霊長類を介する人獣共通感染症の制御に関する研究

文献情報

文献番号
199700795A
報告書区分
総括
研究課題名
霊長類を介する人獣共通感染症の制御に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山田 章雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 鶴田憲一(成田空港検疫所)
  • 吉川泰弘(東京大学)
  • 神山恒夫(国立感染症研究所)
  • 向井鐐三郎(国立感染症研究所)
  • 森川茂(国立感染症研究所)
  • 藤本浩二(予防衛生協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
実験用霊長類にはヒトに感染する病原体に汚染されている個体のある可能性がある。特にBウイルスやエボラウイルスなどはヒトに感染した場合重篤となり高い死亡率を示すことが知られている。これらのウイルスによるヒトへの感染事故を未然に防止するためには、感染個体を確実に検出することが重要である。本年度はBウイルスならびにエボラ、マールブルグなどのフィロウイルスを血清学的あるいは分子生物学的に検出するシステムの開発に向けた、基礎的検討を行うことならびに、サル類の輸入の実態を知るための調査を行うことを目的とした。
研究方法
フィロウイルスの血清学的検出に関しては蛍光抗体法(IFA)、ウエスタンブロッティング(WB)、免疫沈降法(BIP)について、またBウイルスに関しては酵素抗体法(ELISA)並びにWBについてその有用性を検討した。また、どちらのウイルスに関してもウイルス遺伝子をPCRにより検出すべく基礎的検討を行った。これとは別にタイレリア原虫による免疫修飾の機構を解析するためにマウス及びウシリンパ球に対するマイトジェン活性を3Hチミジンの取り込みを指標に測定した。一方成田空港におけるサル類の輸入実態に関する調査を行った。
結果と考察
エボラ及びマールブルグウイルスの血清学的検出はバキュロウイルスベクターを用い昆虫細胞でNP遺伝子を発現させ抗原とした。IFA、WB、BIPを比較したところBIPが感度および特異性の両者で優れていることが判明した。またいずれのウイルスでもNPのC末端側の親水性領域を大腸菌で発現させた場合に有効な抗原になりうることが示された。ヒトにおけるBウイルス感染の診断にはヒト血清からHSV-1と交差する抗体を除去する必要がある。今回WBに先立って市販のHSV-1用CF抗原で吸収すると完全に除去されることが認められ、この方法によりBウイルスに対する抗体を特異的に検出することができる可能性が示された。エボラウイルス感染サルの血清からRNAを抽出しRT-PCRで検出を試みたところ、非働化していない血清からはウイルスゲノムが検出できた。しかし56℃、30分の加熱による非働化を行うとウイルスゲノムの検出が極めて困難になることが判明した。Bウイルスに関してはMBA社から入手した精製Bウイルス抗原から抽出したDNAならびにHSV-1DNAを鋳型にPCR-RFLPを行ったところ、両者を区別できることが示された。また、近縁のいくつかのヘルペスウイルスをPCRマイクロプレートハイブリダイゼーションにより特異的に検出することを試み、この方法も有望である可能性が示された。さらに、米国オクラホマ州立大学並びにVirus Reference Laboratoryとの共同で、筑波医学実験用霊長類センターで管理されているBウイルス抗体陽性カニクイザルから得た三叉神経節についてPCRによりゲノム検出を試みたところ数例で陽性となった。RFLPのパターンからBウイルスである可能性が高いと判断された。精度コントロールを厳密に行えばPCRはウイルス検出に極めて有用であると考えられる。一方、原虫の不顕性感染の機構を明らかにする第一歩としてタイレリア原虫をモデルとした免疫修飾について検討したところ、当該原虫感染赤血球からの可溶性抽出物がマウス及びウシのリンパ球に対してマイトジェン様活性を示しIL2とIFNガンマ産生を促すことが明らかになった。また、この活性は分子量およそ32Kdの蛋白によることが明らかとなった。他方、成田空港における霊長類の輸入実態の調査を行うべく関係機関との調整を行い、当該目的での調査への協力を取り付けることができたと同時にこのような調
査を行う上での問題点も明らかとなった。
結論
ヒトに感染する恐れのある実験用霊長類由来の人獣共通感染症のうち特にフィロウイルス、Bウイルスについて血清学的、分子生物学的診断法の確立に向けた基礎研究を開始し、いくつかの有望な方法を見いだした。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)