群は、17:00投薬群と比較して有意な関節炎スコア抑制効果を示した。
結論
現在、無作為化二重盲検比較試験を実施しており、この試験の結果を待たなければならないが、投与量や投薬回数を変更することなく、投薬時刻のみの変更で安全性を維持しつつ治療効果の向上が得られるMTXの時間治療は、RAの薬物療法にとって有用な治療法の一つになると考えられる。また、MTXのみならずFK506やMizにおいても時間薬物療法を適応することで、より高い治療効果が得られるのではないかと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2011-09-30
更新日
-

文献情報

文献番号
201023045B
報告書区分
総合
研究課題名
抗リウマチ薬の時間薬物療法の確立
課題番号
H20-免疫・若手-027
研究年度
平成22(2010)年度
研究代表者(所属機関)
藤 秀人(富山大学大学院医学薬学研究部(薬学))
研究分担者(所属機関)
  • 井田 弘明(医学部医学科内科学講座呼吸器・神経・膠原病内科部門)
  • 家入 一郎(九州大学大学院薬学研究院)
  • 小柳 悟(九州大学大学院薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
早朝に現れる四肢の関節痛である朝のこわばりは、関節リウマチ患者 (RA) に発現するよく知られた日周リズムである。近年、グルココルチコイドの徐放性製剤が開発され、投薬時刻を考慮することでRA患者の朝のこわばりを顕著に抑制できることが報告された。しかし、世界的に最も汎用されているメトトレキサート(MTX)などの疾患修飾性抗リウマチ薬 (DMRAD)を対象に、時間薬物療法は検討されていない。そこで、本研究では、RAモデル動物及びRA患者を対象にDMARDsの時間薬物療法の有用性を評価した。さらに、RAにおける炎症ならびに炎症性サイトカインの日周リズム形成機構の解明を行った。
研究方法
RAモデル動物を対象とした実験では、MTX及びタクロリムス(TAC)、ミゾリビン(Miz)を用いて各薬物の投薬時刻の違いによる抗リウマチ効果への影響を評価した。このエビデンスをもとに、RA患者を対象にMTXの時間薬物療法を実施した。本研究における時間薬物療法では、投薬タイミングを寝る前に設定した。周期解析では、RAモデル動物を対象にRA発症前・後に9:00, 13:00, 17:00, 21:00, 1:00, 5:00の6時点で採血を行い、血清中SAAやIgG-RF、コルチコステロン、炎症性サイトカイン(IL-6, IL-1beta, TNF-alphaなど)濃度を測定した。
結果と考察
基礎実験において、いずれの薬物においても、投薬時刻を考慮することで有意に抗リウマチ効果が向上できることを明らかにした。さらに、興味深いことに、いずれの薬物においても炎症反応や炎症性サイトカインが増加し始める時間帯に投薬することで、より効果が向上できた。臨床試験では、時間薬物療法前と比較し、投薬開始わずか1ヶ月目より有意にDAS28が低下した。3ヶ月間の試験において、約24%の被験者が臨床的寛解に到達した。また、RAモデル動物を用いた実験において、RA発症後に炎症反応や炎症性サイトカインの日周リズムが形成されることを明らかにした。炎症性サイトカインのTNF-alphaの発現抑制因子であるLT-alpha, LT-betaが、RA発症後に、TNF-alphaとは逆位相の日周リズムを形成することを明らかにした。
結論
本研究では、抗リウマチ薬の時間薬物療法の有用性を基礎及び臨床研究によって明らかにした。さらに、RAで認められる日周リズム形成に関わる制御因子を同定した。

公開日・更新日

公開日
2011-09-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201023045C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、メトトレキサートの投薬時刻を考慮して投薬時刻を設定することで、より効果的な治療効果が得られることを、基礎研究および臨床研究双方で、世界に先駆け明らかにした。さらに、他の抗リウマチ薬においても時間薬物療法の導入によって、より高い治療効果を得られる可能性を明らかにした。また、RA発症時の炎症反応等の日周リズム形成制御因子の同定に成功した。今後、詳細な機構解明を行うことで、RA病態の日周リズム発現機序の解明ならびにこれらをターゲットとした新たなRA治療薬の創薬に繋げられると期待される。
臨床的観点からの成果
臨床研究では、MTXの時間治療の有効性を評価するためのsingle-arm studyを実施し、3ヶ月間の治療成績を得た。また、長期投薬試験へと移行し、長期投与データの蓄積を行っている。さらに、現在では、無作為化比較試験を実施しており、近い将来MTXによるRA療法に新たな治療方法が提案できると期待される。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
MTXは、世界的に最も汎用されている薬物であり、比較的安価で多くの臨床医が使用経験を有する薬剤である。本治療法の特徴は、MTXの使用が必要となるRA患者すべてで投与することができ、同量の投与量であっても既存の治療法より効果が高く、単純な投与法の変更のため診療施設に速やかに波及でき、比較的安価な薬を使用するため生物学的製剤の使用によって高騰し続けるRA治療全体の医療費を削減することに大いに寄与できるものと考えられる。
その他のインパクト
1.メディカルトリビューン(2009年2月12日)、2.日経ドラッグインフォメーション(2009年9月10日)、3.メディカルトリビューン(2011年2月17日)、4.臨床薬理研究振興財団 研究大賞、5.医療薬学フォーラム2010 優秀ポスター賞、6.薬事新報(2010年1月1日)、7.NHK クローズアップ現代(2012年4月23日)、8.NHK あさイチ(2012年5月9日)、9. 日本時間生物学会 奨励賞(2013年11月)

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
1件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
関節リウマチ薬
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2010-056428
発明者名: 中村秀人
権利者名: 中村秀人
出願年月日: 20100312
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
To H., Irie S., Tomonari M. et al.
Therapeutic index of methotrexate depends on circadian cycling of tumor necrosis factor-alpha in collagen-induced arthritis rats and mice.
J. Pharm. Pharmacol. , 62 , 1333-1338  (2009)
原著論文2
To H., Yoshimatsu H., Tomonari M. et al.
Methotrexate chronotherapy is effective against rheumatoid arthritis.
Chronobiol. Int. , 28 , 267-274  (2011)
原著論文3
Obayashi K., Tomonari M., Yoshimatsu H., Fukuyama R., Ieiri I., Higuchi S., To H.
Dosing time-dependency of the arthritis-inhibiting effect of tacrolimus in mice
J. Pharmacol. Sci. , 116 , 264-273  (2011)
原著論文4
Kanasaki Y., Tomonari M., Sasaki H., To H.
Chronopharmacology of mizoribine in collagen-induced arthritis rats.
J. Pharmacol. Sci. , 120 , 112-120  (2012)
原著論文5
Yoshimatsu H., Okazaki F., Ieiri I., To H.
Mechanism of the 24-hour rhythm of tumor necrosis factor-alpha formed by onset of rheumatoid arthritis
Chronobiol. Int. , 31 , 564-571  (2014)

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
2015-06-30

収支報告書

文献番号
201023045Z